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恋愛珍道中(2)

今までの彼氏っぽい人(既婚者、ストーカーなど)+今回の人を見て、自分で選ぶより他人に紹介してもらった方がいいのではないか。
と、考えた。

前職では周りのおじさん達が「この人いいよお」と推してくれてる男性が隣の部署にいて、お祭りなどのイベントに何回か他の社員含めて一緒に行った。
周りの人が気を利かせてくれて、ふたりでお茶をする機会も何回かあった。会社では荷物を持ってくれたり、扉を開けてくれたり、農家出身の堅物系の彼が照れながら色々やってくれるのは素直に嬉しくて、「将来この人と結婚するのかなー! ワクワク」とか思っていた。
しかし、ふたりだと話しが一切弾まない。彼の額がどんどん汗だくになっていく。顔色も、真っ赤を通り越して浅黒くなっていく。
そんなところも素敵だなあと、"思っていただけ"の私が悪かったのかもしれない。当時の私はニコニコすることしか出来なかった。
彼の方は居心地が悪かったようでそのうちちょっと避けられるようになってしまった。
今でもたまに、彼の素敵なところをたくさん声に出しておけば違ったのかなとか思う。
全国に支部がある会社だったのだが、後輩が悩んでいると言えば東京から北海道まですぐ飛行機の手配をして、その日のうちに飛んでいくような男気のある人だった。

とにかく。
誰かに紹介してもらおう!
会社の上司と、女の子のグループに声をかけて男性を紹介してもらった。
偶然なのか、同じ男の子を紹介された。
私の3つ下で、帰国子女で高校生までアメリカにいたらしい。ゴールデンサックスマンを退職してこの会社にいるとのこと。身長は185cmで大柄。
紹介された時は何とも思わなかったが、その後会社の行事でフットサル大会に出た時に彼の匂いがふわっと香って、クラクラした。
当時私は漫画家の島本和彦のラジオにハマっていたのだが、声や喋り方が島本和彦だった。

(久しぶりに聞くと、そっくり〜懐かしい〜)
ああ、これはヤバいやつだぁ…と思った。
でも、多数の人がお勧めしてくる人だし…、いい人だといいな。

フットサルの後の飲み会では、周りが彼を私に紹介した人で固まっていたので隣同士に座らされた。
匂いがずっと鼻につく。溶けちゃいそうな、理性を全て持っていかれるような体臭がした。

年末だったので、年末年始をどう過ごすのかという話をみんなでしていた。
私は普通の休みと同じように家にいるだけだと話した。
彼…仮に島本くんとしておこう。島本くんは「え、予定ないんすか? じゃあ、初詣いきましょうよ!」と言った。
年末年始は1年で1番寂しい時だ。素直に嬉しかった。
「いいの? ありがとう」
ヒューヒューと囃し立てる声がした。

覚悟はしていたけど、初詣で襲われそうになった。
エレベーターの中で力任せに押し倒された。ちょっと怖かった。
「彼氏でもない人とそういうことはしたくない」と言うと、彼は「じゃあ、付き合ってください」と言った。
いいのかな、と思いながら、まあそんなもんなのかなと思って承諾した。

彼は付き合うなら、会うのは月に1回か2回がいいと言った。
土日は友達と遊んだり家族と会いたいので、平日の夜に夕飯に行ってホテルに行ってお互いの家に帰るのが1番ストレスがないのだと。今までの彼女もそうしてきたと言う。
そして、彼女達はみんな浮気してたんだ、だから女なんかもう信じられない、と暗い顔で言った。

それは……浮気相手だったのは島本くん、君なのでは。
と、思ったりした。

島本くんは同じ会社の人なので、たまに会社でばったり遭遇することもあった。
エレベーターの中で鉢合わせるとドキドキし過ぎて、そのままエレベーターを降り忘れたりした。次の階が指定されないまましばらくするとエレベーターって消灯するんだ! と、どうでも良いことが分かった。
会社から歩いていける距離に彼の家があったので、会社帰りにご飯を食べて彼の家に泊まることが多かった。
彼の側にいると恐ろしくよく眠れた。体が脱力して、お酒も1杯で酔ってしまう。
彼は一緒にいる間、漫画を読むかゲームをするかだった。そんなゆるゆるな時間が心地よかった。
当時でも毎日2時間座禅をしていたのだが、彼に合わせるために座禅をやめることにした。ダラダラと惰眠を貪るために。背筋を伸ばしていたら彼と並べないと思った。

