結局、優しさこそが究極の力なんだよね
皆さんは心に値段をつけたらどのくらいになると思いますか?
私の試算だと無限兆円ってとこですね。どうやら人間の心は国家予算を遥かに上回る金額みたいです。
まーたINFPがゆるふわ理想論を語ってるよ、とブラウザバックしそうになったそこの貴方、かなり合理的な理由があるからもうちょっと待ってください!
いきなり重い話で申し訳ないのですが、実は私の母は統合失調症なんですよね。私が生まれる何年も前に、職場のお局様グループに目を付けられて酷い虐めを受けたそうです。そしたら心労のあまり正気を失ってしまったんですね。まあこの病気は遺伝などの要因も絡んでいるのでそれだけが原因とは言えませんが、母本人は「あの時のストレスが原因だった」と言い切っております。
入院当初、医者は母を見て匙を投げたそうです。
「この子は社会復帰できない」
と。
けれどそこから奇跡的に回復し、結婚して家庭を持って今では簡単なパートもできるようになりました。それでも発症前と違ってバリバリ働くことはできないようですが。
母の妹――つまり私から見て叔母にあたる人に話を聞くと、「病気になる前とは性格が違う。完全に元に戻ったわけじゃない」そうです。後遺症が残っちゃったんですね。
実際、母は私の目から見てもちょっと変な人だと思います。時々異様な被害妄想に取り憑かれたり、幼児のようになって父になだめられていることがあります。
私は幼い頃、
(どうしてうちのお母さんは話が通じない時があるんだろう?)
と一人で泣くことが何度かありました。
なんたって母は私を産む前に人格が崩壊してしまったので、私はまだ一度も「本当のお母さん」を見たことがないのです。母の残骸としか話したことがないのです。
とはいえどんなに壊れていたとしても「世界でたった一人の大好きなお母さん」ですからね。私はどうすればお母さんと上手くやっていけるんだろう? とやたら他人の顔色を窺うようになり、人間の心理に興味を持ち、気が付けば内向的なINFPに育ってしまいました。
ひょっとしたらバチクソ陽キャESTPに育つ遺伝子だったかもしれないのに、どうしてくれるんですか? 母の心を壊したお局様とやらはどう責任を取るつもりなんだか。
お前のお気持ちなんか知らん、という合理主義な人にも通じそうな言い方をすると、母が学生時代に習得した専門技術は全て無駄になってしまいましたね。ちゃんと学校に通って高度な技術を身に着けたのに、フルタイムで働けないし単純な肉体労働しかできなくなったので、何もかもパーです。
母が職場で虐められなかったら今頃かなりの技術者になってたかもしれないのに……ああもったいない。なんせ発狂して人格に後遺症が残った今でも手先が器用なままですからね~。
あと、母の治療費って合計で数百万円以上かかってるらしいんです。
医療費の自己負担額なんてたかが知れてます。その上で数百万円ってことは国が負担した額はとんでもない数字のはずです!
わかりますか? 誰かの心を壊したらその治療費に凄まじい額のお金がかかり、社会に負担をかけるんです。それを考えたらとても他人を虐めることなんてできないと思うのですが、なぜか自称合理主義な人に限って部下をバンバン叱り飛ばして休職に追い込んだりしますからね。不思議なものです。壊れた部下の修理費用がいくらだと思ってるんです? 無限兆円ですよ、無限兆円。
だって私の母は現代の医学では元の人格に戻せないんですもの。統合失調症ってそういう病気なんです。一生お付き合いしていくことになるんです。どうにかして99%まで人格を治せるかもしれないけど、100%の修復は無理なんですね。お医者さんにそういう説明を受けました。
凄いですよね。どれほどのお金を投じようとどれほどのテクノロジーを注ぎ込もうと、一度壊れた人間の心は完全には戻せないんです。だから心の修理費用は無限兆円と言ってるんですねさっきから。
それに対してタワマンだのスパコンだのはどんなに粉々に破壊しようが、お金と資材を集めればいつかは元に戻せるんだから安いもんです。
私も資本主義の国に住んでるんで物の価値は値段で決まると理解しています。それならより修理にお金がかかる物の方が価値があるってことになりますよね。
人間の心はこの星の富を全てかき集めても治しきることができない。
つまり心はこの世で最も価値のある財産。
だから私は日頃から心が一番大事と喚いてるのですよ。現実逃避して理想主義を語っているわけではないのです。
