【検証】立憲民主と国民民主の違いはどこにあるのか。
ついに来週の2019年7月21日が、令和初の大型選挙となる参議院選挙の投開票日です。今回の選挙と、3年前に行われた平成最後の参院選には、大きな違いが1つあります。
それは「大きな野党が無い」ということです。
これまで1998年からおよそ20年に渡り、民主党・民進党が野党第1党、ときには与党として日本政治を動かしてきました。しかし、2017年の衆議院選挙で民進党が分裂しました。その後、立憲民主党が結党され、2018年には国民民主党が出来ましたが、2019年になっても旧民進党はこの2党に分裂したまま、再合流せずに今回の参院選に突入します。
では同じ先祖を持つ「立憲民主」と「国民民主」は一体どこが違うのでしょうか?本記事では、5つの観点から、この両党の違いを分析してみました。
(2021年10月19日筆者追記)
本記事における立憲民主党・国民民主党の比較は、2019年参院選段階における両党の比較です。2020年9月に再度結党された(新)立憲民主党・(新)国民民主党は本記事で紹介した同名の政党とは別物であり、したがって本記事の比較は2020年9月以降は立憲・国民の比較として妥当な内容となっていません。ご注意ください。
はじめに:基本情報
①スローガンと政治姿勢
まずは両党のスローガンや政治姿勢を比べてみましょう。
立憲民主党は結党以来、「まっとうな政治。」を掲げています。現状の政治が「まっとう」でないという認識から来ているものなのでしょうか。2017年の衆院選の際の声明 では、立憲主義・多様性の破壊、情報の隠蔽、そしてトップダウンで行われる政治への危機感を強く訴えています。安倍政権へのこのような厳しい姿勢を反映してか、委員会のボイコットも辞さないなど、国会でも政府・与党と対決姿勢を鮮明にしてきました。
対して、国民民主党は「つくろう、新しい答え。」をスローガンとして掲げました。その理念を紹介するページには、「建設的な野党」という文字が見えます。一部の世論調査(1)で明らかになった、「野党は国民の期待に応えず政争に没頭している」という批判を意識したものかもしれません。実際、国民民主党は、立憲民主党が鋭い対決姿勢を示していた「働き方改革関連法案」の審議のとき、「付帯決議」を提案した上で賛成に回り、立憲とギクシャクした状態になりました(2)。対決姿勢よりも解決策の提示によって独自色を示そうとしているようです。
②綱領と基本政策
続いて綱領(政党の憲法のようなものを指します)や政策の違いを見てみましょう。
立憲民主党は、綱領で「立憲主義と草の根民主主義」・「共生社会」・「公正な経済」・「国際協調と専守防衛」を掲げています。特にトップダウンではない草の根民主主義という観点は、国民民主党には無い、立憲民主党の独自色が現れている部分だと言えるでしょう。
国民民主党は、立憲民主党とは違い、「改革中道政党」を標榜しています。また、基本政策の段階からAIの活用などを明記しているのが特徴と言えるでしょう。
政策分野によっては、立憲民主党と国民民主党で立場の違いが鮮明になります。例えば原発に対するスタンス。立憲民主党は即時の原発ゼロを提唱していますが、国民民主党は徐々に減らしていく立場です。後述するように電力総連という電力会社の労働組合が国民民主党を支援しているのですが、ここが原発ゼロに強く反発している(3)ため、国民民主党側としても強く出れない、そのために差が生じているようです。
皇位継承では、立憲民主党は「女系(母親が天皇)」天皇を容認する一方、国民民主党は「女性(父親が天皇)」天皇までで、女系天皇は「慎重に議論」という表現のとどめます。これまで続いてきた、父親が必ず天皇という「男系」の皇位継承を、「伝統」と捉え容認するか「差別」と考えるか、伝統に対する姿勢の違いも表れているといえます。
これ以外の差については、JAPAN CHOICEの政策比較コンテンツ でぜひチェックしてみてください。
③所属議員の特性
次に、所属議員を色々な角度から見てみましょう。
3.1 当選回数
まず、衆議院議員のみではありますが、当選回数割合で比較してみます。
立憲民主党は前の総選挙のときに結党された新党であるためか、当選回数が少ない若手議員が多いです。
一方で国民民主党は、若手・中堅・ベテランと全体的に議員が揃っており、特に立憲と比べると3~5回当選の中堅議員、自民党で言うと初入閣の可能性がでてくるような層が厚いです。
3.2 男女比
次に両党の男女比を確認してみました。
立憲民主党は多様性を標榜するだけあって、女性の議員割合が国民民主党より多いです。
3.3 前職
最後に、議員になる前にしていた仕事について比べてみます。
上のグラフは、政界に入るまで主に何をしていたかを集計した結果です。職業の定義について明確な基準を設けたわけではありませんが、両党の大まかな傾向は掴んでいただけるのではないでしょうか。
たとえば、国民民主党は立憲民主党より官僚出身者が多いです。玉木雄一郎代表や古川元久代表代行は元財務官僚であり、大塚耕平代表代行も元日銀職員です。一方で立憲民主党は市民運動や法曹出身者が、国民民主党よりも若干多いと言えます。枝野幸男代表は弁護士で、辻元清美国対委員長はNGOの出身です。
④支持する団体
立憲民主党と国民民主党をそれぞれ支持している団体、特に労働組合の存在も、両党の違いを生んでいます。