島本くんは約束を破ることが多かった。
いつも彼の家なので今度は私の家でご飯でも食べよういうことになり、昼食を作って待っていたが連絡がつかない。
夜の22時過ぎに「今日はどう過ごしてたの〜?」と私のLINEをガン無視したメッセージが来る。
私は電話をかけた。他愛ない話で談笑した後、
「今日って、うちに来るって言ってなかったっけ?」
「そうだね!」
忘れたのかなと思って聞いてみたが、意識にはあったらしい。
「え、なんで来なかったの?」
「うーん、気分じゃなかったからかな」
「料理も作ってたし…連絡も何度もしたのに…返事してくれたら私だって遊びに出かけられたんだよ。何で連絡くれなかったの?」
「えー、気分じゃないなーって思って、それで伝わると思ってた」
「それは…私はエスパーじゃないから無理じゃないかな…」
「てか何で責められないといけないの」
「えぇ…約束して何の連絡もなかったら、普通こうなるんじゃないの」
「何それ、仕事? 嫌なんだよね。お互いの気分が乗った時だけ会いたいじゃん。それにみぃさんは俺と会う約束をしてたんだから他に約束がキャンセルになったとか、被害は受けてないわけでしょ? それなのに色々言ってくるの、感じ悪いよ」
世の中にはそんな風に考える人もいるのか! すげえな!! と、はるのは思った。
「いや、私のお休みの1日が潰れて被害被ってるやん」
「だからさ、誰にも迷惑かけてないじゃん」
「私に迷惑かかっとるわ」
「だからそれが意味分かんないんだけど。気分悪いから切るわ」
当時の私はイラつくとか悲しいとかより、この人会社で大丈夫なのかな…心配だわ…と本気で思った。

またある時、彼の家の最寄りで待ち合わせをしていた。
今日はこれから映画を観に行く予定だ。色々前例があるのでチケットの事前予約はしていない。
今日も今日とて、待ち合わせ時刻から30分音沙汰なし。ここから彼の家まで往復してもまだ余る時間だぜ。
電話しても出ない。寝てるのかな? と思ったので彼の家まで行ってみた。
チャイムを押すと彼は満面の笑みで出迎えてくれた。
「わー! どうしたの?」
「真夏に40分駅で待ってるのがキツいから来たよ。12時に集合って覚えてる?もう13時なんだけど」
「ちゃんと覚えてるに決まってんじゃん! 俺これから風呂入るから、みぃさんはその辺で漫画でも読んでてよ」
え、これから風呂入るの…?! 今まで何してたん? と思いつつ、とりあえず待つ。
そこから髪のセットをして、服をあーでもないこーでもないとやり、約1時間で出かけられるようになった。めっちゃ時間かかるな。私なんか起きてから15分あれば出れるぞ。
「もう14時じゃん。お腹すいたー」
「そうだね〜何か食べに行こうか」
近所のマーケットのキッチンカーでご飯を食べることにした。
島本くんは機嫌がいいと家でも外でも大声で歌う。いろんなモノマネもする。夜なら酔っ払いみたいで紛れる気もするけど、昼だとちょっと周りの目が気になるなあ…。

外食は基本的に彼が奢ってくれるので、昼も夜も1,000円前後で食べれるところに行っていた。
今日は700円のカレーを食べていたら島本くんから「みぃさんってキャバ嬢みたいだよね。人の金でいつも飯食ってるけどさー、恥ずかしくないの?」と言われた。
映画代とかは私が払うようにしていたけど、奢られるのは控えた方がいいのかなと思った。

その後映画を観に行き、島本くんはお茶をしようと言った。
イートインスペースでここの中華がめっちゃ美味しいから食べてほしいと言われた。
最初はお茶くらいなら…と思ったけど、彼はがっつり中華を注文している。てかお茶なんてメニューがない。さっき食べたばかりだからキツイな…と思いながら合わせて食べる。
ちょっと歩こうよ、お腹いっぱい…と提案して離席すると、5分もしないで「ここのドーナツ食べよう!」と島本くんが立ち止まった。
アメリカから輸入したドーナツ系…で、でかい…甘いものも得意じゃないし、この短時間で2食分も食べたので匂いだけでも吐きそうだった。
ドーナツを結局食べたかどうかはよく覚えていない…。

日が暮れてきた頃に島本くんの携帯に彼の母親から、今近所にいるから買い物を手伝って欲しいと連絡が入った。
「すぐ終わると思うからみぃさんはこの辺で適当に待っててよ」
「え、この時間なら夕飯とか食べるんじゃないの。帰るよ」
「抜け出してくるから大丈夫〜!」
そう言って駆けていく。私は「絶対にもう連絡ないな」と思ったので帰宅した。
一応2時間後と4時間後に連絡はしてみた。既読もつかなかった。

