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"記録だけでは漏れ落ちてしまう人々の想いがあるから、物語がそれを拾う"

年表上の出来事を淡々と覚える歴史の勉強が、すごく苦手だった。先生が一生懸命、流れにして教えてくれても、なんだかいまいちピンとこなかった。

当時の自分はきっと、歴史が起こった背景や、その時を生きる人の心の揺れ、共感できる考えなどが見つけられず、ただ単純に「覚えるもの」としかとらえられなかったのだと思う。

"人は記憶をなかなか引き継げない。だから僕たちは記録を大事にする。しかし、記録だけでは漏れ落ちてしまう人々の想いがあるから、物語がそれを拾う。"
(「映画『タクシー運転手』神話の構造と実在のタクシー部隊」より)

人々の想いがのせられているから、物語は深く心に突き刺さる。

高校時代、日本史も世界史も単純な丸暗記でしかなく、教科書や与えられた資料以外は見たこともなかった。さらに自分から情報を取りに行くこともしたことはなかったのに、1980年に韓国で起こったの光州事件について、自発的に、そして夢中で調べてしまったのは、映画が私に"物語"を運んでくれたからなのだろう。

俳優のソン・ガンホがにこやかな表情で車の外に顔を出し、歯を見せて笑っている。光州事件のリアルを、事実をもとに描いた映画『タクシー運転手~約束は海を越えて』のジャケット写真だ。

この写真しか知らなかった私は「感動モノか、コメディかな」くらいで見始めたのだが、中盤から壮絶な映像ばかり。コメディ要素もあったのだが、衝撃が大きすぎて笑うどころではなかった(とはいえ少しコメディが入ったおかげで最後まで見れたと思う)。

時代背景が全くわからなかったので、一度映画を止めて、映画のテーマである光州事件について調べる。日本はどうなんだろうと比べながら考えるも、社会情勢や歴史にいかに無頓着だったかを知るだけだった。

映画の中で描かれていたのは、市民に対する残虐な殺人、軍による情報の規制・操作……まるでそれは戦争映画のよう。たった40年前の出来事で、同じ国民同士こんなに酷い争いがあったのか……と、見終わった後も他のことが考えられず、映画に関連する記事を読み漁っていたところで冒頭の言葉に出会った。

物語の力は、こんなに自然と人の行動を変えてくれるのか。

人が自発的に動く動機は、きっと記録では足りないのだと思う。たとえば第二次世界大戦について、絶対に繰り返してはいけないものだと感じられるのは、やっぱり『火垂るの墓』や『この世界の片隅に』などの物語が、戦争をリアルに知らしめてくれるからだ。タクシー運転手はまさに、物語を通して人を動かす力のある映画だった。

公開当時に見たわけではなく、AmazonPrimeVideoで見れるようになってからの鑑賞だったけれど、もっと多くの人にこれを見てもらえたらいいなと思う。

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