懐メロ、80年代、クルマ。 〜TOPS 『I Feel Alive』 レビュー〜
「ドライブに行きたい」
TOPSが2020年4月に発売した新譜『I Feel Alive』を聞けばふと感じるはずだ。思えば、「ドライブで流す音楽」というのは往々にして懐メロであったり、自分の体にしっかりとしみ込んだ曲を選びがちではないだろうか。少なくとも自分は、ロングドライブの一発目から出来立てほやほやの新譜を聞く勇気はない。でも、初めて聞くこのアルバムはもうドライブに持ち出したいと思っている。
前作「Sugar at the Gate」は空白を活かしたグルーブから、スロウダウンしていくような時間を演出する作品に感じられたが、比べて本作はリズム隊も軽やかになり全体的にテンポがあがった曲が多い。サウンドもシンセイザーがアンサブルに深く絡み、ギターのコーラスサウンド、ボーカルのリバーブ感がポップスとしての爽やかを格段に底上げした、聞いていて風通しのよい演奏となっている。また、妙に切なさを内包するメロディーの構成は驚かされるほどに洗練されており、フレンチなニュアンスも時折覗かせる。ただの80年代の懐古主義ではなく「今現在のミュージシャンの感性」を強く実感させるから、油断できない作品だ。
本作の魅力は、そんな清涼感に加えて耳馴染みの良さだろう。こんな曲をずっと待っていたような、前世で既にどこかで会っていたような、そんな気さえするほど体に馴染みやすく、初めて聞くはずなのにメロディーを口ずさめてしまえそうなことが幾度もあった。現在、80年代の音楽が見直されることによって、聞き手の土壌がしっかり整えられたことも理由の一つかもしれないが、コトはもっと単純で、子供の頃両親と車でお出かけする時にかかっていた「80年代洋楽ベスト」とか、感情の出所は意外とそんなところなのかもしれない。
爽やかさと安心して聞けるリスナーフレンドリーな、いい意味での既視感(既聴感?)がドライブとの相性の良さを想起させるのだろう。
ドライブにまつわる言葉がこれまでの説明でよく出てきてふと思ったのは、音楽と車の関係性ってどうだったのだろう、ということだ。
本作のアイディアの出所である80年代、その頃の車産業について調べてみると、当時の日本の自動車生産台数は世界ナンバー1、売れすぎてアメリカと貿易摩擦を起こしている。まさに自動車業界も黄金期だったと言えるし、日本人としては高級車を持つこと自体がステータスだったようで、「デートカー」という言葉さえあった。もちろん、そんなドライブデートにも音楽はかかっていたのだろう。youtubeで80年代の海外AOR系の楽曲を集めたプレイリスト(ブートなので削除されるかもしれません)を確認してみると、流れるその映像は海などに加えて、ドライブやクルマを想起させるものがよく出てくる。
AORやソフトロック、シティポップといったジャンルが都市生活を前提したものであれば、そこに「運転」という行為も含まれるのは自然だろう。であれば、音楽のスムースなグルーヴとドライブとの相性の良さは当然のことだけれど、かつての華々しいバブルの思い出とはじけた郷愁がちゃっかり日本人のDNAに刻まれてたりするのかな、と妄想したりもする。
(余談ではあるが、yogee new wavesの角館健太が乗っていたVolvo 240セダンも、たしか80年代のクルマであったような)
彼ら(TOPS)の主な活動拠点であるカナダ・モントリオールという街には、AORやシティポップといったジャンルがはたして根付いているのだろうか、少し想像しにくい気もする。しかし、彼らのサウンドが往年のサウンドを踏襲し、アップデートさせていることは間違いないし、そんな音楽が遠い島国に届いて、一人のリスナーの感性と、かつてのバブルの栄光と、あらぬ科学反応を起こしてしまったと考えるほうが面白いだろう。今年の夏はこのアルバムをかけながら、江ノ島などにでも行ってみようか。
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