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「つかずはなれずでこれからも」(1/2)

最優秀賞に選ばれたいな。クリープハイプに想いが届いたら。下心こみこみで、でも忖度せず、誠実に、このライナーノーツを書きます。

クリープハイプを好きになったのは、「憂、燦々」がリリースされた頃。私が中学生の頃だった。
何にもない田舎で、両親の仲が悪い家庭で育った私は、狂ったようにクリープハイプを聞いた。何より一番好きだった。私のアイデンティティの1つだった。せまい世界から抜け出せず、誰に言ってもどうにもならないであろう思いを自分の中に隠して、クリープハイプの歌詞に重ねて生きていた。
そんな中高生時代を経て大学生になった私は、一人暮らしを始め、大切な人たちに出会った。軽音楽部で色んな音楽に触れることで、徐々にクリープハイプを聞かなくなった。
自由を手に入れ精神が安定したことで、「クリープハイプがないと生きていけない」状態から脱したのだ。

しかしそれでも、ふとしたタイミングでクリープハイプに戻ってくる。「キケンナアソビ」がリリースされたとき。尾崎さんの作品が芥川賞候補に選ばれたとき。クリープハイプのコピーバンドをしたとき。

今回のアルバム曲を心待ちにするようになったきっかけは、「しょうもな」のMVがアップされたタイミングだった。「ああ、やっぱりクリープハイプ最高やな」と思い、なんとなく安堵した。

このように少しクリープハイプと距離ができた人間が書いていることをお見知りおいた上で、よかったら続きをどうぞ。


「夜にしがみついて、朝で溶かして」ライナーノーツ


1.料理

私はクリープハイプのギターがたまらなく好きだ。言葉で表せないけど心をつかまれる。メンバーが「クリープハイプはギターロックだ」と公言していたんだから、そりゃそうか。でも、本当に、幸慈さんが鳴らすギターは私の中ではピカイチなのだ。
この曲のイントロもそう!シンプルなんだけどかっこよくてちょっと切なくて、良い音で、「これがクリープハイプだ!!!」と叫びたくなる。
1曲目Aメロから尾崎さんの言葉遊び全開だ。「朝飯」を「浅ましい」なんて形容する人、他にいる?尾崎さんは「洗濯」をよく使うなあ、なんて思いながら聞く。
サビに差し掛かったあたりでアルバム名の下に書いてあるApple Musicのインタビューに気づく。(私は音楽を聴くときはApple Music派だ。)そこには尾崎さんが初めて料理をして、『ごちそうさま、おいしかった』と言われる気持ちを知った、と書かれていた。
尾崎さんが誰かのために料理してるってこと?!めちゃめちゃ驚いた。でも嬉しかった。私がクリープハイプから少し離れているうちに、尾崎さんも他のメンバーのお三方も関係者の皆さんも変わったんだろう。でもそれが当たり前。だって私も変わったんだから。
「クリープハイプの思いや取り巻く環境は変わった」。そういう先入観を持って聞くと、「食べてやる(みろ)よ」「おぞましい」なんて言葉も、感情むき出しの以前とは違って聞こえる。
二人が衝突しても、それから目を背けた時間があったとしても、いつか向き合うような、そんな予感がする曲だった。


2.ポリコ

クリープハイプの曲で「○○コ」と言われると、マルコが思い浮かぶ。ポリコも新しい家族なのかなと思ったら違った。笑
MUSICAのインタビューを読んだところ、ポリコ=「ポリコレ(ポリティカル・コネクトレス)」のことだそう。無知な私はこの言葉の意味を知らなかったから調べてみた。政治や性別、民族のような、対立を生みやすい事柄に対する中立的表現らしい。

「ポリコ=ポリコレ」を導くヒントに「パリコレ」をしのばせて、遊んでいるのかなと考えたら、面白くてとっても愛おしかった

私にとってこの曲はこの世界で「生きる」ということだ、と感じた。
Aメロでは、世間に監視され決められた毎日に鬱々とした思いをつのらせていく。そして、超シンプルなサビで放り投げて爆発させる。そんなイメージを抱いた。
社会が変わらないことへの諦念。でも実は変わらない自分への絶望を抱いている。それに気づき始めたけど、認めたら自分が壊れそうで、どうにもできない。そんな感情の渦巻きを感じた。
ああ人間だ。ていうか、これは私だ。


3.二人の間

打ち込み音がめちゃめちゃ可愛い曲。生活音のようでもあり、ちっちゃい動物がピチュピチュしゃべってるみたいでもある。お笑い芸人のダイアンさんに書いた曲と知って、この新感覚に合点がいった。

