勝手にアニメキャラのセックスを想像してみた

第7回 青山ブルーマウンテン その7

「『高級ホテル』ですって?『高級ラブホテル』の間違いじゃないでしょうね?」
「冗談はよしてくれ」
と彼は笑って返す。
「ホテル・プリンセスギャラクシーのコーナーツインルームを予約した。今宵はここで夜景を見ながら、ゆっくり楽しもうよ」
「眺めは素晴らしいの?」
「もちろん!40階の角部屋だから、素晴らしい夜景を見ることができるはずだよ」
「わくわくしちゃうわ!ねぇ、早く行こうよ、よっしー!」
「みどりんに喜んでくれるなんて光栄だな」
仕事の時は「先生」「上郷さん」と呼び合う私たちが、プライベートではお互いのことを「よっしー」「みどりん」と呼び合っている。付き合って間もない頃は、お互いの名字をさん付けで呼び合っていたが、関係が深まるにつれて今の呼び方になった。
10分ほど電車に乗ってホテルの最寄り駅に着くと、そこから徒歩数分で宿泊先のホテルに到着した。よっしーはフロントで手際よくチェックインの手続きを済ませ、予約した部屋まで私をエスコートする。
部屋の鍵を開けて電気をつけると、そこには私か見たことがないような風景が広がっていた。
「ねえ見てみて、なんて素晴らしい夜景なの!」
私は大人げなく、部屋の中ではしゃぎまわる。
その様子を見たよっしーは、満足げに頷いている。
「気に入ってくれたようで嬉しいよ」
「だって、こんなにステキな部屋なんて知らなかったからよ」
私は羽織っていたジャケットをベッドの上に脱ぎ捨てる。
立ったままの状態でよっしーにキスをすると、そのまま自分の舌を彼の口にねじ込む。
彼もお返しとばかりに、ワタシの口に自分の舌を入れてくる。
しばしの間、2人はおのれの欲望がおもむくままに、お互いの口を弄り合った。
「そんなに慌てなさんな。ずいぶんストレスがたまってんなあ、みどりん」
よっしーはいったんワタシの口を離すと、笑いかけながら私の背中に手を回すと、てのひらで私の背中を優しく愛撫する。
彼の指が私の背中に触れるたびに、背中に快感が走る。
私はカレの逞しい肩に顎を預けて、そのままじっとしてた。
口からは、艶めかしい息が漏れる。
「みどりん、シャワー浴びて来なよ」と、よっしーがいった。
「いいよ、私はまだやりたいことがあるから、先によっしーが行きなよ」
「わかった。それじゃあ、お言葉に甘えるとしますか」
といい、彼はバスルームに向かった。
私はリビングの大きなソファに座ると、持ってきたカバンからパソコンを取り出し、画面を立ち上げる。
メールソフトを立ち上げ、前担当の凛ちゃんにメールを送る。
彼女なら渋谷凛を知っているに違いない。知らなくても、凛ちゃんの周囲に、渋谷凛を知っている人がいるといいな。
メールを凛ちゃんのアドレスに送って腕時計を見ると、時間は23時を過ぎていた。
彼女は起きているのだろうか?起きていたら、仕事しているかな?
そうだ、今日はデートだといっていたから、今頃は彼氏と一戦を交えている最中か。
もし彼女が絶頂を迎えた直後に、メールの着信音が鳴ったら雰囲気がぶち壊しになるだろうな、な~んてね……

