「一票の格差」について考えてみよう
選挙前後によく耳にする「一票の格差」。ニュースで裁判が行われているといった報道を見た方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、「一票の格差」の定義や、それに関する最近の動きについて解説します。
1.そもそも「一票の格差」って何?
「一票の格差」の定義
「一票の格差」とは、選挙区の人口によって、1票の価値に差が生まれる状態です。
憲法14条では、国民は法の下に平等であると定められています。同じ選挙制度で選ばれた議員は選挙区を問わず同じ価値の投票によって選ばれる必要があります。しかし、人口が多い選挙区の候補者のほうが当選に多くの票を必要とするので、1票あたりの価値が小さくなります。
例えば2つの選挙区A、Bがあるとしましょう。有権者数はそれぞれ100名、500名で、いずれも1名が当選するとします。
この場合、選挙区Bでは500票で1名の候補者を選ぶ必要がある一方で、選挙区Aでは100票だけで1名の候補者を選ぶことができます。すなわち、選挙区Aでの1票の価値は、選挙区Bの
0.01÷0.002=5(倍)
の価値があります。
このような差は、憲法14条で定められた「法の下の平等」に反するという指摘がなされていて、弁護士グループが選挙のやり直しを求めて訴訟を行っています。
「一票の格差」の弊害
「一票の格差」が大きいと、多様な意見を政治に反映させることが難しくなります。例えば人口が多い選挙区の有権者の投票意欲が低下し、有権者の意見が反映されにくくなるかもしれません。
もちろん、地域によって人口にばらつきが出るので完全に格差をなくすことは難しいのですが、法の下の平等を実現するためにもできる限り差を小さくすることが求められています。[1]
2.「一票の格差」と憲法判断
先ほどお伝えした通り、「一票の格差」をめぐってはたびたび憲法判断が行われています。
そこで、衆議院の例を用いて近年の裁判所の憲法判断の動きを見てみましょう。最高裁判所では憲法14条に基づいて、深刻な順に「違憲」、「違憲状態」、「合憲」※の3段階で判断しています。
※違憲:憲法に違反していて、ただちに改善する必要がある。
違憲状態:憲法に違反していて、合理的な期間内に改善しなければ違憲になる。
合憲:憲法に違反していない。[2]
グラフによると、1980年代以降には最大格差は減少傾向にあります。特に1994年に小選挙区比例代表並立制が用いられてからは、3倍以内に抑えられています。
また、2000年代後半からは裁判所が積極的に格差是正措置を求めるようになっていて、実際2017年には、アダムズ方式(各都道府県の人口を定数で割り、小選挙区の定員数を決める方法。3章で詳しく説明します。)によって選挙区の再編が行われたことが評価されています。[3]一方で、最大格差はここ20年ほどで、2倍前後で推移しています。訴訟に参加している弁護士の中には、現在の小選挙区制では改善の限界があり、選挙制度の仕組み自体を変えるべきだという意見もあがっています。[4]
3.改善の取り組み
次に、「一票の格差」を減らす取り組みを紹介します。「一票の格差」は選挙区ごとの人口と定員数のバランスが悪いことで生じるので、選挙区の再編や定員数の見直しが行われています。
選挙区の再編
はじめに、選挙区の再編について説明します。人口が少ない自治体の選挙区を減らしたり、人口が多い自治体の選挙区を増やしたりしてばらつきを抑えています。
例えば2022年12月に施行された改正公職選挙法では、東京都など5都県で選挙区を合計10区増やし、逆に滋賀県など10県で合計10区減らす「10増10減」の改定が行われました。また、比例代表制では「3増3減」となり、東京と南関東ブロックで増やし、東北・北陸信越・中国ブロックで減らすという調整が行われました。
これによって、投票価値の平等につながることが期待されています。一方で、合区があった地方で有権者が候補者の議員活動を検証することが難しくなったり、都会の声が優遇されて地方の有権者の意見が反映されにくくなったりするという懸念の声もあります。[5]
定員数の見直し
また、定員数の見直しも行われています。
例えば、2022年には衆議院小選挙区の選挙における定員数の改定が行われました。その改正では、各都道府県の人口をある数(X)で割り、商の小数点以下を切り上げて、整数にして定員を決める「アダムズ方式」が取り入れられました。その整数を各都道府県の定数とするため、定数が極端に減りにくく、地方にも配慮した仕組みというのがメリットです。なおXは、それぞれの商を切り上げた整数の和が小選挙区数の合計(289)になるように調整されています。
これによって、人口と定員数のバランスが改善されることが期待されていますが、地方の議席が減るので地方住民の意見を反映しにくいという短所もあります。[6]
4.まとめ
このように、一票の格差は定員数や選挙区数の見直しによって改善されつつあることが分かります。一方で、地方の選挙区の議席が減ったり、小選挙区制でいる限りは有権者と候補者のつながりを深めるのが難しいという指摘もなされています。
平等な投票のために、あるべき選挙制度の姿は何でしょうか。みなさんもぜひ考えてみてください。
5.参考文献
[1]政治ドットコム(2022)「一票の格差とは?有権者数との関係や問題点をわかりやすく簡単解説」(https://say-g.com/one_vote_disparity-133#i-2)
2023年9月1日閲覧.
[2]西日本新聞me(2013)「ワードBOX 「違憲」と「違憲状態」」(https://www.nishinippon.co.jp/wordbox/7493/)2023年9月1日閲覧.
[3]東京新聞(2023)「2018年の最高裁判決踏襲、アダムズ方式を評価 ほぼ2倍の「1票の格差」維持へ 21年衆院選「合憲」」
(https://www.tokyo-np.co.jp/article/227412 ) 2023年8月26日閲覧.
[4]朝日新聞デジタル(2022)「一票の格差訴訟判決 弁護団「100%評価」、最高裁判断に向け期待」
(https://www.asahi.com/articles/ASQC5020FQC4TLTB006.html)
2023年8月25日閲覧.
[5]NHK(2022)「衆院 選挙区「10増10減」の改正公職選挙法が成立」
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221118/k10013895651000.html )
2023年8月26日閲覧.
[6]産経新聞(2016)「衆院制度改革 そもそもアダムズ方式ってなに?2030年には東京の議員は50人に!そこまで一極集中させる意味はあるのか…」(https://www.sankei.com/article/20160315-7ID3E36TVRLKJG3WQOLSJ5MSXA/ )
2023年9月2日閲覧.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?