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大掃除は イベントだ

大掃除はイベントだと、思っている。

私は高校3年間、学校の寮で過ごした。
ルールの厳格な寮だった。
毎朝6時半にチャイムが鳴れば、起床と同時に分担された掃除場所に走り、掃除が始まる。(着替える間も許されないので、みんな、すぐに掃除ができるようなスウェットを寝巻にしていた。)

その「朝いちばんの掃除」の方法は、濡らした新聞紙を細かくちぎって撒き、ほうきで掃く。60年前ではない。せいぜい30年前の話。新聞紙は、きちんと広げて水道の水を出さないと、ちぎる時に細かくならない。手早く濡らし、適度に絞って、ちょちょちょいとちぎってから、隅々まで掃く、ぬらした新聞紙がほこりを絡めとってくれる。

掃除が終わる頃、朝ごはんの配膳担当の人が、ガランガランと大きなベルを鳴らし、全員揃っての朝食。学校の校舎まで歩いて3分ほどなのに、始業の1時間以上前には朝ごはんも食べ終わっている。そういう寮だった。

この寮では、年に3回、大掃除がある。毎回定期テスト最終日の午後が、大掃除の日だった。

そう、定期テスト最終日の午後。

テストが全部終わって、解放されて、友達同士で遊びに行くのが楽しみな、そんなはずの日が、全員参加(と言っても20人強)の大掃除の日。部活がある人は部活を休んで大掃除。塾のある人は塾を休んでの大掃除。

テスト後、お昼ごはんを食べ終わると、寮生全員が体操服姿で集合。(一番汚れてもいい服装だから。)13時半くらいだったか?お掃除係から、掃除の分担が発表され、3~4人ずつのチームでお掃除開始。

いつもと同じように新聞紙をちぎって撒き、床を掃くと、更にマイペットで拭き掃除をする。そして、ワックスをかける。1930年代に建てられた木の床が、つやつやになり、鏡のように自分の顔が映るまで、磨き上げる。(これは誇張ではなく本当の話で、大掃除直後の写真を見ると、確かに床が鏡のように光っている。)

配膳室や食堂の担当になったチームは、そこに置いてある備品も同じく掃除する。特に大変と評判なのは配膳室で、ヤカンの1つ1つに至るまで、クレンザーとスチールウールで、曇り1つなくなるまで、ぴかぴかにする。

朝食のパンを焼くためのトースターで、お弁当のおかずのお魚を温めるのが流行った時は、トースターに魚の油がこびりついて、担当の人は本当に大変だったらしい。次の学期から、自然に自粛された。

自分の担当場所が終わると、他の場所にまわり、残っているものを手伝う。夕方近くなれば、寮生の半分以上が配膳室の床に座り込んで、何かしらを磨いている。

終わりが見えてくると、磨いたばかりのヤカンでお湯を沸かし始める。舎監の先生からのプレゼントであるケーキが、駅前のパン屋さんから届く。卒業したOGから差し入れられたお菓子の箱も、玄関の机のところにいくつも積んである。

だいたい5時くらいに大掃除が終了。沸かしたお湯で暖かい紅茶を入れ、差し入れのお菓子を頂く。手はガサガサだし、足も冷たいけれど、やりきった、という爽快感はある。

最初に「定期テスト最終日に大掃除」と聞いた時には、なんとご無体な、と思ったけれど、案外すぐに慣れ、大掃除まで含めてのテスト期間だなぁ、と感じるようになった。

そんな訳で、大掃除は、イベントなんだ。

マメさはないので、日々こまめに掃除をするのは、あまり得意ではないけれど、「覚悟を決めた掃除」は、アトラクションだと思っている節がある。成果が見えやすいものは、特に楽しい。いや、成果というのは、自分だけが見えていればいい。レンジフードの裏側が、すっごいキレイになったとかね。

ただ高校生の頃と違うのは、「ちょっとの妥協」をするようになったことなんだよね。

ぴかぴかに磨き上げたヤカンは、曇り1つないからぴかぴかなのであって、少しでも磨き残しがあると、逆にそこが目立ってしまう。最初から磨かなければ、全体的にグレーで問題なかったのに。
大掃除が終わると、私の目が「汚れ」に対しての解像度が高くなる。そこに更に、95%キレイにしたために、むしろ5%が目立つという現象が起こり、掃除前よりも、あちこち気になることもしばしば・・・。

まぁ、それも数日使ううちに気にならなくなるだろう。それでいいや、と思うようになった。もうヤカンをぴかぴかに磨き上げるような完璧な仕上がりに到達することはないだろうなぁ。(まぁいいや。)

なお、高校時代、私たちの中で一番人気のお掃除は「ドアノブ磨き」だった。これは大掃除の日ではなく、終業式の日に、お部屋の一番下級生が担当する。その名も「ピカール」という磨き剤があり、雑巾に少しつけて、真鍮製のドアノブを拭くだけで、本当にアッという間に、ぴっかぴかに輝く。あれ、楽しかったなぁ。

ピカール。真鍮磨きだと思っていたら、金属磨きだったらしい。
他の金属もぴっかぴかになるのかな。

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