チロルチョコ、お前もか!
物価の高騰が止まらない。あらゆる食べ物が記憶より小さくなっている。どうやら国がダイエットを手伝ってくれるようだ。ありがたいことである。この分だと私のくびれは今後もキープされそうだ。
……などと強がってみたが、やっぱり食べ物が小さくなるのはちょっぴり寂しい。いやちょっぴりなんてもんじゃない、なんか本能的な喪失感がある。別に大食いではないのにやたら悔しい。
先日、スーパーで板チョコを手に取ってみたらあまりの小ささにびっくりした。あれ? 昔はもっと長かった気がするんだけどなぁ……スマホくらいの大きさにまで縮んでる気がする。逆にスマホは以前より大きくなってるのでいつか逆転されそうだ。
私はさっそくそのことを友人に愚痴ってみた。彼女は私と全く同じ不満を抱いているようで、「チョコを小さくするなどけしからん、許せぬ」と憤慨していた。政治腐敗よりも株価の下落よりも食べ物が小さくなるのが一番許せぬ。これが率直な庶民感情だと思う。
だが物価の高騰はもはや止められない流れだ。コロナ禍、戦争、不作、円安……国際情勢がダイレクトに私のお菓子を取り上げてくる。
また一連の問題が発生する以前から、カカオは児童労働によって人件費を抑えているとか、先進国が不当に安く買い取っているといった指摘があった。ひょとしたらそういった部分が改善されて値段が上がっているのかもしれない。
じゃあこの高くてちっこい板チョコが適性価格なのかもなぁ……とあらゆる理屈と大義名分を用いて自分を納得させようと試みるが、やはり大きいチョコが恋しい。
でっかいチョコが食べたい。甘くて美味しいチョコをお腹いっぱい食べたい。食べたいよう……。
ああ、チョコ。チョコ、チョコ、チョコ!
下戸なので酒やおつまみに興味がない私は、凄まじく幼い味覚で生きている。おかげで甘いものは大体何でも好きだ。キットカット950gを二週間で平らげたこともある。ちなみにチョコを食べまくった日は炭水化物を減らしてバランスを取ってるので、そこは安心してほしい。大好きなチョコのせいで健康を害したとなっては、チョコの神様に悪いからね。好きな人に迷惑かけたくないじゃん……?
でもチョコの神様はもう人間界を見放したみたいだけど。
ねえ、なんでこんな小さいの。
……うう、チョコ。おっきいチョコが恋しいよう。板チョコ、何かの間違いで大きくならないかなぁ。
どうすればカカオの価格を下げられるんだろう?
日本国内でカカオ、栽培できないのかなぁ。どうせ温暖化で赤道付近に気候が近付いてるんだから、それくらいなんとかならないものなのか。これでもまだ気温が足りないのか。
……なんのための暑さなのよ!? カカオ栽培のためでしょう!?
私は一人で机をバンバン叩き、日本の農業政策に思いを馳せた。
「甘いものがもっといっぱい食べたいので、カカオの木をたくさん植えればいいとおもいます」
という小学二年生レベルの政治観を持つ私にふさわしい政党は残念ながら見つからない。与党も野党ももっと壮大な政治観で権力闘争をしているようだ。実際、それでいいと思う。間違ってるのは私なんだ。いい歳してこんなにチョコのことばかり考えてる私が少数派なんだ。
――でも、チロルチョコ君は私の味方だよね?
もう何年も買ってないが、あれが極端にサイズダウンしたという悪評は聞いたことがない。確かコンビニのはちょっと大きくて二十円で買えたはずだ。安いし美味しいし、理解のあるチョコ君というやつである。
あの味が忘れられない……体が疼いて止まらない。昔のヨリを戻すような感覚で近所のコンビニに向かうと、駄菓子コーナーを覗き込んだ。二十円で
買うつもりだった。
だがそこには、値上げされたチロルチョコが並んでいた。
チロルチョコ、お前もか!
ブルータス、お前もか! みたいなノリで呆然とする私がそこにいた。まともにニュースを観てないせいで何年も前に値上げしていることに気付かなかったのだ。
あの優しかったチロルチョコ君は、今では二十数円も要求してくる金のかかるチョコ君と化していた。なんだそれは。歌舞伎町のホストじゃあるまいし。
うう……でも私、あの味が忘れられないよう……。
結局誘惑に負けてまとめ買いしちゃったし今まさに食べてるけど、やっぱり納得できない。いやカカオ全般が値上がりしてるならチロルチョコだって値上げするのはわかるんだけど。わかるんだけどぉ……。
チョコが安かった時代に戻りたいよぉ……。
でも味はちゃんと美味しいんだな~これが。
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