ガスボンベのお兄ちゃんー山荘日記


ビューと木枯らしが吹き、木々がざわめいて反響する。すると今度はパラパラパラ、米粒のような雪が落ちてきてベランダが白くなった。普段の雨が今は雪、すぐ止んだ。外で何やら音がする。ガタゴトとボンベを動かしている。いつも来てくれるLPガスボンベのお兄ちゃんだ。僕ら地元で比較したことないからわからへんけど。僕はここは引っ越し三つ目で、気温は神戸と比べて三度から六度低いよ。ここがマイナス四度で向こうは二度だったり。下の町の方はもうちょっとマシかな。ここは標高三百メートル。いやあ、あんまり変わらへんです。上郡自体が盆地で寒く、兵庫県でも五位の寒さですって。南北があって日本海の山陰地方まで含んでの五位なのか。寒すぎて、ほら、手が腫れてあかぎれ起こして。軍手を脱いで見せる。あっ、ほんとだ。両手がむくんで何だかひどいから医者へ行ったら、しもやけとあかぎれで手が腫れ、かゆくて引っ掻いたら化膿し、塗り薬だけでは無理で飲み薬も飲んで、一、二ヶ月だって。山荘は壁が数センチしかないモルタルで耐寒性がないんよ。コツン、コツン、壁を叩く。あっ、ほんとだ、薄いんですね。平地の普通の家の作りと違うみたいで断熱材も入っていない。引っ越す前に防寒対策として二重サッシにはしたが、昼前に起きたらベランダ四度で部屋七度だったりする。だから薪ストーブ、石油ストーブを焚くが、居間は天井が吹き抜けで高くてエアコンを置いてない。ホットカーペットは敷いてるけどあまり温くない。コタツは? テーブル生活だからない。それで厚着して、加熱ベスト着てじっとしてる。縮こまってるより動いたほうが温いけど。僕らもこうやってガスボンベ運んでるほうが楽ですけど。でも今日みたいに寒い日は家の中でじっとしててください。散歩も無理ですよ。寒すぎると心臓がキューと痛い気がするときがあって、そういう日は風呂に入らないようにしてる。ヒートショック怖いですもんね。セラミックファンヒーターつけて脱衣所温めて、お湯をシャワーで入れて湯気で浴室温めてる。そうなんですね。薪も大変でしょう。すごい使う。ちっちゃい一本なんて十分で燃えてしまう。今年は薪と石油を半々にしてるけれど、一日つけてるわけにはいかないから。灯油いっぱい六リットル入れておいても一日で使ってしまうから、節約せんとあかん。山荘は水代二ヶ月で一万円近い。基本料金が高い。水電気ガス代は都会の1倍半かかるね。それで厚着して足温器で温まって、部屋でおとなしうしてる。早坂さんとこはガス少ないほう。一ヶ月は持ってます。早いとこは二週間。ガスが切れないよう、僕ら気をつけて回ってますけど。まあ、一人やさかい。この前、ガスボンベの栓吹っ飛んだって、雷落ちて。二ヶ月ほど前にすごい雷の日があったのだ。ああ、雷で焼けたとこでしょう、僕ら行ったけど。雷がボンベに落ちたんじゃなくて、長いこと不在でボンベの栓閉めてたから内圧が上がって栓が飛んだんです。ボンベの栓は六ヶ月くらいまでなら閉めんでください。この寒空の下で僕の話し相手をしてくれる。ニコニコしながら重い空ボンベを軽々と担いで石段を上がって帰って行った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?