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大阪都構想とは~財政と住民サービスへの影響~

第1. はじめに

大阪維新の会が主張する大阪都構想のメリットの1つとして「経費削減により、住民のために使えるお金が増えます。」という記載※1がある。
 賛成派の意見としては、大阪都構想が実現すれば、「二重行政」による様々な不具合の解消と、経費等の削減や特別区の設置により住民サービスが充実することを主張している。
 一方、反対派の意見としては、「二重行政」の解消は、大阪都構想が実現しなくてもできる、むしろ大阪都構想の実現により「三重行政」が生まれ、より複雑になる。住民サービスは充実することなく、むしろ今よりも削減されるのではないかということを主張している。
 以下においては、それぞれの主張の具体的な中身を見て、大阪都構想についての様々な意見を整理していきたい。

第2. 大阪都構想実現のメリット

1.「二重行政」の解消
大阪都構想における経費削減の文脈で出てくる言葉として「二重行政」が挙げられる。
 二重行政とは、大阪市と大阪府、広域機能を有する両者が、狭い府域の中で、大阪トータルの視点が十分でないまま、役割分担を明確にすることなく、府市それぞれが、それぞれの考え方に基づくサービス提供が行われ、大阪都市圏全体として最適になっていない状態を指す。
 例えば、大阪府は「大阪府立大学」、大阪市は「大阪市立大学」をそれぞれ設置、運営している状態では、府・市それぞれに設置、運営のコストがかかるため、不経済であるといえるであろう。

大阪都構想とは~財政と住民サービスへの影響~パワポ.pptx

府市信用保証協会の合併や、市立特別支援学校の府への移管等により改善がなされているが、他にも府市湾岸管理の一元化や、市立高校の府への移管等が求められている。
2.なぜ都構想が必要なのか※2
 現状、このような移管や一元化等により、二重行政の一部は解消しつつある。
 これは、大阪府知知事と大阪市長の方針が一致することによりできるものであるので、従来「府市あわせ」と揶揄されるような、大阪府大阪市の連携不足や、知事と市長の方針の不一致などの場合(所属政党や政策が違う等)があれば、この問題は解決できない。また、時の首長の関心の有無等でも変わり得る。
 そのため、中長期的かつ継続的な視点に立ったインフラの整備等の際に、首長の交代や協議の遅れによるロスなどの支障が出ていた。
 しかし、特別区制度によって、大阪府市を再編し広域行政を大阪府に一元化することで、将来にわたり解消できると言われている。
3.経済効果(どれくらいの費用の削減が見込まれるか)
 おおさか未来ラボ※3によれば
 ①特別区設置による財政効率化効果
 根拠:大阪市ではなく、4特別区が同水準の住民サービスを提供した場合、1年で約1141億円ほど費用が安くなることが期待されている。
 ②二元行政一元化による財政効率効果

大阪都構想とは~財政と住民サービスへの影響~パワポ.pptx (1)

根拠:病院・大学について、市・府がそれぞれ独立して運営している施設を統合した場合、1年間で約6.4億円ほど事務職員の人件費の負担の削減が期待されている。
 ③二元行政一元化による経済効果
 根拠:地下鉄中央線の延線等の工事について、市・府の協議が不要となるため、それに費やされる時間及びその間に得られていたであろう経済効果の減少がなくなる。
 仮に1年4か月協議・調整にかかれば経済効果として約650億円の減少、調整等が終わらず工事が出来なければ経済効果がゼロである。
 ④公共インフラ投資による経済効果(公共インフラの生産性の向上)
 根拠:現状、大阪市・大阪府の公共インフラの限界生産力(≒効率)は0.2と、東京の0.4の半分。これが大阪都構想の実現により浮いたお金で投資等が行われ、改善され東京並みになると仮定する。
 以上の4項目による大阪都構想の経済効果は10年間で約1.1兆円といわれている。
一方、大阪都構想が実現しなかった場合の経済効果はゼロである。
4.住民サービスへの影響※4
 都構想実現後の特別区においては、住民サービスは現在よりも向上すると言われている。
 根拠:現状は、大阪市全体の観点から市長が決定し、組織が大規模な市役所が、市全体で一律のサービスを行っている。
 特別区においては、住民により近い区長が、特別区の特性に応じて決定し、住民により近く小規模な特別区の区役所が、区ごとの実情や課題に応じた住民サービスを提供することになるためである。
 例えば、子育て世代が多い地区は子育て支援を充実。高齢者が多い地区は高齢者の支援を充実するといったことや、特別区間に競争力が働きよりよい住民サービス提供することを目指すようになるという見解がある。
 また、大規模災害時等は大阪市全体を1人の市長が管轄するのではなくその特別区のみを特別区区長が管轄することになり、より迅速かつ地域の実情に合った判断を下すことが出来る等の期待がされている。

