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読みにくい本

物語という幹があり、それから挿入(差込)される枝があり、さらに分岐していく部分から構成され、それらが派生して繋がり、ゆくゆくは一つの円環となる、という話。

その着想や形は素敵に思え、また、作者が詩人で数学者ともなれば、どのような表現展開になるのかと興味津々、しかもレイモン・クノーを師と仰ぐウリポのメンバーであるジャック・ルーボーの自伝的フィクションということで否が応でも期待値は上がり切っていたので、んー、残念。

早逝した写真家の妻アリックスともども理想とした、ヴィトゲンシュタインの格言のごとく「説明するべからず、描写せよ。言うべからず、見せるべし。」とはいかなかったか。なにせ、説明過多で言い訳も多く、とにかく読みづらい。せっかく詩人らしい着眼点である夜に凍てつく窓ガラスとその描写のリフレインは美しいのに、、、

本文中に本人自ら以下のように吐露している。
「ぼくは作者としての新たな自由を語ってはいるものの、しかしこいつは要するにかなりむなしい幻想の自由だ。文体の高揚もなければ想像力の奔放さもない。むしろどちらかと言えば形式的な無謀さの問題で、なぜなら他の道をほとんど塞いでしまったので、それ以外の出口が想像できないのだ。啓蒙的な退屈さは滅多に許されるものではないけれども、形式的な退屈さはそれに輪をかけて許しがたい。」

自虐も文才があれば素晴らしい小説になり得るので、ただただ、その才が無いのか。単なる伝記やエッセイとしても一つの作品として上手く纏められておらず、その前段階の雑記やメモ断章といった様相を呈している。読み進めるのが非常に悩ましげな一冊だった。好きな世界なのだけれど、実験半ばな印象が拭い去れなくて、生きているうちに完成形が見たいと切に願う。

https://honto.jp/netstore/pd-book_30416720.html

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