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解けなかった呪い、その清算。〜The Strokes 「The New Abnormal」 レビュー〜

 The Strokesには解けなかった呪いがある。ご存知の通り「Is This It」だ。20年にも及ぶ長いキャリアを築きながら、その評価軸で多用されるのは未だにガレージ・ロックンロールの復権と称される衝撃の1枚目。その作品は彼らを伝説へと押し上げたが、長いタームで見ればむしろ苦しめることとなったのも事実だ。「Is This It=これなのか?」という、偶然にも問いかける形であったその呪いへの回答は「The New abnormal」で果たされるのだろうか。

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1.これまでの作品の確認と、活動の停滞。

 2020年に発売されたThe Strokesの新譜「The New Abnormal」に至るまでの6作品(シングルを除く)の流れを簡単に確認しよう。
 上述にある通り、2001年発表の1stアルバム「Is This It」ではロックンロールの歴史にその名を刻んでしまう。当時の彼らのファッション(ジーンズにコンバース)をそのまま反映したかのような、究極のスタンダード。今聞いても最先端を感じさせるロックの音像は、未だ色褪せそうもない。2ndアルバム「Room on Fire」ではそのままの方向性を推し進めながら、後に採用される80年代の風味やテクノポップ的な予兆がこの時点で見え始める。
 大きな変化が生じ始めるのは3rdアルバム「First impressions of the earth」からだ。ドラマチックな展開が増え、時にハードロックにすら振れ幅のある、より密度の高くなったサウンドはバラエティに溢れた作品となった。続く4thアルバム「Angles」5thアルバム「COMEDOWN MACHINE」からは初期のストレートさを活かしながらも本格的に80年代的趣味がプッシュされ始め、新たな軸が決まり始めたかに思えたが、2016年のEP「Future Present Past」を最後に作品の発表が続くことはなかった。

 このような来歴とあわせて着目したいのがメンバー間の関係性である。3rdアルバムまではボーカルのジュリアンが徹底的に主導権を握っていたことから、メンバー間に亀裂が走り、その一方でセールスはアルバムを出す毎に下がっていったという。加えてアルバート・ハモンド・ジュニア(gt)がドラッグに溺れてしまうなど様々な理由が絡み合って活動は一旦停止。再始動した4th・5thアルバムからはメンバー全員参加での作曲が始まるが、リリースツアーが行われなかった等、彼ら自身もバンドの状態がやはり健康的でなかった期間があることを認めている。その空白の間にはそれぞれのソロ活動などが活発化したことから、解散は時間の問題かと思われていた。

2.「The Strokes」の良さについて改めて考えてみる。

 The strokesは何故最高なのだろうか。その強みの一つは、ロックの感動を最短距離で届けられる楽曲の構築にある。特に「Under Cover Of Darkness」などは再生ボタンをプッシュして3秒以内にそのテンションが最高点まで到達するような、完璧なデザインが施されているとさえ思う。同時に、あまり言及されていない気がするのだが、曲の切り方も非常にクレバーだ。「Is This It」各楽曲について「曲の終わり方」に着目して是非聞きなおしていただきたい。テンションを最短で100%まで持ち上げ、冗長に感じられる前にスッと切り上げられる潔さこそ、「クール」と称される理由ではないだろうか。

 別の視点ではあるが、2020年フジロックへの出場も決定し「よくぞ戻ってきた」という感傷的な部分の評価も少なくないだろう。ほとんど空中分解したと思われた5人が、ギリギリのラインで耐え切ったという事実そのものがドラマチック、というところである。思えば、彼らにはロックバンドのロマンが図らずも込められていたのかもしれない。
 無駄をそぎ落としたサウンドの絡み合いは、裏を返せば一つも過不足を許さないことだった。カリスマ性のあるジュリアンではあるが、彼の魅力的な声でさえ曲の1構成要素でしかない。そしてそのビジュアルに関しても、平均身長は180cmをゆうに越す恵まれたルックスやファッションなど、無関係なはずもないだろう。5人で「The Strokes」なのだと改めて痛感する。
 はたして、彼らがもし4人であったらどうなっていただろうか。あるいは6人であったら、脱退していたら、メンバーチェンジが行われていたら…
 

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 個人的にお気に入りのMV。後半メンバーが一堂に集結して曲が奏でられる様は、戦隊モノのヒーローが満を持して集結するような、そんな感動がある。


3.「The New Abnormal」は答えになり得たのか。

 「The Adults Are Talking」ではギターをシンセ的な響きで絡めあう差し引きが心地よく、直近の過去2作のアルバムを強く感じさせる。「selfles」の途中のエキゾチックな響きのリードギターは「Oblivius」のアイディアの延長だろうか。リードトラックである「Bad decisions」では往年のロックンロールがストレートかつ軽快に鳴り響き、対照的に「Brooklyn Bridge to Chorus」「At the Door」ではよりシンセサイザーをエフェクテイブに機能させるなど、3rdのメロディアスで重く歪んだギターとはまた一味違ったルートを辿って、バラエティに富んだアルバムに着地したことがわかる。


 一聴した印象では、アルバム全体を貫く統一感については過去の作品と比べてやや劣り、以前のシャープさと比べればこそ「混沌」を含んだ作品となってしまったように思う。しかしどうだろう、曲毎の単位でフォーカスしてみると、過去の彼らのアプローチが1曲1曲に丁寧に落とし込まれて、時に織り交ぜられているのがしっかりと感じられる。これはStrokes自身が、「is this it」に限らず、過去のキャリアを総括して作り上げた作品という証拠だろうか。無理に外側へと新しさを求めなくとも、彼らが積み上げてきたモノにしっかりと向き合えさえすれば、次世代のロックを奏でることができると宣言されているような、まさにバンドが持つパワーの再確認と総決算を思わせるものだ。このアルバムについて、彼らの約20年という歳月を練り上げることによって生成された全曲新曲の「ベストアルバム」と表現するのは言い過ぎだろうか。

 長い空白期間を抜けて「5人」で新たな作品を出したこと。もしかしたらそれは結果として泥臭いチャレンジ(作品)となってしまったのかもしれない。それでも過去を清算し、肯定した前向きな取り組みによりロックバンドとしての歴史を積み重ねた「the strokes」にしか作ることのできないアルバムを作り上げたことは疑いようもなく、それを今はただ賞賛したいと思う。




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