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「お前、演劇やめんなよ。」

中学生の時、演劇部だった。
演劇部といっても勿論ガラスの仮面(バイブル)に出てくるような、大会やコンクールの常勝校などではなく、当たり前に超やる気のない典型的な文化部といった様相のやつだった。演劇部でしたと言うの、未だにちょっと恥ずかしいんだけど、30代になってようやくちょっと可愛いな…と思えてきたので、#部活の思い出 というハッシュタグを使って書いてみる。

演劇自体は好きだった。小学生の頃に子役劇団に入っていて、TVドラマや舞台などにちょこちょこと出演していた。ただし台詞があるような役がつくことは稀で、大体がエキストラでいわゆるモブキャラのお仕事が多かった。芦田愛菜ちゃんや寺田心君といった子役の面々の活躍は本当に一握りで、後は大体が大人になる前に演劇をやめる。他に何か楽しいことを見つけたり、上には上がいるんだな~ということを早めに思い知ったり、色々な理由で。私はというと、第二次性徴期の頃に寝ながらポテチとかを食いまくっていたらなんだかすごく太ってしまい、あと視力がかなり悪く初めて眼鏡をかけてみたらまぁまぁ可愛いと思っていた自分の顔がセルフイメージと結構違くて「え?嘘じゃん…」となったあたりから自信を失くし、芸能の世界から遠ざかって行った。

そんな感じでも演劇自体は好きだったので、中学校ではなんの疑いもなしに即効演劇部に入った。結構目立ちたがり屋だった節もある。あと、基本的に怠け者なので、運動部という選択肢は最初から圏外だった。イケてる女子達は女バスや女テニに続々と入部し、運動はあんまり好きじゃないけど可愛い女子達は吹奏楽部に入った。みんな意外と頑張るな、と思っていた。しかし中学の部活の選択は、その後の人生10年ぐらいに色んな意味で影響するかもしれない。ここで身に着けた根性を、意外とみんなちゃんと社会生活に活かしている。本人たちに自覚は無いかもしれないけど、持たざる者から見るとマジですげ~と思う場面がたくさんあった。まぁそれでも演劇部は、暗くてよく分からない活動をしていると思われている演劇部は、恥ずかしい黒歴史と闘うハメになる演劇部は、死にたいけど愛すべき想い出の1つになっている。

演劇部は、とりあえず先生のやる気もないので、3年間顧問違う。勿論毎日様子を見に来たりはしない。基本野放し。そして1・2年生の頃は部室?として図書室を使わせてもらっていたが、3年生になるといよいよ邪魔だと思われたのか謎の使われていない視聴覚室みたいな部屋を与えられた。薄暗い廊下の一番端っこ。クソ埃っぽい。

一応毎日活動はしている。でも、結構自由参加。私はと言うと、暇なので毎日参加していた。学校自体は週半分ぐらいしか行っていなかった気がするんだけど、部活だけは毎日出ていた。
昼ぐらいに起きて、いいとも見て、制服着て、ちんたら歩いて図書室の窓から中に入るっていう、今考えると本当にだらしない不登校気味児童だったのだけど、あの時せめて部活があったことは良かったと思う。ていうか部活行かなきゃみたいなエネルギー本当になんだったんだろう。

ご存知ないかと思うので毎日どんなことをしてるかと言うと、まずは一応発声練習を始める。あ、え、い、う、え、お、あ、お!あめんぼあかいなあいうえお!とか、そういうやつ。わりと陰キャみたいな奴らが集まりがちな演劇部が、突然大きい声出す。なんなら運動部より大きい声出る。(不登校児には意外とコレが良かったのかもしれないと、今ふと思いました。日常生活でクソでかい声出すみたいな瞬間って無いし、ストレス解消?だったのかも)
「青い家を、おいおい売る」「そのうお 浅瀬で 刺しました」とか、癖の強い発声で運動部をぎょっとさせる時もある。発声練習の前か後に、筋トレもしていたような気がする。ただし腹筋20回とか、背筋20回とかその程度。

