鉱脈の奥深くへ
ついに、とうとう、大判カメラに手を出してしまいました。
カメラを趣味にして1年とちょっと。
もう後には引き返せないところまで来てしまった感があります。
購入したのはリトレック・ビューという機種で、本来は5x7のフォーマットで撮れる大判カメラ。
ほぼ全てのパーツが金属で出来ており、かなり重量があります。
1972年まで作られていたようで、今から約50年、半世紀ほど前のカメラになります。
元々はプロの写真家さんや写真屋さんのポートレート撮影などによく使われて、輸出用も含めて1万台ほど製造されていたようです。
蛇腹をフルで伸ばした長さは約45cmほど。
たぶんそこまで伸ばすことはそうそう無いと思いますが、RB67やMamiya C3などの蛇腹と比べると段違いの長さです。
大判カメラの構造などについては、先達が語り尽くしているところかと思いますので割愛します。
この記事ではこのリトレックビューという機種の使い勝手や印象などをご紹介しようと思います。
組み立てると巨大、畳むとコンパクト
写真を撮る際の形態に組み立てると、結構巨大です。
縦横約30cmほどの正方形で、奥行きは大体4~50cm程度でしょうか。
お世辞にもコンパクトとは言えないサイズ。
とにかく重くて嵩張ることに定評のあるRB67がコンパクトに見えます。
ただ、持ち運びの際などの折り畳んだ状態にすると、結構コンパクトです。
縦横30cm程度という大きさは変わらないものの、厚みが大体8cm程度まで小さくなります。
本棚に立てて置けるくらいの大きさです。
収納時にはレンズを外したりしないといけませんが、普段防湿庫などにしまっておく分には、下手な一眼レフよりもスペースを取らないかもしれません。
重量は3kg台後半と結構な重さですが、畳んだ状態だとコンパクトで持ち手もついていますので、持ち運びは意外なくらいに楽です。
本体を開きます
本体の操作は、基本的に三脚に取り付けた状態で行うことになるかと思います。
まず閉じた状態の本体を開き、レンズなどを取り付けられる状態にします。
蓋の開く方を自分に向けて、手前中央のボタンをグッと押してストッパーを解除し、取手部分を持って上に引き上げます。
蛇腹の上部分が伸びて本体が開きますので、出来るだけそっと、優しく扱ってやります。
続いてレンズボード取り付け部分を軽く手前に引いて起こします。
このとき、レンズボード取り付け部分の支柱のネジが緩んでいる事を確認してから起こします。
後方のフィルムホルダーを取り付ける側と、レンズボードを取り付ける側双方、直角に立ったポイントでちゃんと止まるよう、可動部品側にストッパーが設けられていますので、何も考えずに「カチッ」と手応えがあるところまで起こせば、それぞれが底面パーツに対して垂直になるようにセッティングできます。
レンズボード取り付けパーツの固定
レンズボード取り付けパーツの縦位置は、支柱とレンズボード取り付けパーツの印を合わせて調整します。
アオリ撮影などのためにレンズボードの角度を調整する際は、支柱にあるネジを緩めて、
ストッパーを押し込んで解除して調整しネジを閉めます。
レンズの前後の位置は、大まかなところはレンズボード位置調整のつまみを握って、ロックを解除して調整します。
微調整は本体底面の正面向かって左手前にあるフォーカス調整ノブを回して行います。
本体底面の正面向かって右手前にあるノブは、フォーカスロックノブです。
OFF側に回すとロックが解除され、FIX側に回すとフォーカスがロックされます。
レンズの取り付け
レンズは、レンズボードに取り付けたものを本体に取り付けます。
レンズボード取り付け部分にもロックが有り、向かって右側のスライダーを外側に動かします。
レンズボードを下側のストッパーに噛ませるように上から差し込んで…
爪を起こして…
固定した後に、
ロック用のスライダーを内側にずらして、レンズボードを固定します
様々な調整
本体を組み立てて、レンズも取り付け終わった状態から、様々な調整を行います。
構図を決める際には、基本的に三脚を動かして行います。
蛇腹の伸び幅が大きいので、意外なほど近くまで寄って撮影ができます。
レンズを取りつけて、背面のファインダーの蓋を開いてフォーカシングスクリーンに映る像を見ながら構図やピントを合わせます
なお、このフォーカシングスクリーンがついているフィルムホルダー取り付け部分は、
こんな感じで回転させることができます。
縦構図で撮りたい場合には、この状態でフィルムを入れたフィルムホルダーを差し込んで撮ります。
ピント合わせの際に、フォーカシングスクリーン側=背面側にもスライダーがあり、背面側を動かして蛇腹を伸び縮みさせることもできます。
背面側を動かす場合は、ストッパーを解除してから
このダイヤルを回して動かします。
レンズの使い方(ざっくり)
大判用のレンズは、中判や35mmカメラ用のレンズとはだいぶ使い方が違います。
ピント合わせの際は絞りを開放にして行いますが、基本シャッター羽根が閉じた状態になっており、そのままではピント合わせができません。
そこでシャッターチャージレバーを使い、一度シャッターチャージして、
シャッター羽根展開用のレバーを
引っ張ります
※この辺の操作方法は、レンズシャッター によって異なってきます。
これで、シャッター羽根が開いた状態になります。
注意しなければいけないのは、ピント合わせをしたあと必ずシャッター羽根を閉じてからフィルムの遮光板を抜くようにしないと、
「遮光板を抜いた瞬間に露光する」
という状態になってしまいます。
なので、手順としては
・シャッター羽根を開いて、フォーカシングスクリーンでピント合わせ
