シラミ 【エッセイ】

6歳か7歳のころ、
私はお風呂が嫌いだった。

シャワーキャップから水が漏れて
鼻や口に入って息苦しいし、
シャンプーとリンスが目に染みる。

それから
タオルでごしごしと体を洗うのも痛かった。

お風呂が熱すぎるのもイヤだった。
それなのに何分も入っていないといけなかった。

そんなだから、
私はお風呂に入らなくなった。

そして汗と汚れとで髪の毛が絡まって、
ブラシで梳かすのが苦痛になった。

だから
髪の毛を梳かすこともしなくなった。

いつも頭が痒かった。

頭に虫のようなモノがいたが、
そんなことよりも
お風呂に入るのはイヤだった。

ある日
学校でシラミ検査があった。

教室で一人一人の頭をチェックをするやり方だった。

私は保健室に呼ばれた。
みんなの前でシラミがいると言わない配慮で。

私の親しい友人も呼ばれた。

シラミは虫だから、
頭から頭へ移動する。

私から友達に移ったことは
きっと誰もが気付いていた。

でも先生も友人も何も言わなかったし、
私も何も言えなかった。

まさか頭にいた虫がシラミだったなんて、
それが友達に移るなんて。

それからシラミ退治の薬と目の細かい櫛で、
頭を毎日、洗った。

シラミ退治の薬は独特のきつい臭いがした。

その薬を頭に塗り込んでいると、
目が染みるような感じだったのを覚えている。

そんなことがあって、
私は毎日お風呂に入るようになった。

あの薬を頭に塗り込んでいる時ほど
みじめで恥ずかしいことはないと思ったから。

母も素直にお風呂に入る私へのご褒美か
あるいは罪悪感や義務感からか、
毎日、泡風呂にしてくれた。

それから、そのアワアワを
髪の毛にたっぷり付けて
いろんなカタチをつくってくれた。

「今日は何つくる?」

きゅうり
なす
とまと

そんなリクエストして
母につくってもらった。

母に頭を優しく触られるのが心地よくて。

色んなカタチになる髪の毛が面白くて。

そんな形をつくる母がすごくて。

お風呂の時間が好きになった。

いつから、
泡風呂じゃなくなったんだろう。

あの素敵な時間は
あまり長く続かなかった気がする。


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