両党の前身となる民主党・民進党は、「連合(日本労働組合総連合会)」という労働組合の全国組織に支援されていました。この団体は今も存在しますが、支持する政党が立憲と国民の2つに割れてしまい、連合に加盟する各労組もどちらを支援するか態度がバラバラになっています(4)。
立憲民主党を支持しているのは、自治体職員による組合(自治労)や私鉄の労働組合(私鉄総連)、先生の組合(日教組)など、かつて社会党を支持した旧「総評(日本労働組合総評議会)」に加盟していた団体が多いです。
国民民主党を支持しているのは、自動車産業(自動車総連)や電力会社の労組(電力総連)、多種多様な産業の労組連合(UAゼンセン)など、革命や過激な社会主義に反対した旧「同盟(全日本労働総同盟)」にかつて加盟していた団体が多いです。
⑤共産党への姿勢
立憲民主党と国民民主党は、選挙で候補者を調整するなど協力しており、他の政党に対する姿勢の違いは概ね同じです。しかしそうはいっても、特に共産党に対しては考え方が異なっています。
立憲民主党は共産党に対してまだ抵抗は少ないものの、国民民主党は協力に強い抵抗感を持っています。その理由の一つには両党の支持勢力の違いがあります。先述の通り立憲民主党は主に旧総評系の支援を受けており、今回の参院選でも、実際に福井県の共産党候補者の応援に入りました(5)。一方、国民民主党の支持基盤は共産主義に反発する旧同盟系の労組なので、共産党への抵抗感が強いのです。前の党代表選挙で、共産党との協力に慎重な玉木雄一郎氏(6)が協力容認派に勝利したことからも、国民民主党の「共産党嫌い」を伺うことができます。
加えて、前回選挙で共産党とどう争ったかも影響していると思われます。立憲民主党は前の総選挙で共産党と選挙協力を行いましたが、国民民主党の衆議院議員は、大部分が旧希望の党から立候補し、共産党と正面から戦いました。
最後に
本記事で検討したように、立憲民主党と国民民主党には、いくつかの違いがあります。
立憲民主党は安倍政権との対決姿勢を取るまだ若い政党です。市民の意見を吸い上げる草の根民主主義を掲げ、安倍政権を倒すためには共産党とも協力します。
国民民主党は官僚出身者や中堅議員の多さを活かし、働き方改革関連法案の審議で見られるように建設的な提案を重視します。共産党とは相容れず、協力には消極的です。
立憲民主党と国民民主党は今回の参院選で共闘するため、政策面では、わかりやすい立場の対立が多くないです。しかし、違いが全くないわけではありません。本記事を読んで両党の政策に関心をもった方は是非、JAPAN CHOICE公約比較で公約の詳細な違いを確認してください。あなたにとって、重要な違いがみつかるかもしれません。
なお、立憲民主党・国民民主党は比例区でそれぞれ「りっけん」「民主党」という略称を用いています。つまり、投票に際して「りっけん」と書かれた票は立憲民主党に、「民主党」と書かれた票は国民民主党に加算されます(7)。注意すべきは、「民主」(※「党」がない)と書いてもどちらの票にもならないということです!政党の正式な略称を投票所で確認して間違いのないように記入して下さいね。
では、その他の政党も含めどこに投票するか決める際に、今回紹介したような「政党の違い」についての観点をぜひ参考にしてみてください。
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参考サイト
立憲民主党
https://cdp-japan.jp/toppage/
国民民主党
https://www.dpfp.or.jp/top
(1)産経新聞「立憲民主党支持層ですら6割が『建設的でない質問が多い』 質問時間配分見直し論が上回った背景に国会論戦への不満」(https://www.sankei.com/politics/news/171113/plt1711130028-n1.html)2017年11月13日
(2)日本経済新聞「参院で野党戦術が対立 国民は審議重視、立民は日程闘争」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32364610Y8A620C1PP8000/)2018年6月28日
(3)産経新聞「電力総連など3労組、民進に『2030年原発ゼロ』再考を申し入れ 狭まる蓮舫氏への包囲網」(https://www.sankei.com/politics/news/170218/plt1702180006-n1.html)2017年2月18日
(4)産経新聞「苦悩深める旧同盟系・中立労連系産別 国民民主党の低迷色濃く」(https://www.sankei.com/economy/news/180712/ecn1807120036-n2.html)2018年7月12日
(5)朝日新聞「立憲・枝野氏、共産公認候補を応援『連携は当たり前』」(https://www.asahi.com/articles/ASM7B6FLNM7BUTFK01P.html)2019年7月10日
(6)日本経済新聞「国民民主代表選 玉木・津村氏対決軸に 政権『対峙』に傾く」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34101730T10C18A8PP8000/)2018年8月13日
(7)読売新聞「『民主党』は国民民主…比例票扱いで指針」(https://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/20190710-OYT1T50171/)2019年7月10日