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想像を絶する依頼が来たときにYESと言えるか。ウィントン・マルサリスさんとの共演が本番2日前に飛び込んで来た話

去る4月14日&15日にとんでもない経験をしました。

ウィントン・マルサリスさんと、彼が率いるJazz at Lincoln Center Orchestraのコンサートで指揮を担当したのです。依頼が来たのが2日前というとんでもないおまけ付き笑!

しかもゲストにCuba音楽の大スター、パキート・デリベラさん!作曲家が、キューバ出身のグラミーノミネート作曲家・ピアニスト「エリオ・ビジャフランカ」 Elio Villafranca!!!素晴らしい作曲家ですよ。

エリオはジュリアード音楽院の先生でもあり、ウィントンさんを自分のアルバムにゲストとして迎えたこともあり。二人は旧知の中で、何年もかけてこのコンサートを構想、実現。

パーカッション3人+フラメンコの専門家2人+ダンサー4人をゲストに迎えた、60分超えの大組曲でした。多分まだオンラインでコンサートを見られると思いますので、是非ご覧になってみてくださいね。

が、私がアサインされたのは2日前!実質1日しか、練習期間がありませんでした…汗

ほぼ1ヶ月たった今でもあまり信じられないのですが、Wyntonさんのツイッターに私が写っているので、本当だったようです笑 ピンクのジーンズで目立ちまくっているのが私!

実はWyntonさんと二人の写真はありません。これ、私の小さなポリシーなんです…。

どんなに凄いスターと一緒にお仕事をしたときでも、キャピキャピ浮かれた行動をしないように心がけているのです…。私は共演者であって「近いレベルで仕事を出来るよう努力する」のが役目で「音楽を一緒にやっている時は上も下もなく同じ立ち位置」ですから … 。記念写真を撮るなど、ファンとしての行動をしてしまうと、その態度が心や頭から抜け落ちてしまう気がして、どうしても出来ないんですよね…。逆に完全にファン気分が抜け、しっかり仕事だ、と骨の髄まで染み渡った上で超尊敬できる、になったら、じゃんじゃん二人での写真を撮ります。

そんなわけで、Wyntonさんと二人の写真はありませんが、なんとWyntonさんが、彼女に指揮頼めばと言った瞬間らしき写真が出てきました爆。

この
「彼女に指揮頼めば」と世界的な巨匠に突然言われたら
秒で「やります」と言えますか?

が今日のテーマだったりします。


想像を絶する依頼が来たときにYESと言えるか。

私が出演したコンサートは4月14日と15日に開催されましたが、私がアサインされたのは、なんと4月12日午後のリハーサルでのこと。

エリオ・ビジャフランカが書いた楽曲が、フラメンコなどダンス音楽とジャズとの掛け合わせであまりに複雑で、リハーサルが上手く進まなかったのです。その状況を懸念し、ウィントンさんが「指揮者が必要だ」と判断。作曲したエリオに「今からでも指揮者を雇ったほうがいい」とアドバイスしたとき、そのリハーサルに私はたまたま、遊びに行っていたのです。

こういう時は「たまたま」が重なるもの。

エリオはたまたまスコアを全曲分、私の分もコピーして持ってきてくれていました。作曲家仲間ってスコアの見せあいっこをすることがあるので、それで、です。

私はたまたま、久々のビッグバンド・リハだったので楽しくなってしまい、立ち上がってリハーサルを見ながら、右手で軽く指揮的なことをしていたのです。

これを、どうやら、たまたま、ウィントンさんが見ていたようなのです。

それで、指揮者が必要=あそこにいる彼女にお願いすることはできるのか、的なトークになったようで、結果、この写真で、私をめっちゃ指差していらっしゃるのです笑。

この後エリオが私のところに走ってきて
「ミギー、指揮、したい?」と聴いて来たのです。

したいってなんだ、したいって?というのが最初の感想。

キョトンとする私に「あ、コンサートでも」と突然エリオは言い、ウィントンが指揮者が居たほうが良いって言っているから、リハと本番の両方で指揮をしないか、と説明されたのです。

