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都構想議論の変遷~維新に至るまで編~

1.大阪の二重行政

大阪都構想の最大の焦点は「二重行政の解消」にあります。政令指定都市制度は、本来府の権限である都市設計の多くを市に与える制度ですが、これによる権限の衝突のために府と市がそれぞれ独自で都市開発への投資を行い、様々な社会インフラを二重に整備して来ました。
中でも代表例としてあげられるのが、大阪府主導で建てられたりんくうゲートタワービル(GTB)と大阪市主導で建てられたワールドトレードセンタービル(WTC)の臨海部ビル2棟です。これらの建物は府市のライバル意識から、高さを競い合い当初の設計より高いビルとなりました。これら2棟はともにその不必要な大きさから赤字が拡大し、共に破綻しています。(WTCビルは現在大阪府に売却され咲洲庁舎となっています)
他にも、大阪府市は大学(大阪府立大学-大阪市立大学)、水道局(旧大阪府水道部-大阪市水道局)、図書館(大阪府立中央図書館-大阪市立中央図書館)など同様の機能を持つ機関・ハコモノを多く持ち、大きな財政の無駄が生じていると言われています。
これらの二重に存在した機関・ハコモノは維新府政下で効率化が図られ、大阪府水道部は大阪市水道局との合併を視野に府から独立し大阪水道企業団となりました。(その後大阪市水道局の合併は市民に対する不利益防止の制度的担保がない等の理由から凍結。)大阪府立大学と大阪市立大学は2022年度から統合して大阪公立大学になります。このような二重の指揮系統による二重の財政出動を制度から防ぐことが都構想の大きな目的です。

2.大都市のジレンマ

さて、何故このような二重行政が発生してしまうのでしょうか、そして何故その解消の為に大阪都構想が発案され実行に移されようとしているのでしょうか。本来、個々の行政事務は縦横に区切られて担当部局に割り当てられているはずです。総務省の資料では、上述のような大阪の二重行政のうち、上下水道の整備・運営は市町村の仕事です。このように水平に分担を切り分けることで、都道府県は各々の市町村に割り当てられていない広域的なことを一体的に実行することが出来ます。住民サービスを担う市町村と広域的な都市設計をになう都道府県に線引きをするのは自然なことです。しかし、都市は発展し人口が集中するに伴い役割を増し、周囲を巻き込んで都市圏を形成します。人口規模を持つことによって市はさまざまなモノを整備する必要があります。それらは、どの基礎自治体でも担っている住民サービスを大人数に対しても効率良く行うために肥大化するものもありますし、大都市機能を持つことで整備することが望まれるものもあります。そして重要なことの一つは大都市の行政サービスの恩恵を得る人はその都市の住民のみに限らないということです。都市部は昼間には仕事や教育、医療を求めて多くの人が近隣の都市からやってきます。大都市の税収で実施する行政サービスは他市の住民にも使われてしまう「スピルオーバー(溢れ出し)」が起きてしまいます。ですから、大都市ゆえに期待される機能のための権限と予算をどこかに追加で配分し、地域全体の発展を期待することは自然な発想です。一方、大都市に権限の大幅な自立性を与えて活性化を図ることは、地方と都市部の格差を広げることにも繋がります。自治体への権限配分問題はこの矛盾、「大都市のジレンマ」を産むのです。周辺地域のことも考えると、この大都市機能に関する権限と予算は広域自治体である道府県の側が握り、一体的な都市設計をするべきでしょう。はたしてどちらが適切でしょうか。

3.二重行政の解消に向けて

大都市のジレンマの解消に向けて、この二つの観点から、権限と予算を市の側に与える「特別市構想」と道府県の側に与える「都構想」がそれぞれ存在していました。これらと政令指定都市の違いは、特別市は都道府県から完全に独立し、都構想では特別区は住民に対するサービス以外の広域的な都市機能を一切持たない、すなわち行政内容が完全に統合されていることです。実は、成立当初の地方自治法には特別市の規定がありました。そしてそのカウンターパートとして、1953年に大阪府議会で「大阪産業都」構想が決議されています。しかし、市側と道府県側がともに民意によって選ばれたトップを持ち、お互いの正統性を武器に、それぞれ都市部と周辺地域の利益を代表して対立することになります。これらの垂直統合案は市と道府県の主導権争いの中で実現に至ることはありませんでした。そして1956年に地方自治法から特別市の規定は削除され、かわりに追加されたのが政令指定都市です。これは対立を避けて、大都市のジレンマの解決の為に産みだされた妥協の産物であり、都道府県をそのままに、市に都市計画の決定までをも認める「政令指定都市」ですが、これは権限の二重化や指揮系統の複雑化をもたらし、スピルオーバー問題の解決にも繋がりにくい制度です。そしてそのデメリットの一つが冒頭であげた二重行政なのです。
そして大阪は府市ともに首長と議会をおおさか維新に委ね、府市の対立が解消された中で大都市のジレンマの完全解決に向けて再び都構想を検討することになったのです。

[文献]
北村亘『政令指定都市』中公新書
歴史で読みとく都構想、大阪の「府市合わせ(不幸せ)」 日経新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO86341670R00C15A5000000/
なんで!?都構想が必要なん?(維新の記事)
https://oneosaka.jp/tokoso/question.php
総務省トップ > 政策 > 地方行財政 > 地方自治制度 > 地方自治制度の概要
地方公共団体が担う主な事務
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/bunken/gaiyou.html

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