第3. 反対意見

1.二重行政の解消にはならない?むしろ「三重行政」の危険性も?※5
 都構想が実現すると、一般には大阪市を解体して「大阪府」と「特別区」に分けるとされているが、実際は「大阪府」と「特別区」の間に「一部事務組合」という組織が生まれることになる。
 これは、大阪市がなくなってしまった場合、現在の24区全体を1つにまとめて管理しなければならない情報システム管理・介護保険等の事務が、大阪府にも特別区にも担当することができないため、これらの事務を担当する一部事務組合を別に設置する必要があるためである。
つまり、現状の「大阪市」「大阪府」の二重行政から、「大阪府」「一部事務組合」「特別区」の三重行政になり、「一部事務組合」の事務については、一部事務組合の議会による意思決定と執行機関による執行がなされることになる。
 そのような制度設計からすれば、特別区の住民の意思を直接反映することができず、特別区の趣旨たる迅速な意思決定や住民意思の反映といったことに反するのではないかという疑問がある。
2.経済効果も薄い?
 特別区においては、運営の効率化等が図られ、費用が安くなるという説明がなされている。
 しかし、一般的に自治体が分割され、その数が増えればスケールメリットを活かすことができなくなり、職員数をはじめ、経常的な行政運営コストは増加することが考えられる。
 現に、特別区における事前の計算では、R4年時点の想定において、現大阪市のままでは1万2700人であるが、議会試算では+930人。行政試算では+330人となっている。※6
 それ以外にも、イニシャルコスト(初期費用)としては試算によって異なるが241~561億円※7程度の費用が、ランニングコスト(運用費用)も試算によって異なるが、10年間で300~480億円程度になるという試算もある。これらの試算には公務員の増加の人件費分等が入っていない計算の場合もあり、経済効果が想定よりも少ないのではないか、あるいは、経済効果の計算が曖昧で市民への十分な理解や説明に繋がっていないのではないかという批判もある。
3.「特別区」では言われているような住民サービスは実現できない?
 前提として、現在の大阪市の年間歳入額は8600億円、そして豊富な税収により3/4を自前で行政運営している。一方、特別区になると自前の税収が1/4に減少し、かつ特別区全体の予算も約6800億円と2000億円も減少するといわれている。※9
 こうすると、常に大阪府頼みの財源をあてにせねばならず、自立した自治体経営からほど遠いものとなってしまうという財政面での懸念がある。
 また、現在の「政令指定都市」から「中核市」にあたり、病院の開設許可、教員の配置、国道・府道の管理、都市計画の決定等の現状付与されている様々な権限が失われてしまうことから、現状に比べて住民の意思を正確に反映することが困難になるのではないか?という懸念もある。

第4. まとめ

以上の点を踏まえて考えると、大阪都構想では賛成派、反対派の意見を整理していても、1つのものを別の側面から見ている点が多いように思われる。
 特に、二重行政の解消という側面では、大阪都構想が実現すれば、迅速・恒久的に問題が意決する一方、現在の府・市の関係でも時間はかかるが解決は可能であるという表裏一体の関係にある。
 また、行政サービスの面でも、地域により密接になる一方で、権限の減少等により、近くなったとしてもできるサービスの幅が狭まると思われるし、経済効果として削減できる面もあれば、増加するコストもある。これらについては現段階では、将来のことを予測した「試算」に過ぎない面も多く、実際にどのような効果をもたらすかは未だ未知数であるし、人によってはもっと経済効果が多い、あるいは少ないのではないか、かかるコストがもっと多い、あるいは少ないのではないかという意見を述べている人もある。
 我々一般市民としては、そのような都構想の両側面を理解した上で、各人がどのような大阪が理想であると考え、賛成・反対のどちらの意見をとるかという選択が求められる。
 各々が様々な情報にふれ、自ら考えること、そのことが理想の大阪を実現していく第一歩になるであろう。

都構想note用草間康佑.pptx

参考資料
※1大阪維新の会HP「大阪都構想Q&A」https://oneosaka.jp/yestokoso/faq/より(10月5日閲覧)
※2第35回大都市制度(特別区設置)協議会資料 資料5 副首都・大阪にふさわしい大都市制度http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/30429/00366515/siryo5-1.pdfより(10月5日閲覧)
※3大阪未来ラボ 大阪都構想に関わるお金の話 より https://osakamirai.com/(10月5日閲覧)
※4副首都推進局 特別区制度(いわゆる「大阪都構想」)の意義・効果 住民サービスの充実・地域の発展【身近な基礎自治の充実編】参考資料http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/27077/00368518/08_sankou_kisojichijuujitsu.pdfより(10月5日閲覧)
※5『特別区設置協定書(案)の作成に向けた基本的方向性について』に対する見解 令和元年12月26日大都市制度(特別区設置)協議会提出資料20頁http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/30429/00338061/31-iinsiryo.pdf
より(10月5日閲覧)
※6 今更聞けない大阪都構想 どうなる公務員数
http://osakar.jp/より(10月5日閲覧)
※7 大阪市 大阪における特別区の制度設計 10.特別区設置に関わるコスト(10月5日閲覧) https://www.city.osaka.lg.jp/fukushutosuishin/cmsfiles/contents/0000489/489173/kosuto.png より241億円
  ※6 特別区と総合区の費用を比べよう より 464億円
  日本経済新聞 2019年4月8日付「大阪都構想とは 実現なら初期費用最大561億円」(10月5日閲覧)https://www.nikkei.com/article/DGXKZO43455990Y9A400C1NN1000/ より561億円
※8 ※7 大阪市 大阪における特別区の制度設計 10.特別区設置に関わるコスト より年30億円
大都市制度(特別区設置)協議会だより 平成30年(2018年)8月 第5号 (10月5日閲覧)https://www.city.osaka.lg.jp/fukushutosuishin/page/0000443378.html 特別区設置に伴うコストより意ランニングコストは41~48億円と試算
※9 ※6 特別区と総合区の予算を比べよう より

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