聞けば、その日一晩しか60分超の組曲を学ぶ時間はなく、明日の朝から通し稽古だとのこと。

私は「Sure! おっけー」と答えました。だって運命としか思えない依頼だったし、こういう時はYESって答えなきゃいけないって知っていたから。

ほらね…わははは … !手前でフルートを吹いているのはTed Nashさんですね。後ろのトロンボーンはヴィンセント・ガードナーさんですね。
なぜこの写真が残っているかというと、これも、たまたま笑。 ウィントンとエリオが打ち合わせをしているようだったので「エリオがSNS投稿したいかもしれないから、撮っておいてあげよう〜」という気持ちだったのですよ。 まさかこんな歴史的瞬間を記録してしまうことになるとは笑

出来るかどうかなんて分からん。でも「出来る」に持っていくと決めた。

オッケーと答えた後に、Vanguard Jazz Orchestraのツアーを思い出しました。あのときも2日前だったな、と。

あの時は500ページのパート譜を学習して1週間のツアーで弾けるようにする、がゴール。今回は60分超えの初めて聞く曲を頭に叩き込んで一つもミスせずコンサートをやり終える、が、ゴール。もうひとつ記憶に新しいのは「全米12都市を繋ぐイベントでアジア人代表としてスピーチ&演奏」の依頼が1週間前に来た件。それも結局やり遂げたしな。

だから、出来る、今どんなに怖くても大変だと思っても出来る!そう自分に言い聞かせて、出来るかどうかなんて分からなかったけど、出来る未来だけを脳の中に残し、出来ないかも?と考えたくなる気持ちや妄想は、浮かんでくる度にすくい上げて自分の外へと捨てました。

恐怖の捨て方。

この体験については、本当は話したいことが山程あります。でも、今ちょうど、様々な仕事が超山場で時間的に大ピンチなので、重要ポイントだけを備忘録的に書かせていただきます。どんな恐怖がやってきて、それをどう乗り越えたか、の話です。

この話に絞り込みたいのには理由があります。

今回、成功の一番の敵はやはり、自分の中に湧いてくる恐怖心で、その膨れ上がった虚構のモンスターさえなんとか落ち着ければ、あとはなんとかなるということを、改めて学んだのです。

以下、リストにしてみます。お役に立つ話が、ありますように!

  1. 目の前にいるのがウィントンさんであり、パキートさんであり、絶対に失敗したくないという恐怖 → 二人の前で自分をよく見せたい、褒められたい、という子どものような気持ちを認めた上で、自分に対してこう言った。「あなたを立派な音楽家だと認めてくださっていればいるほど、華美に褒めたりなどせず、普通に共演してくださるはず。急に飛び込みでこの仕事を受けているだけで偉いんだから、いくつか失敗するくらいで当たり前。失敗を恐れるほうが残念な結果になるから、堂々と落ち着いていこう」

  2. 自分の曲ではなくエリオの曲だから絶対に失敗したくない、どこまで出来るだろう?という恐怖 → 「とにかくマックスまで自分の出来ることをやるだけで、エリオは感謝してくれるはずだから、信じてくれたエリオを信じるしかない」と自分に言い聞かせた。エリオはこのコンサートの実現を25年も夢見ていたのだそうで、その夢をぶち壊しにできないという恐怖感は大きく、この自分の説得はかんたんではなかった。

  3. そもそも一晩+スキマ時間だけで60分の楽曲が覚えられるのか?という恐怖 → まず、この世にはミラクルがある、そのミラクルが今回自分におきても良いのだ、と何度も自分に言い聞かせた。人間の脳には計り知れない能力が眠っていて、その強大な力を使えばそのくらい覚えられるはずだ、と私は思っていたので「それが私に今回おきてもおかしくない!」という点だけを、一生懸命自分に説得。

  4. バンドに1人しか知人がいない。バンドのみなさんが私を信用して私の指揮に合わせてくださるだろうか?という恐怖 → これには様々な方法で対応。まずウィントンさん本人を始めとするバンドのリーダーの皆さんのところに駆け寄り、アドバイスと協力を真摯にお願いした。子どものように、または、かわいい女子的にお願いするなんてそんな恥ずかしいことは、絶対にしない。全くの逆で、プロとして責任を持って「時間が短すぎるので協力を頂きたい」とお伝えし、アドバイスを頂いた。加えて、空き時間や移動時間などになるべく全員と雑談したり、挨拶したりして、笑顔で同じことをお願いした。「あまりにも短すぎてご挨拶する時間すらなかったけれど、はじめまして、指揮をすることになったミギーよ!頑張るから、何か私が変更すべき点を見つけたら教えてね(にこ)」と言って回った。15人中13人とは本番前に話すことができた。

