詩: 春の雨
春の雨おもく
祖母のたましいは
白いはなたば
向こうからやってくる風と
こちらからゆく者が
おなじ橋をわたってゆく
わたしのように
死をしんじないものは
いまわのとき何を伝えたらいいか
わからない
こどもの口を借りて
はじめて
さいごのことばがみつかる
ひいおばあちゃん
またあおうね
いろいろとありがとう
こどもと言えた
いろいろの中に
わたしたちに願ってくれた幸せと
祖母と母から
わたしとこどもに
つながるいのちまで
含まれて
わたしのように
こころのつめたいものは
その名にあてた手紙の
届くことはない
という考えに
はじめてかなしみが流れる
生とは
笑い合うことでも
抱きしめることでもなく
ごくたまに
つながる電話や
送る写真の宛先のこと
生とは
呼吸でも
鼓動でもなく
死と対比された可能性
この世から
すでに失われてひさしい
祖父母の暮らした家
覚えている廊下
そのような忘却にあらがう
記憶のこと
すべてこの世はまぼろし
まぼろしに生き
まぼろしをいとおしむ
そうと知りながら
春の雨おもく
濡れることのない天の国まで
あとどれくらいか
向こうから吹いてくる風と
こちらからゆく者が
今日すれちがう
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