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「鈴鹿・四日市の“土地柄”も音楽にフィードバックしたい」ーーYUKSTA-ILLのレーベルWAVELENGTH PLANT。そのドアはフッドのためにいつも開かれている

2023年2月にYUKSTA-ILLのTwitterアカウントで突如アナウンスされた、自身のレーベル設立のニュースに驚き、同時公開されたWAVELENGTH PLANTのWebサイトでステートメントを確認し、必ずしもRC SLUMを離れたわけではないことに安堵した人も多いことでしょう。

WAVELENGTH PLANT第1弾のリリースとなる自身のフルアルバム『MONKEY OFF MY BACK』のプロモーションのために東京を訪れていたYUKSTA-ILLにこれまでも地元に根ざした活動を続けてきた彼がなぜレーベル設立に至ったのか、話を訊きました。

*『MONKEY OFF MY BACK』のプロモーションをA&Rとしてサポートする
 WDsoundsの主宰者LIL MERCYが同席して取材を行いました。

YUKSTA-ILL

ーーご自身のレーベルWAVELENGTH PLANTの設立、おめでとうございます。設立にあたってRC SLUMという“実家”を出て、まず“一人暮らし”から始めるとサイトでもおっしゃっていますが、そのあたりも含めて、詳しくお話を伺えますか。

YUK:ありがとうございます。RC SLUMは“ファミリー”だと思っていて、“住所”であり、まさに“実家”なんです。
もう今は誰も言わないですけど、昔、TYRANTでやってたころはよく「名古屋に引っ越して来いよ」なんて言われてました。“地元は出ずに地元を出る”…その感覚で名古屋にいるんですよね。でも、自分はずっと三重に住んでいて、リリックも“三重”な内容が多いはずです。

ーー“三重”な内容というと…?

YUK:『NEO TOAKI ON THE LINE』の「HOOD BOND」で描いたような街のことだけでなく、自然に染み込んでいるブルーカラー的な要素ですね。ハードワークをやり抜く粘り強さや泥臭さ…そんなものだと捉えてください。
自分の地元、鈴鹿・四日市って工場が沢山あるから、九州や東北、日本全国から出稼ぎにきてる労働者が結構いたりするんですよ。クラブにそういう人達が迷い込んでくることがもたびたびあって、思いがけない出会いとかがあるから面白い。こういう“土地柄”も音楽やレーベルにフィードバックできたらいいなと思ってます。

「FIVE COUNT」

ーーYUKさんの生真面目さのルーツでもありそうですね。実際に動き出すことになったきっかけは?

YUK:
今回、アルバムをどういう形でリリースするかMERCYくんに相談したときに「自分でやるのがいいんじゃないか」って示してくれて。すごくしっくりきたんですよね。キャリアは長いので、ずっと同じやり方をしていると、現状維持イコール停滞というか、下降していくというか…。そう感じていたんです。

ーー低いところで安定してしまう、ということでしょうか?

YUK:今までやってきたことにも意味はあります。常にやり続けることに加えて、新しいことに挑戦するって意味でもしっくりきたし、「地元は三重」って以前から言い続けてるけど、もっとそのこだわっているものを明確にしたい、なにかをローカルに還元したいという気持ちがありました。
三重のカラーをもっと色濃くするために、って漠然としたイメージからスタートしていて…だからWAVELENGTH PLANTは自分が始めたレーベルだけども、本当のところ“個の名前”は伏せておきたいぐらいで、地元にいるみんなのためのものでありたいと思ってます。

ーー『UG NOODLE/ポリュフェモス』をリリースしたあたりから、RC SLUMがATOSONEさんの“セレクトショップ”的な色合いが強くなってきたことも関係していますか?

YUK:自分の音楽性をもっと突き詰めて追求するために別のアクションをとってみようと思った部分もあります。
確かにRC SLUMは東海、名古屋を中心としたレーベルから少し変わってきてる。悪いことだとは思わないし、今も昔もクオリティの高い作品をリリースしてると思います。
“オリジナルRC”がMIKUMARIやMC KHAZZ、自分だったりということは変わらないんですけど、ATOSはエリアレスにこれまでよりも広い視野で若いラッパーやアーティストをフックしています。

ーー新たに「WAVELENGTH PLANT」というタブやラベルが増えたような…

YUK:はい、そんなイメージです。“オリジナルRC”はどこで何をやろうともRC SLUMだと思ってます。自分としてはATOSがお店だったり、服のブランドを始めるのと同じ感覚ですね。

YUKSTA-ILL

ーーレーベルとしての対応も今回はご自身でされているんですよね。

YUK:MERCYくんにいっぱい質問のメールを送りました。お店に納品する時、納品書と領収書を用意するものだと思っていて、CDと一緒に事前にパックしちゃって、あわててやり直しました。

MERCY:領収書でもなんとかなるかもだけど、納品書と請求書が正解です(笑)

YUK:そういうことを今、まさに学んでいる最中です。店頭で直接自分が納品するケースを除いて、これまでMERCYくんやATOS、P-VINEの方が対応してくださっていたんだと改めて感謝してます。
ちょっと違うかもですが、MASS(-HOLE)くんに「1982SのパーティでDJやってみてよ」って誘ってもらって初めてDJを経験して、いかにレコードが繊細なものか思い知ったというか…どれだけDJが偉大なのかを理解できたときみたいな気持ちです。

MERCY:レーベルを運営するならば、フィジカル・配信どちらでのリリースでも、いわゆるプロモーション、出したことをみんなに伝えることは大切だし、難しいことでもあって。今回はA&Rとしてサポートさせてもらってます。