職場のパワハラで人格と人生を破壊された母親から生まれて、厳しい現実を見続けた結果たどり着いた結論です。
金貨だの宝石だのは代わりが効きますが、私や貴方の心は代わりが効かないんですよ。どれほどの資産を投じても同じ心は生み出せないんです。何兆円積まれても私は壊れる前のお母さんに会うことが出来ません。本当はもっと明るくて情緒が安定していたらしい、病気になる前のお母さんと一度でいいから話してみたかったんですけどね。
私はなるべく他人に優しく接しようと心がけてますし、落ち込んでいる人間はそりゃあもうドロドロに甘やかすようにしています。厳しいことはまず言いません。
それは私が他人に嫌われることを恐れてるからではありません。
誰かの心が壊れた後の悪影響をこの身で味わっているからです。だから精神的に追い込まれている人を見ると、「このままの状態が続いたらこの人は大変なことになるのでは……」と気になってしまうのです。
なので私は時々SNSで自殺を仄めかしている人を見つけては、立ち直るまでヨシヨシするということを趣味でやっています。あくまでただの趣味です。八つ当たりです。この社会が人の心を粗末に扱うなら、せめて私だけでもその流れに抗おうというFiに従っています。
今年の初頭も、今にも死にそうな男の子を毎晩励まし続けておりました。仕事のできるパワハラおじさんに虐められて、自殺願望を抱いていた二十代の男子です。言っておきますが彼はお金なんて持ってないし、他に好きな女性がいましたよ。当然、彼を励ましても何の見返りもありません。それでも「母のように発狂するかもしれない」と思うと放っておけず、一晩中全肯定を続けて元気づけました。
そしてそんな生活を二ヵ月ほど続けたら、なんと無事に立ち直ってくれましたよ! 今ではピンピンして働いております! しかも精神科に通うことなく復活したんですから、医療費はゼロです。もちろん薬なんて使ってないんだから副作用は何もありませんよ。優しさって凄い治療薬ですね。
仕事のできるパワハラおじさんに虐められた青年を、暇なラノベ作家の言葉で治したわけですが、さて一体どっちが社会貢献してるのやら。
パワハラおじさんは「俺仕事できるしすげー稼いでるわ」って自己認識だと思うんですが、定期的に部下のメンタルを壊して将来を奪って国に治療費を押し付けてるんですから、彼が社会に与えてる利益と損失を比較したら、プラマイゼロなんじゃないですかね? 下手をしたらマイナスになってるまであり得るかもしれません。
かたや私は暇な時に死にそうな人をヨシヨシしては社会復帰までさせてるわけですが、自分で生み出す富に立ち直らせた人が稼ぐ富も加わることになり、その上医療費まで抑えてるとなると……自惚れた意見になってしまいますが、私が生み出してる総合的な富の方が多いと思いますね。仮に今はまだエリートパワハラおじさんが稼ぎ続けた額に負けてるとしても、この生き方が数十年も続けば確実に私の方が社会に利益を与えますよ。
結局、優しさこそが一番強い力で一番合理的な手段なんです。強い企業や強い国を作りたいなら、まず誰もが優しくならなきゃダメなんじゃないでしょうか?
どうしてそれをドライで合理主義なはずのマキャベリスト達が理解しないのか、本当に意味がわからないんですよね。実は何も深いことを考えておらず、単に自分が出世したいだけなんじゃないかと疑っておりますが。
優しさは甘さや弱さから生み出される感情ではないのですよ。先進国と途上国の福祉を比較してみればわかることです。強くて豊かな国ほど弱者に優しいし、弱くて貧しい国ほど弱者に冷たいのです。一人当たりGDPが低い国ほど収容所を作って国民を放り込むし、残酷な刑罰を好みます。
逆に地球上で最も豊かな地域である北欧が国民をどんな風に扱ってるかは……説明するまでもありませんね。
というわけで、私はいついかなる時も他人に優しくできるのが本当の強さだと思ってます。
お母さんみたいな人を生み出さないためにも、これからもあらゆる社会常識より甘やかしを優先するつもりです。一億総中流の暮らしを取り戻すのは不可能でも、一億総赤ちゃんの暮らしを達成するのは何とかなりそうですからね。とはいえ個人で出来ることには限度がありますし、うーん……。
なんとかして印税長者になって、人類ヨシヨシ計画を実現させられると良いのですが。まずは国民全員に赤ちゃんである自覚を取り戻してもらわなきゃいけませんね……。