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SS『嫌いになれないパリ』

はじめは1週間足らず
絵葉書どおり、憧れどおり、裏切らない景色
凱旋門、シャンゼリゼ、エッフェル塔
お気に入りはサン・ジェルマン・デ・プレ
日除けのあるカフェやグラシエ、ショコラティエ、傘や香水、手袋の、とにかく専門店が
素晴らしい。ベッドリネン類を扱う店や惣菜屋ですら美しく、飾り方や見せ方を知っていて暮らしの中にアートが在る、いやアートの中に暮らしが在る。
忽然と現れては消えるメリーゴーランドやお菓子の売店すら夢のよう。
そもそも城や教会、セーヌに掛かる橋や建物
街を形づくる要素のひとつひとつ
その造形や装飾に間違ったものがない。
何か新しい物が生まれる度、大抵ノン!から入るハードルの高い国民性ゆえなのか。

また訪れたくて1ヶ月間
プチホテルを週ごとに変えて、サン・ルイ島や左岸の好きな6区や14区界隈を歩き回る。
大通りより小さい通りが魅力的だった。
ジャコブ通り、ビュシ通り、サン・タンドレ・デ・ザール通り、セーヌ通り、サン・シュルピス通り、ヴュー・コロンビエ通り、グルネル通り、ドラゴン通り、シェルシュ・ミディ通り、サン・プラシド通り、バック通りにあるブティックや茶葉の量り売りの店、アロマキャンドル屋、手作りチーズやバターの並ぶブーランジュリーなどをただただ巡る。
足が棒のようになっても、まだ歩きたい
リュクサンブール公園のベンチで休みながら
嫌いになれたら、もう来なくて済むのに
なんて思った。

さらに、再び3ヶ月間滞在
15区と6区にホームステイした。
100段以上の階段を上り下りする歴史的建造物に住む1人暮らしのおばあちゃん宅と大学進学を控えた息子を持つシングルマザーのキャリアウーマン宅
仕事はもっぱらPCで東京の仕事をしながら、そもそも10月の半ばから翌1月半ばまでという年末年始にさしかかる時期で大きな支障も無く、長めの冬休みみたいなものだった。人のまばらになるクリスマスシーズンのパリを過ごすのは初めてだった。パリジャンたちはほとんど家族と過ごすため田舎や避寒地に行くので急に街中は静かになる。よそ者と孤独者のみの残ったパリはある意味、天国。

「パリは本当に素敵な街だ、住んでいるフランス人さえいなければね。」とは、よく言われるブラックジョーク。

ほとんどの人はバカンスのことばかり考えていて真面目には働かない、ミスも多く、ウソも多い、すべてが適当、約束も時間も守らず、全く当てに出来ない。いい加減だから、あんなに美しい街を創れるのか、昔の人が優れていただけなのか、それとも、ほんの一握りのアーティストやセンスある専門家・知識人だけが漂う雰囲気までも醸成していて、腹立たしい世間の人と一切接触せずにひっそり隠れ棲んでいるのか。

こんなに憎たらしいのに、嫌いになれない、性格の悪さを遥かに上回る美しさを持つ罪な街、パリ。住み着くより、たまに旅するくらいが正解かも知れない。


(※新作より)

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