YUK:アーティストとしては『NEO TOKAI ON THE LINE』の時も、『DEFY』の時もプロモーションをしっかりやるっていう経験はさせてもらったんですが、今後はさらに対応する内容が増えるんでしょうね。

ーーMERCYさんからレーベル業務の“いろは”を教わってるんですね。

YUK:サポートしてもらって、本当に感謝してます。

MERCY:YUKに質問されることで、あらためて仕事を見直すことにもなってこちらも勉強になるところがありますよ。今回みたいにA&Rとして、WDからリリースしていない音源のプロモーションだけを手伝ったりすることも多いし。

ーー「WAVELENGTH PLANT」という名前からは海岸沿いにプラントが並んでいる四日市の風景を連想しました。

YUK:WAVELENGTHには“波長”って意味とあわせて、“個人の考え方”っていう意味もあるんです。ロゴは波形のコンビナートっていうイメージでデザインしてもらいました。こっち、下のほうが水面ですね。

WAVELENGTH PLANTロゴ

WAVELENGTHは自分の中で大事にしたい言葉で、ぱっと出てきた訳ではないです。
イメージしてもらったとおり、工業地帯をイメージして“WAVELENGTH PLANT”という言葉に行きついた感じです。

ーーYUKSTA-ILLと一緒に何かやりたいって思っている人にとって、ダイレクトにコンタクトできる状況は嬉しいですよね。

YUK:そのためのプロセスだからドアはいつでも開いてます。

MERCY:WDsoundsも若い子から音源もらったりしますよ。本当に一緒にやるかはまた別の話だけど、「良いな」と思ったらライヴを観に行ったりはしてます。2、3回もらったりすると「あ、これ前にいいと思った人のだ」とかちゃんと覚えてます。
コロナでの断絶が間違いなくあったけどちゃんと続けていることがわかると嬉しいです。中には音源の最後で「DNCみたいなトラックを作れるようになりたい」なんてラジオみたいにコメントしてる人がいたり、いろんなことが変わってきてるんだなって感じます。
影響を与える立場にあることをあらためて意識して、責任がより大きく、増えていくように思うこともあります。憧れてもらえているんだから、期待にこたえていかなきゃいけないし、それができないときはやめるべきだとも考えますね。

YUK:行動にともなう責任は常にありますね。いい意味で追い込むようなものがないと「暇だ、暇だ」と言ってるだけじゃ人間は輝けないのかな、って。

MERCY:あるラッパーが今、作ってる新しい曲に「暇だからって休日出勤やめろ」っていうリリックがあって。

YUK:それヤバいっすね。

MERCY:そんなことするよりも、自分のことをやれってことですよね。暇な時間を持て余してる人のせいで、ほかの人に余計なプレッシャーがかかってるってことでもあるし。

YUK:人生を豊かにしていきたいですね。そのリリックは核心をついてると思います。

MERCY:こういう言葉を届けることに協力していきたいですね。

ーーWAVELENGTH PLANTをどんなレーベルに育てていくおつもりですか?

YUK:たとえば若くてやばい才能を見つけたらどうするか。その時にレーベルがあればもっとダイレクトに自分から東京や全国に発信したり、直接連れていくこともできるじゃないですか。
あと、地元から外に出なかったり、積極的に動きを見せてないだけで、もっと知られるべきアーティストが三重には多く眠っています。そんな人達にもスポットライトを当てられるようにしていきたいですね。まぁ、まずは自分のことをやらなきゃなんですが(笑)。

ーー確かにローカルなシーンにはデモ音源を作ってもなにもアクションをしない人がいますよね。あえて自分から外に出ないところも魅力でもあるんですが…。

YUK:単純にどうしていいかわからなかったり、その一歩が踏み出せないだけだったりもする。でも、その一歩が踏み出せたら、それまでとは世界が変わるってことを伝えたいです。
曲があるのにもかかわらず、リリースしないという選択肢は自分の中にありません。「なんでなの?!もったいない!」としか思えない。“自己満”で完結する人がいるのも分かります。ただ、そうでなければ力になりたい。それは近くにいる人間がやるべきだとも思ってます。

シングルの「FIVE COUNT」や、アルバムにも何曲かトラックを提供してくれているUCbeatsはまさに、鈴鹿のゑびすビルの裏にあるスタジオにこもって制作ばかりしてます。発信することにはあまり重きをおいていないタイプですね。

それから、アルバム収録曲の「SPIT EAZY」でフィーチャーしたGINMEN。彼はラッパーですが、昔の自分の楽曲「CAN I CHANGE」(『QUETIONABLE THOUGHT』収録)、「HOOD BOND」や「TO MY BRO」(それぞれ『NEO TOKAI ON THE LINE』収録)のトラックを作ってくれてたり、マルチな才能の持ち主なんです。全国的にも有名な鈴鹿のハードコアバンドFACECARZでベースを弾いていた時期もあって、地元では欠かせないキーパーソンのひとりです。ただ、しっかりとしたキャリアはあるけど、自身の音源リリースがなかったりするんですよね。

YUKSTA-ILLインタビューは『MONKEY OFF MY BACK』にフォーカスした後編(4月21日(金)の夜に公開予定)に続きます。


お待たせしてしまいますがその間、公開された新アルバム収録曲「TBA」のMVで、さらなるYUKSTA-ILLの世界を味わっていただれば…。

また、過去作リリースの際に行ったインタビュー記事もあわせてご覧ください!(ゑびすビルの謎も解けるはず…)

(取材・文 服部真由子 for mi hija)