キレる中高年男性たちが知らない事実

 コンビニでも駅でも家庭内でもすぐキレる中高年男性たち。彼らに救いがないのは、自分を取り巻く環境や社会について正しく理解する術を持たないことだ。彼らはこの先も自分がキレる本当の理由には気付けない。戦後の日本に都合よくちやほやされ、都合よく見放されただけなのに。

日本では1945年~1991年頃までのおよそ45年間、男性にとって忙しくも権威ある安定した暮らしが続いていた。戦後の高度経済成長期、大量の労働者が必要だった日本企業は、終身雇用・年功序列制度によって安定した労働力確保に成功する。しかしそれは男が家を不在がちにするということで、必然的に家事育児は女性の仕事という構造の要因にもなった。収入源を握る男性の立場が強くなるのは当然で、それまでにもあった男尊女卑をさぞ助長したことだろう。

一般的に自己形成は20代前半までに出来上がると言われるが、1991年にすでに20歳を過ぎた日本人男性なら、高度経済成長による恩恵を、自身の優位性と勘違いする人も多かったはずだ。そして社会も意図的に彼らにそう思わせたのだ。よく働いてもらうために。

それが今やどうだろう。彼らの栄光は地の底まで落ちたといっても過言ではない。1991年のバブル崩壊を皮切りに、日本を取り巻く環境は大きく早く変化した。1995年にインターネットが普及しはじめデジタル化が本格化。2009年のリーマンショック。2015年、国連サミットでのSDGsが採択(ジェンダー平等の実現)される。2016年には労働力不足により女性活躍推進法が施行、2017年からの#MeToo運動の影響もあり、日本でも男女平等の動きが盛んになった。45年続いた暮らしのスタイルがたった20年で、終身雇用・年功序列、男性優位の時代から、成果主義、デジタル化、男女平等と、量から質へ大きく変化することになったのだ。

バブル崩壊時すでに社会に出ていた彼らは、デジタル化の波に取り残され、自分より年下の若造が上司となり、昇進できないばかりか、会社では役立たず、働かないと陰口を叩かれ、給与は上がらず、リストラの憂き目にあい、下手をすると再就職も決まらず、家庭では、給与が少なく生活が苦しいのはお前のせいだと罵られ、誰も彼らを尊敬してくれる人はいない。自分は偉いはずなのに。こんなはずではなかったのに。彼らは焦燥し、常に苛立ちを抱えるようになる。

それでも仕事は生活のため必要である。自分の扱いが軽かろうが簡単に会社でキレる訳にはいかない。だが、家庭内や無関係の女性子供といった弱者ならどうだろう。ぎりぎりまで張った弦を開放するのと同じ。彼らはつけ入る弱者を見つけ声をあげたその瞬間に、理性を失い、キレるのだ。そうなるともう制御不能だ。

せめて主張が理論的なら理解も得られるかもしれないが、戦後日本で大量作業要員だった彼らは、基本的に自分の考えを持っていない。逆をいえば古い固定観念に従うことが正しいと洗脳されており、周りにそれを押しつけるだけで中身などない。また、ある程度の暴力性を男らしさと勘違いして育った節もあるため、理論的に理性的に振舞えるはずもない。悲しいのは、同情の余地すら自ら断ってしまうキレるという行為。八方塞がりの彼らは弱者相手にキレるしかない。だがその行為は、暴行やレイプと同じ部類だから仕方ない。いくら正当化しても許されるものではないのだ。

ざんねんながら、わたしも彼らのターゲットになる身である。
実際、何度か理不尽な罵倒を受けたこともある。正直、彼らを理解しても同情する気にはなれない。ただ、この記事を読んだ被害者の方々にこれだけは言っておきたい。被害者側からすると非常に不愉快で屈辱的ではあるが、決して「偉そうにするなよ。役立たずのくせに」と事実を突き付けたりしないように。キレている人間は、ぎりぎりまで張った弦が開放された制御不能の状態。さらに惨めな現実を突き付けてしまったら刺されてもおかしくない。熊に遭遇するようなものなので、とにかく常日頃から目を配り、熊(横柄な中高年男性)には近づかないことだ。日々お気をつけください。

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