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気の滅入る本

人が瓦解していく、崩壊していくといえば、否が応でもベケットが散らつく、しかし、そこまで完成されていないし高尚でもない、次元は低く下世話でもある、ある意味ライトで逆に説明過多で平凡だ。

果たして、この作家、本物だろうか?と読後も半信半疑のままだ。訳者があとがきに語るような心が軽く救われる心境や喜びが湧くような気持ちにはさらさらならなかった。左巻きになった業界人くずれの使えなくなったインテリ気取りのジャーナリスト臭が強すぎて、文章が素直に入って来なかった。

「自分は、自分の心の許可なくこの世にいる、という気分。正確に言うと、私はずっと、 誰かがきみはここにいたいかい、と訊いてくれるのを待ち続けている。」という『存在許可』待ちの人生。どうしても私には女々しい情けない男・人にしか思えない。そういう作家に限って作中で底辺にありながら、当たり前に自分を実生活でモテている風に描く癖があるようで、読んでいてこちらが恥ずかしくなる。

「陽光が部屋いっぱいに差しこみ、わが綿ぼこり化した人生を白日のもとに晒している。 夏には罪責感がひときわ高まる。なにしろ夜十時でもまだ明るいし、朝は五時から明るくなるのだ。昼はぬけぬけと長くなって、私がいかに無為に時間を過ごしているかを思い知らせる。」

「運命が展開していく、存在許可のない人生が。 頑張らなければならないときには、私はいつも憂鬱になってきた。闘わなければならない、それゆえに気が鬱ぐ。腐りかけた水に膝まで浸かっているような気分になる。」

「すなわち、 教養によるなら私は偉い人であってもおかしくなく、職業によるなら、そうではない。ほんとうに偉いのは、個人の知識と人生での地位とを両方融けあわせることができる人だけだ。 私ごとき、学しかないアウトサイダーは、つまるところ現代の乞食であって、どこぞの隅にいろとすら誰にも言ってもらえない人間である。」

この中途半端な自虐も自慢でしかなく、これは、読まなくても良かった本と言わざるを得ない。ちょうど、コロナかインフルかと38.8℃の熱まで出して慌てて病院に駆け込み検査したところ単なる夏風邪だったものの、久々の寝たきりの体調悪さの中、残念な読書時間となった。気を取り直して、次へ進もう。

https://www.amazon.co.jp/dp/4560090106


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