勝手にアニメキャラのセックスを想像してみた

第20回 新沼文世−1

「新沼先輩、今日はお疲れ様でした」
私は後輩の一人に声をかけられ、びっくりしてあたりを見回した。
「ああ、お疲れ様。また明日」
「先輩、明日は私ずっと出先です。ひょっとしたら、編集部には顔を出せないかも知れないので、よろしくお願いします」
「そうなんだ。じゃあがんばってね」
「はい先輩、先輩も明日は別の現場なんですよね。お互いがんばりましょう」
私に挨拶した後輩は、にっこり笑って頭を下げる。
「先輩、時間がとれたら一杯やりません? 話したいことが沢山あるんです」
「ええ、いいわよ。私の行きつけの店でやらない?」
「ええーっ、先輩、そんなしゃれた店を知っているんですか?」
「失礼ね。私だって編集者の端くれよ。気の利いた店の一つや二つ、接待用のしゃれた店もそれなりに知ってるんだからね」
「ハハハ、それは失礼しました。でも先輩って、オンとオフの差が激しすぎますからね」
後輩に言われて、私は思わず苦笑する。
「ええ、ええ、普段の私は垢抜けませんからねー」
「先輩、そんなことありませんよ。パーティー会場の先輩の格好、時に大胆で色っぽいですよー」
「地味な格好でパーティーに出られるわけないでしょう? ましてや我々は、日本を代表するモード雑誌の編集部所属の編集者なんですからね。場の雰囲気にそぐわない格好ででようものなら、業界関係者から後ろ指を指されるし、ひいては編集部や会社の評判に関わってくるんだからね」
「先輩、口が過ぎました。すいません」
彼女はペロリと舌を出した後
「じゃあ、このへんで失礼しまーす。それではまたー」
といい、足早に部屋を出て行った。
私は彼女が部屋からで行ったのを確認した後、再びパソコンの画面に目を移動した。
……ああ、まだこんなにタスクが残っている。いつおわるのかなあ……

私の名前は新沼文世。日本を代表するハイ・ファッション雑誌「MODE JAPAN」編集部所属の27歳、独身。入社5年目。
もともとは文芸関係の編集部を希望して。今の会社には大卒新卒で入社した。
ところが研修が終わって私が配属されたのは、入社前には想像もしていなかったファッション雑誌編集部。オシャレには無縁だと思っていた私は意欲が湧かず、そのまま退社して「第二新卒」で別の会社に入ろうかと、本気で考えていた。
私は自分の容姿とファッションセンスに自信がなく、ファッション誌というのは、ある意味恵まれた人たちのためのものだと思っていたからだ。
だから配属されてからしばらくは、ファッション業界について勉強しようという気は全くなく、先輩や上司に事あるごとに、文芸誌への移動を口にしていた。
もちろん、新人のわがままが通るわけがない。人事部は、私のどこを見てMODE JAPANへの配属を決めたのか? と、悶々とした日々を送っていた。そして文芸部に配属された同期の笑顔を見るたびに、私の気分は落ち込んだ。
しかし業務命令に近い形で、編集部の先輩と東京コレクションに出かけた私は、ある女性モデルの立ち姿に衝撃を受けた。
モデルは身長が全ての世界だ。特にパリコレなどのショーモデルは、最低でも身長が170㎝ないと、よほど強力なコネがない限り、舞台に立つことすら叶わない。それに加えて歩き方、立ち姿、歯並びが美しくないといけない。これらの条件も、私には全部当てはまらない私は、知らず知らずのうちに彼女達に対して劣等感を抱いていた。
ところがそのモデルは、私が持っているモデルのイメージを見事にぶち壊した。
顔立ちは凛としているし、立ち姿も歩き方も、他のモデルに比べて遜色ない。纏っている服も、彼女の雰囲気にとてもよく似合っていた。
しかし 私が衝撃を受けたのは、そのモデルの体型だった。
どうひいき目に見ても、そのモデルの身長は170㎝あるとは思えない。それどころか、160㎝あるかどうか。彼女は、どんなコネを使ってこのステージに立っているのか?
だが彼女の醸し出す圧倒的な存在感は、他のモデルを圧倒していた。そう感じたのは私だけではないようで、会場内のどよめきは、彼女の姿がステージから消えてからからも続いたのを覚えている。
背丈が小さくても、やりようによっては存在感が出せるんだ。
彼女の姿を見た私は、以後必死になってファッションのことを勉強し、周囲から認められるようになろうと努力を重ねた。その甲斐あって、私はファッション業界でも、その存在を認められるようになった。