  5. 寝ずに練習したほうがいいのか、体を優先して寝たほうがいいのか?を迷ってしまう恐怖 → これはこの投稿でも書いたJohn Moscaのアドバイスどおりに「体を大事にする」を優先。でも指揮の練習をしすぎて上半身全身が筋肉痛になり、痛みで睡眠中に何度もおきてしまう結果に。アイシングをしたり、お風呂に肩をつけて温めたり、ありとあらゆる対策をしてなるべく長く寝て、健康体をキープし、おきている時間は、腹にぐっと力を入れて集中力を高めて曲を学んだ。

  6. どうしても覚えられない箇所がある、どうしよう?という恐怖 → 本番直前まで、どうしても覚えられない複雑な箇所があった。あまりにも難しいためリハーサルでも誰かが必ず失敗していて、正しく演奏された録音が一つもなく、録音資料がゼロだったのだ。本番前に控室でもずっと練習してみたが、できない。一度は諦めた。ところが諦めた後「諦めていいのか。やらなくていいのか」という心の声がしてきて、疲れた心と頭を開演10分前に再度、リブートする気持ちで叩き直し(笑)、集中してみたら、なんと一つ使える資料を思い出したのだ。作曲ソフトから自動吐き出しした、何の味わいもないピコピコしたコンピューター音楽での音資料。普段は絶対に資料として使わないこの音源、今回も使わないだろうとたかをくくって開いていなかったのだ…これを開いてみたら、そこには私の指揮に必要な情報が入っていた!(驚)この「再集中→使える資料発見」により、この箇所も間違えずに指揮できた。


ここまで書くだけで大長文になってしまいました笑

ウィントンさんは細かいところまで全部見えている方

最後にウィントンさんがどんな方だったと感じたかを、追記しておきます。

リハーサル中はとにかく細かいことに気づく方で。一般人の耳よりも明らかにたくさんの情報を聞き取っていらっしゃるんだろうな、というのがすぐ分かる感じ。

アドバイスと褒め言葉では、先にアドバイスが出る感じ。いわゆる優しい人、というより、音楽に対して絶対に諦めずなるべく全ての点で良くしようと挑んでいらっしゃる感じで。私にも指揮のアドバイスがまず先で、その後にハグとか励ましとかを、という順番でした。アメリカでは妙に明るく楽しく辛くなく…という喋り方を推奨することが多くて、最初にまず褒めろと言われる事が多いけれども、そういうのとは違う感じで。私は厳しく指導されても嬉しいタイプなのでありがたくて。

仲間を大事にする感じもあり、でもみんなウィントンさんの意見が出るとピリッとしている感じもあり。

子どもたちを大事にしているのは、終始あちこちで分かって。終演後疲れているだろうに社会科見学で来た子どもたち全員のサインと写真撮影に応じていたり、冗談を言って笑わせているのを見て、この方はこうやっていつも子どもたちを励ましてきたのかしらとうるうる。近くに立っている私を指差しながら子どもたちにOur conductor did a great job(僕たちの指揮者はいい仕事したよね)と私にまでサービスするのも忘れず、で、いやはや、何もかも見えている方なのね…と思ったり…。

もっと書きたいことたくさんあるのだけど。。。次はいつブログを書けるかな〜汗。今NYでレコーディングやライブが目白押しなのでこの話についても書きますね!

NYにお住まいの皆さまへ
2023年5月16日(火)にMusic of Migiwa Miyajimaと題し、渡米10周年の記念コンサートを実施します。是非おいでください。画像クリックで詳細&チケットリンクに飛びます。

会場のアコースティックが素晴らしくて…演奏するのが楽しみです!

ステージ上での動画は実はここにこっそりあります!スクロールして右まで進み、一番最後の動画を御覧ください〜!今見ると、本当にトランペットの椅子にウィントンさんが居て、逆に緊張するわ笑。





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