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第一節【草加】

ある初夏の頃、鮮やかさを増す新緑の柔らかい匂いが鼻を擽る刻。 早朝のまだあたりが明るくなる前に街の外れにある竹林のあぜ道を一人の少女が歩いている。 白いスカーフ、紺の和服姿で歩いているのでいささか目立って仕方ない。普通なら、だが。 この町は私が生まれた時からなにも変わっていない。だからこそどこか寂しく思うのだろうか。 私が変わっていないのに変わったと感じる原因もそこにあるのだろう。 彼女は姿を消し竹林の入り口へと小走りに向かった。 「…はぁ。…あと、3日…か。」 どこに宛て

    • かなで

      プロローグ‐終わりなき日常‐ 「んと。もうこんな時間か。じゃあ今日はこの辺で配信終わります~~!」 時計を確認し、リスナーに呼びかける 「んにゃー今日はちょっと作業があるからねえ。おつのある~!」 〈カチッ〉配信終了 ーーーーーっ 一目散に居室を飛び出し、トイレに駆け込む。 「ーーーっふ…おえ…」 〈けほけほ〉 空咳を吐き出すだけの動作を忙しなく繰り返す。死にそう…死なないけど。 「…あいつさえ、いてくれたら。」 呼吸を落ち着かせ、トイレから出て自室に引っ込む。 「っはあ!

      • 第2節【追憶】

        私たちは竹林の中でしばらく黙って立ち尽くしていた。月影の言葉が私の心に響いた。確かに、あの日常はもう戻ってこない。恩人もいなくなってしまった。それでも、私たちはここにいる。何かを探し求めて。月影は静かに竹林を見つめている。 月影:「草加、あの特別な場所に行こう。私たちはまだ終わりじゃない。」 私は少し驚いて月影を見つめる。彼は何を言っているのだろう。 私:「特別な場所って、何のこと?」 月影:「あの竹林の奥に、私たちが忘れかけていたものがあるはずだ。それを見つけ出すた

        • 向日葵の散る刻に

          ◇主要登場人物 🌸樋坂 海羽(ひさか みう) 零泊学院高等部1年 人間恐怖症・不登校・保健室登校生 コンプレックス:声・背中にある火傷・過去 心を閉ざしている・成績は中の下 失声症 🌙神影 秀誠(みかげ しゅうせい) 零泊学院大学部1年 何事も適当に生きている・人に興味がない 元人間恐怖症で不登校生 大学部で成績優秀・主席 ◆あらすじ 過去の「だれにも話せない思い出」が引き金となり、声が出せなくなった海羽。進学したくなく、通信に通いたかったが家の者が猛反対。仕方なく、県内

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        第一節【草加】

          末来へ羽ばたく{歌詞意訳短編小説}

          著作 星月未羽 夜風に吹かれて僕は先行く君に 「なんで笑ってられるの?」 って呟いた。 だんだんと冷たくなる僕の掠れた声が届いたのかわからないけれど、ふと君は振り返った。 不器用に素直に君の心の思いに触れようと 発した言葉だったから。 「幸せだからじゃないかな?(笑)」 そう君はいつものように笑って言った。 でも何故だろう。いつもと変わらない君の笑顔が陰って見えた。 夜の暗い道なりを二人で歩いていると、【いつも笑う】君の口癖だったはず 『いつか夜は明けるよ』 っていつ

          末来へ羽ばたく{歌詞意訳短編小説}