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MONO NO AWARE/LOVE LOVEを聞いて

私はMONO NO AWAREと出会ったのは2年前。所属する軽音楽部でコピーしようと先輩に誘われたバンドだった。軽音楽部で伸び悩んでいた私は、尊敬している先輩に誘われたことが嬉しく、練習にのめり込んだ。

最初はバンドメンバーへの恩返しと自分の殻を破るために練習していたが、次第に曲の魅力に気づく。
アルバム「AHA」の最初の曲、東京。ただのバンドの基盤ではない、遊び心と躍動に溢れたドラム。動きながらもバンドの軸となるベース。ノスタルジックで心地よい、八丈島を想起させるギター。温かく、まるで昔話を語るように歌うボーカル。それらが合わさって、優しく美しく、それでいて心に迫ってくるような音楽だと感じた。

私はこの曲に出会って初めて、バンド音楽に「心地よい、だから好き」という感情を抱くようになった。これを機に好きになるバンドジャンルも変わっていく。

時が流れ、2021年6月。部活で様々なコピーバンドを組む中で自分の演奏実力の限界を感じ、同時に就職活動を終え、大学4年生になっていた。

あれからずっとMONO NO AWAREは好きだった。ライブにも1度行ったし、コピーバンドだってもう1度やった。当たり前のように新しいアルバム「行列のできる方舟」もApple Musicでダウンロードして聞いた。「あ!新しいの出てる!チェックしよ~」くらいのノリで。

しかしここで度肝を抜かれる。5曲目「LOVE LOVE」がめちゃめちゃ良い。めちゃめちゃめちゃめちゃ良かったのだ。ぜひ聴いて下さい。

まず目についたのは2番Aメロの歌詞だった。

君とまばたきのタイミングが 死ぬまでずっと一緒だったらいいのに
それなら「君から目を離さない」 って約束も嘘にはならないのに 
白馬の王子様を探してた君を 笑う僕も眠り姫を探してた
(MONO NO AWARE/LOVE LOVE)

『君とまばたきのタイミングが 死ぬまでずっと一緒だったらいいのに』
びっくりするほどロマンチストで。そんなこと普通は考えない。どこまで尊大な愛なんだろうと想像する。
『それなら「君から目を離さない」 って約束も嘘にはならないのに』と恋人にも公言してしまってるところも驚き。相手を守りたい。盲目で自分たちしか見えていないような恋愛なのだろう。
でも最後で『白馬の王子様を探してた君を 笑う僕も眠り姫を探してた』とくる。現実的でない人を揶揄していた自分が、同じように盲目で感情的にになっていたことに2番のAメロで初めて気づいたような、どこか他人事のような響きだ。

初めて人を本当に好きになって、自分の意識が感情に支配されていく。そんな自分を認知し驚きを感じるとともに、新しい自分もアリだなと受け止める。そんな歌に感じる。

歌い出しが静かに始まるところも、ひとりでひっそりと考えをめぐらせているよう。しかし2番のAメロで自分の非現実的な感情的な一面に気づいてからは、演奏自体も尊大な雰囲気に変わっていく。2番サビ後の間奏とCメロでは、歌詞に出てくる通り「宇宙」を彷彿とさせるようなメロディーが入る。そしてCメロ最後には『君が眠れない夜は流れ星を落としたい』と4回歌う。

聴者はロマンチストすぎる・・・!と若干尻込みながら、演奏や歌詞の美しさに圧倒され、その振り切った愛に憧れを抱き、自分自身の盲目的な一面に気づくのではないだろうか。


私はこの曲を聴いて、自分の本当の感情に素直になりたいと感じた。
私は大学3年間で軽音楽部の活動に心血を注いできた。しかしなかなか上達せず、好きだったドラムを演奏することが苦痛と変わり、次第にはコンプレックスになっていた。
また私は「頑張っている自分」という自己像が好きなので、何か1つのことを心から集中して取り組むことができていない自分にも、嫌気がさした。
そして同時並行で行っていた就職活動。納得のいく大手企業に就職を決められたのは良いが、その過程で自分の持つ憧れに気づかず、やりたいことを諦めた。未来を1つに決めるためにはしょうがないことなのかもしれないが、依然としてアイデンティティ拡散中の私は、自分の進路決定に少し未練やコンプレックスを抱いていた。

しかしこの曲を聴いて、他人の目や世間体、将来の安定を気にすることを一旦やめて、「今」の「自分」のために生きたいと思うようになった。完全に振り切るのは無理だけど、今の自分をもう少し尊重して生きても良いのではないかと思った。

具体的には、まずドラムを楽しく叩くこと。誰に見せるわけでもなく、私が音を楽しむために。私は元来美しい音に対して、嫉妬や焦りを感じる人間ではなく、それに合わせて踊り出すような人間だったではないか。

こうして愛に関する楽曲から、私は「自分らしさ」を見つめ直しているのだった。





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