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【音盤レビュー】アリス=紗良・オット ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番ハ長調 ほか

最近のDGはイエローが大きくなっていて良い

【収録情報】
ベートーヴェン:
・ピアノ協奏曲第1番ハ長調 Op.15
・ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調 Op.27-2「月光」
・バガテル イ短調 WoO 59「エリーゼのために」
・11のバガテル Op.119~第1番:Allegretto
・バガテル ハ長調 WoO 54「喜びと悲しみ」
・アレグレット ロ短調 WoO 61
アリス=紗良・オット(ピアノ)
オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団(1)
カリーナ・カネラキス(指揮:1)
2022年10月(1)、2023年2月26日~3月1日(2-6)

アリスのオール・ベートーヴェンプロ。
2010年にもワルトシュタインをメインに据えたアルバム出してたが、コンチェルトは初。
いやこれがもう……。
めっちゃ良いんよ!(大声)

アリスのコンチェルトはこれまで
・チャイコフスキー1番
・リスト1番
・グリーグ

がリリースされてたけど、どれも推し身びいきを差し引いても正直何と言うか……せいぜい「悪くはない」どまりだったんよね(汗)。
ソロで魅せてくれる閃きがあまり感じられない、と言うのが偽らざるところ。
特にチャイコフスキーは最初から最後まで煮え切らないままで「何だかなぁ……」って感じだった。
実演はもうちょっとマシだったけどね。
ちなみにリストも実演の方がずっと良かった。

それが今回、いい意味で予想を裏切ってくれた。
間違いなく、アリスのリリースされているコンチェルトでは一番にオススメできる。
若きベートーヴェンの「未来へ向かうパッション」をそのまま写し取ったかのような前進力に満ちた演奏。
「深み」や「滋味」こそないけれど、この曲ならこういうアプローチは全然ありだし、そもそもそんなの、今の年齢の彼女が目指すべきとこじゃあない。

そして何より女性指揮者・カネラキスのバックが最高にイカす!
射程は短め、キビキビと刻む「チョイ古楽風」なので「息長く深い音楽」ではないものの、上記の通りヤング・ベートーヴェンの野心溢れるこの曲には相応しいとも言える。
硬めのバチとよく張られたティンパニの強奏がとにかく終始雄弁で痺れる。
このアプローチで「エロイカ」とか聴きたくなるなぁ。
要注目の指揮者だわ。
ところどころ、アリスが「ウェット」寄りになりそうになって、それをオケが軌道修正しようとぶつかるあたりもスリリング。

アリス自身はベートーヴェンのコンチェルトでは3番が好きとライナーにはあったが、どうせならもうこのコンビで全集作っちゃえば?
DGさん、よろしく!(笑)
あ、ちなみに私は4番が一番好きだから頼みまっせ!w

コンチェルトが良過ぎて残りが「おまけ」みたいになってるけど、月光ソナタも悪くなかった。
気を衒わず、この曲の幻想感を素直に表出。
少なくとも以前のワルトシュタインのように「持て余している」感がないだけでも十分。
……正直ワルトシュタインの入ったあのアルバムはアリスで初めて「イマイチ」と思っちゃったんだよなー(汗)。

フィルアップにベートーヴェンの小品を入れるのはワルトシュタインの時と同じ。
ある種、アリスの自由でのびのびとしたスタイルはこういった曲の方が合っている気がする。
面白いのが、「エリーゼのために」が前回も今回も入っていること。
「再録」ということになる。

ちなみに演奏時間は
2010年:3:22
2023年:2:46
あんな短い曲で30秒違うって相当なもの。
実際、アプローチもかなり違う。
前回はメロウで揺蕩う感じ。
今回はさっぱりスッキリ。
こればっかりは前回の方が好きだなー。

というか、この曲はかつて実演のアンコールで聴いて度肝を抜かれた。
とにかく最初から最後まで弱音で弾き切る。
終盤の華やかなフレーズですら中音を超えない。
儚くて苦しい3分間。
ある種「手垢のつきまくった」この曲にこんな表情があるなんて、と感激したのを今でも鮮明に覚えている。
その意味で言えば、前回の録音の方がそれに近いのでね。

ちなみにこれが2010年のベートーヴェンアルバム。髪が長いころ!懐かしい!

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