勝手にアニメキャラのセックスを想像してみた

第11回 茅野カエデ(雪村あかり=磨瀬榛名)その1

「はい、オッケーです!」
「皆さま、今日もお疲れ様でしたー!」
「お疲れ様でしたー!」
夜のテレビ局スタジオに、スタッフたちの挨拶の声が響く。
……フーッ。今日も長い一日が終わったな。そう思った瞬間、私の身体を疲れが襲ってきた。
「磨瀬ちゃーん、今日もお疲れ様でしたー!」
スタッフさんが、私に声をかけてくる。
「プロデューサーさんも、今日はお疲れ様でした」と、笑顔で応じる。
当然のことながら、この笑顔は営業用だ。
仕事でなければ、こんなクソみたいなワイドショーなんか出たくない。もちろん、どす黒いホンネをおくびに出すことはないのは、女優として当たり前のことだ。
「はるるん、今日もお疲れ様」
そう声をかけたのは、今度私が出演する映画で共演している女優の池谷美咲である。彼女は私のことを「はるるん」と呼ぶ。
「美咲こそ、今日はありがとうね」
と、私は笑顔でこれに応える。もちろんこちらは業務用ではなく、心から湧いてくる笑顔である。
私と美咲の付き合いは長い。
大学入学と共に、私はかつて所属していた事務所に復帰し、かつて名乗っていた「磨瀬榛名」の芸名で、私は女優活動を再開した。
本当は高校卒業をしてから、女優活動に専念したかったのだが、中学時代ののクラスメートが
「せっかく難関校といわれる学校に通っているのに、大学に行かないなんてもったいない。大学に行った方が視野が広がるよ」
と、私に大学進学を勧めてきた。
しばらくはその話題について、曖昧にごまかしていたのだが、思いを寄せていた人が大学進学を決めたと聞き、彼と同じ大学で学生生活を送りたいと思いが日ごとに募るようになった。
必死に受験勉強をがんばっていたら、その大学の推薦の話が私にやってきたので、私はその話を受けることにした。翌年の春、私は晴れて女子大生になり、女優活動をしながら学生生活を送ることになった。
美咲と知り合ったのは、大学1年生の学園祭の準備期間だった。
彼女は高校時代から演劇をしていたが、それは役者ではなく「舞台監督」としてだった。
なんでも幼なじみが舞台監督をしていたが、病気のために長期休学を余儀なくされ、その子から頼まれたのがきっかけだったそうだ。
演劇の「え」の字も知らないド素人が、いきなり舞台監督として走り回るのは、並大抵の苦労ではなかっただろうなと、私は彼女からその話を聞いて、心から同情したくなった。
彼女がこの大学を選んだのは、思いを寄せている先輩が通っているというのが理由だった。もちろん彼女が所属する演劇サークルも、その先輩がいるからである。
当初美咲は、スタッフをやるつもりでその演劇サークルに入った。
ところが役にぴったりの雰囲気を持つ女優がいないという理由で、彼女は急遽その舞台に、役者として出ることになった。
しかしいくら高校時代に舞台監督の経験があるからといって、そう簡単に演技の要領がつかめるわけではない。
セリフ覚えと勘はよくても、それでしのげるほどこの世界は甘くない。たちまち、彼女の女優としての活動は行き詰まった。
そして私と知り合ったのは、そんなときだった。たまたまとっていた授業で、私と彼女は席が隣同士になった。
お互いに話しているうちに、美咲は私が「磨瀬榛名」であると知って驚き、私は彼女が演劇サークルで女優をしているのだが、演技に自信が持てずに苦しんでいることを知った。
「はるるん、お願いがあるんだけど」
深刻そうな表情で、私に話しかけてきたのは、彼女と知り合って間もない時期だった。
聞けば所属している演劇サークルでヒロインをすることになったが、思うようにいかなくて困っているから演技指導してほしいと、彼女は頭を下げてきた。
このころから私の女優活動も忙しくなりかけていたが、暇を見つけては彼女が所属する演劇サークルに顔を出し、メンバーに具体的なアドバイスを送り続けた。
そうして迎えた彼女の学生演劇初舞台は、お世辞にも出来がいいとは言い難いものだった。
ストーリー展開はご都合主義が過ぎ、脚本も舞台美術も稚拙そのもの。演技陣はそれなりに健闘していたとは思うが、彼らよりうまい役者は、学生演劇の世界に掃いて捨てるほどいる。終演後に残っている観客はまばらで、彼らの拍手も明らかに社交辞令だった。
だがそんな舞台でも、主役を務めた俳優の存在感は光っていたし、突貫工事であるにもかかわらず、美咲の演技にもセンスの良さを感じさせた。
「この二人は、磨けば光るだろうな」私は2人の芝居を見ながら、そう思った。
数年後、その芝居の主役を務めた早乙女祐司は、学生演劇の世界では知らないものがいないほどの有名人になっていた。
ほどなくして、彼の書く戯曲の才能にもスポットが当たり始め、大学卒業直前に、彼は史上最年少で戯曲の賞を受賞した。
美咲も、彼の後を追うように学生演劇の世界で名前を知られるようになると、演出家、脚本家としての才能を発揮するようになった。
大学卒業後、彼女はサークルや高校時代の仲間と一緒に、劇団を立ち上げる。彼女が手がける舞台は演劇界でも話題になり、女優としても脚光を浴びるようになった。

