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ジョン王初日 2022年12月26日

2年待った甲斐がありました。病んでいるとしか思えない世の中、与える薬もなく、ただ破滅を待つしかないのかと嘆息する日々。それを掻き回して、その時々で動くフィリップをみると、自分ももう少し足掻くこともできるのでは、と思わせられます。  
 
主演の小栗旬くんは、大河を経たからこその見せ場の作り方、空間支配能力が素晴らしかった。演劇の筋肉をまた蠢かすことができて、細胞が震えながら喜んでいると思いました。ただ、悪いクセが出ていて、声を張り上げるところが、緩急や早い遅いがなく一本調子に聞こえるところがあり、もったいなかったと思います。

恐らく、吉原さん代役に決まったからこその歌唱シーンの導入だと思いますが、吉原さんの美声を聞くことができた耳福は確かにありますが、他の出演者は、その域から遠過ぎて、寧ろそちらの失望が残ってしまいました。

ぼたぼたと落下してくる人間は、最初こそ驚いたり、理由を考えたものの、だんだんと麻痺してくる自分にぞっとしてしまいました。同じ死でも、受け流される死と、大ごとになり、周りを巻き込む死とがある現実は、安倍氏の銃殺と誤爆で亡くなってもニュースにもならない無名のアフガン人たちを想起させました。

童謡とフォークソングが、シェイクスピアとどのように親和すると考えて取り入れたのかは、初見では全く分かりませんでした。鋼太郎さんのただの感傷でないことは確かでしょうが、こちらの理解はまだ全く追いついていません。これから2ヶ月かけて咀嚼していくつもりです。

努くんのヒューバート、素晴らしかったです。旬くんのフィリップとのシーンは、蜷川さんも目を細めておられると感じました。

コンスタンスの髪は、連獅子のようでした。「あなたはわたしの全世界」と息子に語るシーンの、あの母の子への想いは、時代や国が変わっても全く変わらないのだと思いました。

せっかくわざわざ初日を27日から26日にしたのに、40歳のお祝い色が全くなかったのは残念です。芝居は、どんな悲劇でも醜悪でも、いったん幕が閉じたあとは、役者としてカーテンコールをしてもらいたかったですし、なんなら生の音楽があったのだから、バースデーソングに合わせて、マスクの下でハミングぐらいしたかったです。子どもっぽいとか、そういうことではないのです。こんなご時世、こんな世の中だからこそ、ご両親の前で、生を受けた日をお祝いすることは、尊いと思うのです。

あと10回行きます。どのように変容していくのか、楽しみにしています。

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