長時間パソコンの画面とにらめっこして、目が疲れた私は、メガネを外して目薬をさす。
時計を見ると、もうすぐ21時だ。
終わらせるべき仕事がまだ沢山残っている事実を突きつけられた私は、自分のトロさ加減に愕然とした。ひょっとしてさっき私に挨拶したあの子も、陰で私のことをせせら笑っているのだろうか……。
部屋の中にいるのは私一人。
もういいや、とりあえず今日やれることはとりあえずやったのだから、とりあえず家に帰るとするか。
私はパソコンをスリープモードにすると、手早く道具を片付けて部屋を出た。
同時に、腹の虫がなった。
そうだ、今日は夕飯をまだ食べていなかったんだ。時間も時間だし、ラビットハウスで軽く済ませてから家に帰るとするか。

「いらっしゃいませ」
私がラビットハウスのドアを開けると、マスターが笑顔で私を迎えてくれた。
「こんばんは」
「こんばんは」
マスターと挨拶すると、私はカウンター席にどっかりと腰を下ろした。うわ、私ってなんかオヤジ臭い。こんなところを同性の友人や知人に見られたら
「だから文世は、男に逃げられるのよ」
と突っ込まれるのは確実だ、と思うと軽く落ち込む。
「お客様、ご注文はなんにいたしましょう?」
マスターに声をかけられた私は、あわわと軽く狼狽する。
「えっと……野菜サンドウィッチお願いします」
もう時間が時間だし、重たいものを食べる気にはなれない。
「お飲み物はいかがいたしましょう?」
私はしばしメニューを睨んだ。
「スクリュードライバーでお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
注文を終えると、私はバッグからタブレットを取り出した。
プラウザを立ち上げ、いつも巡回しているニュースサイトをチェックする。
真っ先に飛び込んだのは、外国で発生した鉄道事故のニュース。
そしてその記事にあった犠牲者の名前。
おぼろげながらも、私はその名前を覚えていた。
顔かたちはほとんど忘れてしまって、わずかに声だけが、うっすらと記憶の底に眠っている。
たった一度きりとはいえ、私に「オンナの歓び」を教えてくれた人。
その人とは、こんな形で再会しようとは……

ファッション雑誌編集部員の日常は多忙だ。
通常の編集業務の他に、モデル事務所、アパレル業界、ファッションブランド、広告代理店など関係諸方面との打ち合わせは多忙を極め、丸一日それだけで終わってしまうことも多い。これらはまさに分刻みのスケジュールが組まれており、段取りが狂うと後工程に甚大な影響を与える。
編集部に配属されたての私は、要領が悪いことも手伝い、周囲の足を引っ張ってばかりいた。振り落とされまいと周囲に必死についていったが、それでも「どんくさい子」というレッテルはなかなか外れなかった。
あのファッショショー以後は、だいぶ仕事に慣れてきたとはいえ、自分では「うまくやれそうだ」という実感は、正直なかった。
私がその人と出会ったのは、入社2年目で担当することになった、あるファッションブランド発表会であった。
彼は広告代理店の人間で、そのモデルが着用するブランドの広報を担当していた。そして私は、先輩と共にそのブランドに関する記事の編集をすることになった。
彼とは打ち合わせで何度も顔を合わせ、その都度私にアドバイスをくれた。
ファッション業界とパーティーは、切っても切れない関係だ。最初は地味なスーツで参加していた私だが、他のファッション雑誌編集部の人も含めて、ほとんどの女性参加者は大胆な格好で会場にやってきていた。大胆に肩を露出し、身体の線を強調するその格好には、私にはとても着られないと思っていた。
しかし彼は、そんな私に一度でいいから、ああいう格好をした君の姿を見てみたいと言ってきた。私はスタイルも容姿も十人並みだと言って、やんわりと断った。しかし先輩たちは、この業界ではもっと大胆な格好をしないとと、私を煽ってきた。
そんなある日、私はあるファッションブランドのパーティーに、先輩と参加することになった。季節は夏だ。私はこの機会に、先輩が言う「大胆な格好」で参加することにした。

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