「はるるん、いつもありがとう」美咲は私に笑って話しかける。
「私の方こそ、美咲がいなければ女優活動を続けられていたかどうか」と、私も応じる。
実際、私たちの女優活動は、お互いの存在がなかったら続かなかっただろう。
たわいのない話をしながらテレビ局の裏口まで一緒に歩き、そこに止まっているタクシーに乗り込む。
「じゃあ、またね。後で連絡するから。おやすみー」
「おやすみー。また今度ね」
私はそう言ってタクシーに乗り込むと同時に、ドアがバタンと閉まる。
行き先を告げると、運転手さんは首を縦に振り、静かに車を動かした。
私が上着の内ポケットからスマホを取り出し、ロックを解除すると、LINEは彼氏の通知が来ていることを示していた。
「お疲れ様。ラビットハウスでみんなと飲んでいるから、早く来なよ」
私はそれを見て、にっこり微笑んだ。
そして私は、5年前に起こったことを、車の中でゆっくりと思い出していた。

「ねえ私って、そんなに色気がないかな……」
私が彼に愚痴ったのは、恩師の七回忌で中学時代のクラスメートと再会し、かつての学び舎の整備をした帰り道でのことだった。
一緒に帰る相手の名前は潮田渚。
私の中学時代の、命の恩人。
私は中学時代、とある事件が起きた際に命を救ってもらった後、私は彼を「同級生」ではなく「異性」として意識するようになった。
高校は別々になったため、会う機会は中学時代より減ったが、折に触れて連絡は取っていた。
大学に入って一緒に過ごす時間は増えたが、二人の関係は、中学時代からまったく進展していない。
渚はうーんとうなった後
「そんなことないと思うよ。年相応の色気はあると思うし、それに……」
「それに……なに?」
「『永遠の0』といわれていた中学の頃よりも、肉感的な体型になっていると思うよ……」
ワタシは思わずずっこけそうになった。
「アンタは、胸の有無で色気を判断するんかい!」私はふくれっ面を渚に向ける。
「まあまあまあ、落ち着いて」彼は苦笑いしながら、私をなだめにかかる。
「この話題は、話しながらするものではないだろ?」
「そりゃそうだけどさ……」私の憤りはおさまらない。
「それよりも、さ」渚は、ニヤニヤしながら私に話しかける。
「なによ?」と、私はいささか気色ばむ。
「こういう話は、立ち話より君の部屋の中でやらない? 僕的には、売れっ子女優が一人暮らししているタワマンというのが、どんなものなんか興味があるんだよね」
「ああはいはいわかりましたよ。じゃあ来なさいよ」
仏頂面を作りながらも、心の中では狂喜乱舞する。
気がつくと、私は鼻歌を歌いながら、彼と腕を組んでいた。
「ご機嫌が治ったようだね」
彼も、私の様子を見てニコニコしている。
フフフ、これからどんな展開になるのかなー……楽しみだ。


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