恋愛珍道中(1)
20代半ばの時、初恋の人と完全に気持ちが切れた後、心機一転、婚活アプリに登録したことがある。
結論は、誰と付き合えばいいのか全く分からなかったのでやめてしまった。
写真とプロフィール、メッセージのやり取りだけで人間性は分からない。みんな盛り上がるし、みんな素敵な人生を歩んでいるなあと思った。
会ったら何かしら分かるだろうか? と思い、会いたいと言われれば全員に会いに行ってみた。50人以上は会ったと思う。
7割の人にサクラだ、幾ら金をもらっているんだと出会い頭に非難された。2時間ほど一緒にいた後も、あなたみたいな子が楽しく俺の話を聞いてくれるなんておかしいんだ。…結婚詐欺師なのか? と、容疑が重くなっていた。
酷いのになってくると、軟禁されたり薬を盛られたりした。
駅ビルで待ち合わせを指定されたと思ったら、ブランドの店の前で「幾ら買ったら彼女になってくれるんの? 金目(金目当て)でしょ?」と、カバンやら時計やらを見せられた。
当時、洋服屋さんに入ったらゴミみたいな目で見られるんじゃないかと怖くて服屋にも入れなかった私には、真っ青になるような提案だった。
こんな高級ブランド店に私なんかが入ったら逮捕されない…?
とりあえずそんな時は「まだ知り合ったばかりの人にこんな高価なものを渡しちゃダメだよ。ちゃんと大事にしたいと思った人のためにお金は取っておいてください!」と言って絶対に何も買わせなかった。あとで刺されたくないしね。
「あなたの言うことなら何だって聞くよ! だって可愛いから」
「どんなわがままでも叶えるよ、彼女になってくれるならね」
こんなことを浴びるように言われた。
非常にもやもやした。
この人がどんな人か知りたいのに、結婚するかもと思って来てるのに、全然相手のことがわからない。
毎日10人くらいにナンパされて、会社でも何人もストーカーまがいの男がいて…みんな、それは私の容姿のせいだという。
稀にとても素敵な人がいた。向こうも私に乗り気なようだ。
そうすると決まって「お互いの友達も呼んで会わない?」と言われる。
と、友達…?! 私に友達なんかおらんけど! でもそんなこと言ったら引かれるかな…。
黙ってる間に、向こうが苦笑して話が流れる。
そんなことが2回あった…。
20代で恋は難しいのかな…と思った。
容姿が崩れてきた30代になったら、人間性みたいなものを見られるだろうか。まずは友達も作らなくちゃいけないかもしれない。
私は婚活をすっぱりやめた。
その後、実際には29歳くらいから婚活を再開した。
とりあえず誰でもいいからまずは付き合ってみようと思って、最初に告白された人と付き合ってみた。
その人は10歳年上くらいの整体師で、いろいろな地方で講演もしているとのことだった。
私も当時、会社が終わった後に整体師として働いていたので話が合うかなと思った。
最初のデートの日、花火を見に水族館へ行った。
彼はとんでもなくふにゃふにゃと動く。酔拳のような動きとでも言えばいいのだろうか…。そして手をバシバシ叩きながら、大声で整体について語った。
周りの迷惑になっていないかとてもヒヤヒヤした…。
椅子に座ると、グターッと突っ伏してしまう。
恥ずかしい…。と、私が赤くなってしまった。
久しぶりのデートなので、私はヒールの高い靴を新調して来ていた。足が痛い…。
ショッピングモールで、彼は酔拳のような足取りで何かを大声で喋りながら歩いて行く。私が靴の留め具が取れたので直しているのにも気づかず歩いて行く。
(これ、声かけないでずっと眺めてたらそのまま消えていくんやろか…)
そう思って眺めていたら、普通に見えなくなった。
しばらく足が痛いので近くのベンチで座っていたが彼が戻ってくることはなかった。
ひとりで帰って家に着くと、知らない電話番号から電話が来た。
彼に電話番号は伝えていたので、彼かもしれない。
出ると、ハァハァハァと激しい息切れの音がした。彼の声かな? 何とも言えない。
何だろうこれ…と思ってスピーカーモードにして放置していたが、どうやら受話器の相手はマスタベーションをしているようだった。
絶頂までいったらしく、ブチっと電話が切れた。
…付き合ってるなら、そういうものなのか???
イタズラ電話? このタイミングでぇ…?
ぇえ、わからん…。
わからんことが多すぎて、もうどうしていいかわからない…。
とりあえず、彼のLINEと電話(おそらく)をブロックした。
私は何となく、今までまともな恋愛経験のない私にまともな彼氏が出来るには少なくとも7人くらいは経験が必要なんじゃないかなと思った。
ひとり、とりあえず付き合ってみた。
次だ…! 次はときめいてみよう!
こうして私の恋愛珍道は始まった。
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