音色の軽さも相まって、アルバムの中では箸休め的な曲だなと感じた。歌詞もシンプルで、というか「言葉にならない」まま終わっている。
でもこの空白に感じるなんとも言えぬ「クリープハイプ感」。簡単に言葉にしない浮遊感と安心感。好きだ。


4.四季

最初のフロアタムを聞くと、春の大地を想像する。四季のシングルジャケットの双葉を支える大地だ。なんてかっこいい音。歌入りのクラッシュシンバルも好きだ。私もこういうドラムを叩きたい。
この曲の主人公は女性に思えてしまう。尾崎さんの0.001秒だけ長く発音しているような優しい歌い方。珍しく使用されているアコギの音。ふわーんとしたリードギターの音。黒髪ワンレンロングの女性が春色のワンピースを着て、風に吹かれているようなイメージだ。
キーボードが鳴り始めて、1人が2人になる。黒髪の女性と秋色の髪の彼。コーラスも始まって対話をしているような。

この曲はこのイメージで、あえて歌詞を深掘りせずにイメージを楽しみたいなと思った。


5.愛す


今回収録されているシングル表題の中では一番最初に出た曲だ。
この曲を最初に聴いたとき、音の空白が多くて今までにない曲だなと思った。また尾崎さんの声も落ち着いた雰囲気で、新鮮だった(今までの歌い方も最近の歌い方もどちらも好きです)。
しかしそれと同時に今までの曲との繋がりを感じた。Bメロの「ベイビーダーリン・・・」と繰り返す歌詞は、「ラブホテル」や「憂、燦々」などのそれでもよく使われている。
また、すれちがった2人の別れの曲で「時間通りに来るバス」と言われると、「すぐに」(シングル「愛の標識」の赤盤のカップリング)を思い出す。
加えて、ホーン隊の音といえば「イト」を彷彿とさせるが、今回の方が音が低く感じて落ち着いていて私は好きだ。
このように新しさと従来らしさが掛け合わさって、とっても素敵だなと思う曲だ。


6.しょうもな

冒頭にも書いたとおり、このアルバムを意識する発端となった曲だ。
最初聞いたときはBメロの回文に目(耳)を奪われているうちに、強いサビのメロディ(カオナシさんのコーラスも激アツ!)が来て「うわあ...!かっこいい...!!!!!!」となってあっという間に終わった。
疾走感があってあっという間だから、何故こんなにかっこいいと思うのか分からないまま終わる。何度も聞きたくなる。聞く。歌詞を見ながら聞く。それでも何でかっこいいと思うのか理由が分からなかった。「今は世間じゃなくてあんたにお前にてめーに用がある」とかパワーワードなんだけど、今の私には刺さらなくて(昔の私にはめっちゃ刺さってたんだろうな)。

しかし、MUSICAのインタビューを読んだ後に聞いて、やっとこの曲がかっこいい理由が分かった。

この曲は歌詞じゃなくてなのだ。

この疾走感とサウンドと、歌の音。それがとてつもなく素敵で好きなんだと思う。尾崎さんはインタビューで「歌詞は小説よりとして意識している」とおっしゃっていた。私は元々クリープハイプの歌詞に自分を重ね意味を噛みしめていた人間だから、その記事を読んで少し寂しく思っていた。

しかし、この曲を「音」として捉えハマっている自分に気づくことができた。おこがましいけれど尾崎さんの価値観を少し理解することができたようで、嬉しい。


7.一生に一度愛してるよ

バンドが変わっていくこと。恋人が変わらないこと。
「逆だったらな」というけれど、私はそれがいい。

バンドは変わっていってほしいし、恋人は変わらないでほしい。
(ちなみに私の彼氏の名前もコウキです)

このアルバムは変化のアルバムだそう。確かにアルバムを通して聞いた第一印象は「今までのどのアルバムとも違うな」だった。
音も打ち込みが多くて、インタビューの言葉を借りれば「ロックバンドからの逸脱」。歌詞も全体的に客観的だなと思った。
でもこの変化が嬉しい。私が変わった間にクリープハイプも変わったことに、人生を共に生き抜く相棒と呼べるような絆を感じている(勝手に)。
それに、変化した私が、また変化したクリープハイプに再会し、変わらず好きだと思ったこと。これってすごいことだと思うのだ。

だから嬉しい。本当に嬉しい。

これからもずっと一緒に生きていくような、そんな予感がしている。
つかずはなれずで、これからも。


(8-15曲目は後編(2/2)で。)


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