・ピントが合ったらシャッターを閉じる
・露出を設定して、シャッターが閉じていることを確認し、
・フィルムホルダーを入れる
・フィルムホルダーから遮光板を抜いて
・レリーズケーブルを使ってシャッターを切る
という具合になります。
フィルムホルダーを入れる
この工程が、中判カメラとも大幅に違うところかなーと感じました。
フィルムホルダーには、裏表にそれぞれフィルムを1枚ずつ入れることができるものが多いようで、ホルダー1枚にフィルムを2枚入れられるようになっています。
ホルダーにはいろいろとシールを貼り付けたりするためのスペースもありますので、とりあえず番号をつけておくと便利です。
フィルムホルダーは、カメラ背面側のフォーカシングスクリーン部分にある黒いストッパーを引っ張って隙間を作り、そこに差し込みます。
上の写真では、「No.001」の面が手前に来ていますので、露光するのはこの裏面側に入れたフィルムです。
奥までしっかりと差し込んでから、露光面=カメラのレンズ側に入っている遮光板を引き抜きます。
この時、手前側の遮光板を引き抜いてしまうと、フィルムを1枚無駄にしてしまいますので注意が必要です。
ちなみにこの遮光板は、裏表で色が違います。
僕の場合は、黒い面=未撮影、赤い面=撮影角、という具合で使い分けていますが、忘れてしまわないように、
こんな具合でシールを貼り付けています。
撮影が終わったら、遮光板が抜けてしまわないよう、このようにストッパーをかけておくと安心です。
露出倍数について
マクロ撮影などの際は、蛇腹を伸ばして撮影するため、レンズからフィルムの露光面までの距離が遠くなり、明るさが弱くなってしまいます。
このため、蛇腹をある程度伸ばす際などは、露出倍数という補正の値を考える必要があります。
露出倍数の計算方法についてですが、これは僕も理解しているわけでは無いですが、次の式で求められるようです。
露出倍数=(1+(蛇腹を伸ばした長さーレンズの焦点距離)/レンズの焦点距離)の二乗
とかいう具合で考えてます。
例えば、「焦点距離100mmのレンズを使って、20cm蛇腹を伸ばして撮ったら」という例だと
(1+(200-100)/100)^2=(1+1)^2=(2)^2=4
と言った具合。
露出倍数=2の時に1段+
露出倍数=4の時に2段+
露出倍数=8の時に3段+
露出倍数=16の時には4段+
と言った数値から考えたら、
「露出をプラスする段数=2√露出倍数」
という式が成り立ちそうです。
という訳で、露出倍数=4の場合2段プラスします。
仮に、「焦点距離210mmのレンズで、36cm蛇腹を伸ばしたら?」という例であれば、
(1+(360-210)/210)^2=(1+150/210)^2=1.7^2=2.9
露出倍数=およそ3となるので、2√3=1.7段プラス、と言った具合
2段プラスだと少しオーバー気味になるよ、と言ったところでしょうか。
もう1例出すと、「焦点距離150mmのレンズで35cm蛇腹を伸ばしたら?」だと
(1+(350-150)/150)^=(1+200/150)^2=2.3^2=5.29
露出倍数5.29→露出の調整値は、2√5.29=2.3
ということで、「2段ちょっとプラス」と言った具合になります。
あと別の求め方としては、
数値A:蛇腹を伸ばした長さの2乗
数値B:レンズの焦点距離の2乗
として、「数値A÷数値B」の式で求められた数値が露出倍数になる、というものです。
例として、「焦点距離100mmのレンズを着けて、蛇腹を20cm伸ばした」という場合、
数値A:200^2=40,000
数値B:100^2=10,000
→数値A÷数値B=4
例2「焦点距離210mmのレンズで、36cm蛇腹を伸ばした」という場合
数値A:360^2=129,600
数値B:210^2=44,100
→数値A÷数値B=2.938で約2.9
例3「焦点距離150mmのレンズで、35cm蛇腹を伸ばした」場合
数値A:350^2=122,500
数値B:150^2=22,500
→数値A÷数値B=5.444
求め方によって若干の差はありますが、だいたい同じくらいになるようです。
何れにせよ、スマホなり電卓があれば、さほど難しいことを考えずに計算できそうです。
実際に大判を使ってみた感想
結論から言うと、当初思っていたよりも簡単でした。
オートフォーカス、自動露出のデジカメなどと比べるとはるかに手順も多く、操作の順番などもありますので難しくはありますが、いろいろなパーツをどう動かすか、どうやって固定するかさえ解ってしまえば、実際の操作はRB67とかMamiya C3と難易度は変わらないかもしれません。
もちろん、フォーカスを合わせる操作や、1枚撮影するごとにフィルムホルダーを抜き差しするなどの特殊な操作が入りますが、フィルム巻き上げ動作が大きくなると思えば、特段違和感は覚えませんでした。
実際に撮影したフィルムの現像を上手いこと自宅でやるための仕組みや方法については、5月26日現在の時点で色々工夫しています。
もともとこのRittereck Viewは4x5ではなく5x7のフォーマットで撮影するためのカメラです。
そのため、4x5フォーマットで撮ることだけを考えれば、かなり重くて大きすぎるカメラにはなりますが、「ほぼ全てが金属製」だからこそ実現可能な高い堅牢性は、木製や樹脂製のカメラと比較して大きなメリットになるかと思います。
まだまだ撮影枚数も少なく、それほど使いこんだわけでもありません。
が、仕上がったネガフィルムを見たときの感慨は、中判6x9のフィルムを初めて見たときよりも大きなものでした。
フィルムの単価も高いですが、これはどハマりする予感しかしません。