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『カリギュラOD』はプレイするに値する作品か

 『カリギュラOD』をクリアすることができませんでした。いや、正しく言えば、PS4版で追加された“楽士編”をクリアすることができませんでした。

 それはただ、物語にのめり込むことができず、という理由ではなく、システムの問題です。バグが多く、進行バグにも何度か合い、ストレスも多かったです。バージョンアップでそれに対応するという公式からの通知もありましたが、やはり「ゲームは買った瞬間に猛烈なやる気が満ちる」もので、そこから何週間も修正を待つには、あまりにも興をそがれる。

「バグなんて関係ねえ!!」と正規ルートの“帰宅部編”は根性でクリアしましたが、私的にはダンジョンデザインが致命的で、「この2018年に15年以上前のような冗長なだけで終わりの見えない、答えの分かりにくいダンジョンを、強制的にザコ敵と戦うというチャチャも入りながら走るにはあまりにも辛すぎる」というのが正直な感想です。

 メインの物語もある種、淡泊です。仮想世界・メビウスを作った“μ(ミュー)”を追いかけては会うことができず、追いかけては間に合わなくてという繰り返しがストレスを生むし、抑揚が少ない。そして何より、その間に問題のダンジョンが常に挟まってくる。

 こんなにもキャラクターたちは魅力的で、“μ”という存在も大きく、楽士ルートもワクワクが多い中、なんでこんなシステム……! という、ままならなさを感じざるを得ません。それでも私は、このゲームを“クソゲー”の一言では表せないし、愛情を感じています。

■生き辛さを抱えている人ほど

 本作は、もちろん学生といった子どもにも刺さる”学園“ジュヴナイルですが、大人でも、いや、大人こそ各キャラクターたちへの理解や共感、同情を得られる名作であるとは思います。私はゲーム冒頭の、“あなたのこころのなかを見せて”という演出が大好きです。本当に悩んで悩んだ結果、カウンセリングでも見えてこなかった、「本当に私が望んでいること」が見えてきました。そこに、本作の恐ろしさの一片が表れていると思います。

 メビウスで暮らす人々は皆、現実世界と同様の姿と限らず一様に高校生で、華の青春時代を謳歌しています。欲しいものは、みんな“μ”が与えてくれます。素敵な彼氏も、無限のお金も、人気の生主にだってなれちゃう。外見だって思いのままだし、まさに夢の世界。

 ただし、ここが普通の学園ジュヴナイルと異なる点で、おもしろい部分です。「高校生の外見をしているけれど、中身はどうかわからない」。本当は50歳の冴えない窓際社員かもしれないし、逆にいじめられっ子の中学生のお子様かもわかりません。この年齢の幅による悩みの差異は、キャラクターの多様性や、それぞれの距離感を絶妙に生んでいます。“絆”を描くことだけが、学園モノRPGではないことに気付かされます。だって皆、現実社会でも、絶妙な距離感を保ちながら生活しているんですから。

 さて主人公だって、“中身”が実際の高校生である必要はありません。「私」自身、「私」そのままでいいのです。

 毎日満員電車に乗って会社に行けば、くだらねぇことで理不尽に上司に文句を言われるし、部下は仕事しねぇし、こんな世界なんて消えてしまえばいいのに、なんて思ったことがある人は多いはずです。

 私だって、くだらない周囲の邪魔のおかげで好きな人と結婚できなかったし、過食症で太ってから体重は減らないし、そんななかで、年下の女から「私は優しい彼氏がいて、モデルの仕事も続けられて、本当に充実してる勝ち組だから」とよくわからないマウントを仕掛けられるし、こんな世の中、いる意味あるのか……? なんて考えることだってある。

 そんな現実から目を背けて“メビウス”というヴァーチャルな世界に逃げて来た登場人物たちの抱えるトラウマは深く、知るほどに心が痛くなります。そして、それを克服しようと立ち上がる姿は、どうにもならない精神疾患を抱えている人間ほど、そのたくましさに勇気をもらえるはずです。自分と向き合って、腰を上げる難しさをよくわかっているから。

 でも、もし「メビウス」が実在していたら? 私は確実に身をゆだねているでしょうね。でも、一部のキャラクターにように、私も帰りたくなるの……? いつまでも夢の世界にいたいのは間違いないですが、きっと帰りたいと願って帰宅部に入部するはずです。だって、猫が待ってるから。多分、帰りたい理由なんてそれでいい。

■このゲームをプレイする価値はあるか

 さて本作は、総合的にみて点数を付けるとしたら、残念ながらとても低くなります。500人のNPCの問題を解決する、本作ならではの群像劇システムは、コピペキャラの温床でただの作業になってしまって、NPCの物語を紡ぎたくなるような仕様ではなくなってしまったし、前述のようにダンジョンはひどいし、大量に獲得できる装備も手に入れる喜びがなくてポイントにしか見えないし……。

 本当に、ネガティブな部分ばかりでごめんなさい。でも、私はこのゲームが好きです。どうしようもなく。

 だから、とても“もったいない”。もっといいものにできたはず。こんなにテーマもキャラクターたちも生き生きとしているのに。

「このゲームを買うべきか」と言われると悩みますが、「胃洗浄」なんて言葉がナチュラルに出てくるゲームを今まで遊んだことなんてなかったし、それで笑っちゃう人は速攻買って、がんばって遊ぶべきだと思います。メンヘラ大好きかよって話でもなくて、今の生活のなかで、少しでも生き辛さを感じている人は、きっとのめり込むでしょう。

 私も“楽士編”ルートをがんばってクリアします(笑)。ですから、少しでも刺さるものを感じた人はぜひ、がんばって遊んでみてください。