ある日ふたりで旅行に行った。
彼は父親を尊敬していて、家族旅行に行った時の工程が素晴らしかったのでその通りに動きたいが自分の稼ぎではこんな宿は取れない…と嘆いていた。
私はキャバ嬢と言われたのが引っかかっていたので、なるべく安いところを検索してみた。
「国民宿舎っていうのがあるみたいだよ。見てみて、なんかすごくない?」

部屋も広いし1泊2食付き、温泉付きで1万円くらい。風変わりな外観も面白いし、いいじゃん! ということでここに宿泊することにした。
彼は旅行中もずっと、父はこうした、父はここを選んだと言っていて(父がアテンドすると1泊10万くらいのところに泊まるらしい。移動はもちろんタクシーだ)、最終的には家族旅行の方がやっぱり楽しいな〜と言っていた。
彼は人生の間で親からもらったものが多過ぎて返せないので、一生家族最優先で動くと決めているらしい。
外国にいた時は専属のマッサージ師や調理師が常駐していたらしい。どんな家だったんだろうか…。
ぼんぼんも大変だなあと思った。

宿舎の食堂には大きなピアノがあり、子どもたちが弾いてるのを押しのけて彼が弾き始めた。
大人気ないなあ…と思ったけど、まあ楽しそうだからいいのかなあ…。とりあえず親御さんには私の方で謝っておく。

受付では色々ボードゲームが貸し出しされていて、私たちは将棋を部屋に持ち帰った。
お互い小学校振りだね〜とか言いながら将棋を指し、彼の…あまりの弱さに衝撃を受けた…。素人同士とはいえ、こんなに簡単に王将って取れるんだ…と言う感じだった。
彼は彼で何で私がそんなに強いのか混乱しているようで「みぃさん…もしかして、頭が良かったの? ずっと馬鹿だと思ってたのに…。え、じゃあ全部、分かってたの…?」と口走った。
「分かってた…って何を?」
「俺が言うこととかやること、分かってて、裏では笑ってたんでしょう」
混乱したり悲しくはなったけど、笑ってはいないけどな…?!
「こんなのは絶対おかしい。将棋勉強しよう」と将棋アプリを入れていたので、私も一緒にゲームしたいなと思って同じ将棋アプリを入れた。
旅行中、彼が携帯をいじってる間私もずっと将棋アプリをやっていたけど、翌日彼はもう将棋に飽きていた。

旅行の後、彼はとんと元気がなくなってしまった。
いつも以上に携帯をいじる時間が増えた。
夕飯中もずっと携帯をいじっている。しかし店員さんが来ると親しげにずっと話している。
「島本くん何のゲームしてるの?」
「ゲームじゃないよ、お母さんとLINE」
「え、ずっと?」
「うん、電車からずっと」
きしょー…と思ったが「仲良いんだね〜」くらいに留めた。
「今まで付き合った彼女は、こういう俺のこと可愛いねっていってくれたもん。何で可愛いって言ってくれないの?」
頬を膨らませてぷんぷんして、また携帯に視線を戻す。
まあ…セフレだったらどうでもいいだろうし、そんな感じであやしとくのかな?
ふたりでご飯を食べているのに、ひとりで食べるより寂しいってことがあるんだなあと思った。

帰り道、彼を紹介してくれた女友達に、食事中もずっと彼はLINEばっかりで悲しい。と、泣きながら連絡をした。
友達からは「紹介した私に対しての文句ってこと? …めっちゃムカつくんだけど」と返ってきて、それきり連絡をしてくれなくなった。
愚痴ってばかりで申し訳なかったな…と思った。

こうやって振り返って書くと、それはよく付き合ってたね…としか感想が出てこないのだが(実際当時もずっと周りから言われていたし、楽しい話をしろ! 暗い話ししかなくてしんどい! と言われていた)、彼の手を握るとドキドキがこっちまで伝染してきそうな程何かが伝わってきて目が眩んだし、くまさんみたいに大きな体に抱き締められるのは好きだった。

日曜日、突然彼から電話が来た。
「珍しいね、急に電話なんて」
「うん、なんかねー、俺たち別れない?」
私はその言葉を聞いたら、自分でもよく分からないが、大きな声でわんわん泣いてしまった。
5分くらいえーんえーんと泣いた。

あんまり楽しい話じゃないので、次回に続く!
ちなみに会社でこの話をしたら「はるのが振るんじゃないんかーいっ!」と総ツッコミを受けたのは良い思い出です。

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