メールを送信した後原稿を執筆していたら、バスルームからよっしーの鼻歌が聞こえてきた。
彼は普段は「烏の行水」だが、疲れているときは湯船にゆっくりとつかり、鼻歌を歌っているときが多い。だから今日は、相当ストレスがたまっているんだろうな。
彼と凛ちゃんは正社員の編集者だが、近年の出版社は、フリーまたは契約社員、あるいは下請けである「編集プロダクション」の編集者を使うことが圧倒的に多い。
正社員の編集者は、彼ら下請けの編集者の仕事をチェックし、書籍出版時に自らの名前で「発行人」として掲載するのだ。
編集者の仕事は過酷だ。
彼らの最低限の任務は「作家に依頼した原稿を、出版社が指定した期日までに提出してもらうこと」だが、そのためには、彼らは作家が言い出す無理難題にも耐え続けなければいけない。
作品のための資料集めは言うに及ばず、取材旅行に行く場合には、交通機関や宿屋の手配も必要となる。
その際、一番の問題となるのが費用だ。以前は出版社が丸抱えということも多かったが、今は出版不況のせいで必要経費が少なかったり、全額作家側の負担になることがほとんどだ。そのため経費負担を巡って作家と出版社がケンカになることも多く、編集者はその板挟みで苦しむ。
印刷所とのスケジュール調整、各種パーティーの同伴も編集者の仕事だ。
他にも文壇や世間の動向を探ったりするのも、編集者の仕事だったりする。
普段の業務ですらストレスがたまる環境に加え、担当作家はみな良くも悪くもアクが強い人種である。手癖酒癖が悪いうえ、異性関係にだらしがない人間がなんと多いことか。
ちょっとネットをつつけば、作家のこのようなエピソードはごまんと出てくる。
戦前だけでも、数多の作家が女性問題を起こしてきた。
もちろん女性作家だって負けてはいない。
過去には奔放な男性遍歴で知られた作家もいるし、中には既婚者にもかかわらず旦那とはセックスレス、それどころか自宅に愛人を引っ張り込み、旦那のいる隣の部屋でよろしくやっていたという女性作家の話を聞いたこともある。
性欲と創作欲の強さは正比例するんだろうな、と思うのは私だけだろうか。
いや違う、「〆切り」と「次回作はヒットしなければ後がない」というプレッシャー、そして「成功」への野望が、作家の性欲を刺激するのだろうか。
これは文壇だけではなく、音楽も美術も工芸も、そして芸能界に共通することなんじゃないかな。
そしてこれらの業界にいえることは、不倫や略奪愛、二股三股の異性関係はほぼ常識だということだ。「純愛」を説く業界が、愛欲ドロドロの世界を日々繰り広げているのは、なんという皮肉だろう。
そしてそれは、私たちの関係にも当てはまる。よっしーと付き合っている現在でも、私は複数の男性と今も関係しているし、彼も同様だ。
もっともそれは「仕事の延長」と割り切った関係なので、お互いに報告している。
もちろんベッドを共にするときは、避妊具を持参する。つまりナマでヤルのは、お互いの相手とだけである。
パソコンの画面とにらめっこしながらあれこれ考えていると、よっしーが腰にバスタオルを1枚巻いただけの姿で、リビングルームに現れた。
「さっぱりしたー。さすがスイートルームのバスルームだな。スペースは広いし湯船もでけー。君も早く入れよ」
「うんわかったー。私髪を洗いたいし、その後リンスするから、ちょっと時間かかるかも知れない」
「いいよ。せっかくの機会だからゆっくりするといい」
「わかったー。じゃあそうするよー」
私はそう返事するとよっしーに近づき、耳元で囁く。
「今晩は寝かせないから」
「お前、やる気満々だな」彼も、私に含み笑いをよこしてきた。
バスルームで丹念に髪を洗い、リンスを施すと、時間をかけて身体を洗った。
たっぷりとした広い湯船に身を浸すと、これまで感じたことがない快感が全身に広がる。
「気持ちいいわあ……」
どれだけヒット作を書けば、これほどの立派なバスルームを自分のものにできるのか、今の私には想像できない。
確かに私は、世間では「ベストセラー作家」とみられているが、はっきり言って私が今書いている作品は、10年後も売れ続けているかどうかわからない。100年後には、きれいさっぱり忘れられているかも知れない。
それを湯船の中で考えると、少し気分が悪くなってきたかな~。それとも、湯船につかりすぎてのぼせてきたからかな?
湯船から出たワタシは、バスタオルで身体を拭き、もういちまいのバスタオルを身に纏ってリビングに向かう。テーブルの上には、よっしーがワインを用意して私を待っていた。
「ずいぶんごゆっくりだな。まあ、とりあえず飲もう」
私はうんと頷くとグラスを手に取り、彼にワインを注いでもらった。私も彼に、同じことをしてあげる。
「それじゃ、今日はお疲れ様。乾杯!」
「乾杯!」
グラスを合わせると、ワインをゆっくりと口に入れた。

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