基礎トレが終わった後は、台本の読み合わせをしてみたりする。中学・高校演劇脚本集みたいな奴からお好みのものを選び、コピーしてきて、配役を決め、本読みをする。昔ながらの舞台演劇系ではなく(例えばシェイクスピアとか、童話とか)、オリジナルの現代演劇の脚本が意外と豊富にあって、面白かった記憶。今はインターネットで拾えたりするんですかね。
同じ台本で色んな人が色んな役をやってみたりすると、それぞれ結構違くて面白い。全然棒読みの子とかもいるんだけど、そんな子がしっくりハマる役なんかがあったりして、演技力うんぬんとかじゃなく単純に盛り上がる。
なんとなくやったな~という感じになったら、後は同人誌読み出したりする。基本おたくの集まり。

同級生は私含め5人。途中で転校した子も転校先の学校でうまくいかなくて部活だけうちの学校に来てたので、準レギュラー合わせて6人。(このフレキシブルな制度、当時全く意識してなくて私の中ではその子卒業までいたことになってたから、最近改めて聞いてびっくりしたw)

1個下の後輩はたった1人。2個下の後輩は3人。人数が少ないから仲良しだった。部室には一人一人ちゃんと指定席みたいなのがあって、机にはガムテープにマッキーで書いた役職が貼ってあった。私は「部長」。親友のももちゃんは「副部長」。
後は適当で、全部私が書いて貼った。1個下の後輩は、お母さんが自宅でECCの英語塾を開いていたので、「ECC」。2個下の後輩は、趣味がガンプラだったので「ガンプラ」。(女子です)あとの2人はツインテ―ルの可愛い「うさこ」と、名前をもじって「まりりん」。このままあだ名で呼んでたけど、ガンプラ・・・今だから言えるけど本当にごめんな。本名が全く思い出せない。なんならECCも、ごめんな。

そんな演劇部がにわかにやる気を出すのは、年に2回、春に市の公民館でやる定期公演?と秋の文化祭の前である。
観客の前で発表する滅多に無い機会。発表する演目を決め、配役・担当を決め、台詞を覚え、演出を考え、立ち稽古し、大道具・小道具・衣装を作り、音響や照明を考える。文化祭は夏休み明けなので、クソ暑い夏休みも部活はある。受験生でも。

私は部長兼舞台監督だったので、基本的に全ての決裁権があった。気分のムラも激しく面倒くさがり屋のくせに、やる気のある時だけは蜷川幸雄ばりの覇気を見せた。完全に迷惑。めちゃくちゃ偉そうだけど、部長なので誰も何も言えなかった。ブラック会社である。それでもみんなを巻き込んで、部長怒っちゃうよ!ちゃんとやろう!と言わしめて、いつも楽しくわーわーしてた。思えば幸せな環境だった。うまくやろう、とか、頑張ろう、とかいう気持ちはそんなになく、楽しいからという理由だけで、何か1つのものを皆で一から作り上げた経験。これって結構貴重なことだと思う。大人になったら楽しいだけじゃダメだったり、楽しくてもめんどくさくてできなかったりする。ノイズの無い、完全無欠の楽しいぬるま湯だった。

そしていざ発表なんだけど、全校生徒の前で急に劇し始めますわ、演劇部。いつもどこに生息してるか分からない奴らが沸いて出てきますわ。しかも、完成度鬼低め。うちの中学は見たい人だけが見る形式ではなく、演劇部の発表が開会式みたいなカリキュラムに組み込まれてて、全員観劇必須だったんですね。そりゃ興味ないし、早く終われこの45分!みたいな気持ちになりますわ、生徒たち。本当後から思い出して恥ずかしくて死にたい気持ちになったりしたんだけど、この時の私達の度胸なんだったんだろうね・・・でもその当時は恥ずかしいとかあんまり無かったんだよなぁ。自信満々に舞台に躍り出てた。内心馬鹿にされてたり、引かれてたり、だせーと思われてても、別にどうでもよかったんだよね。なんかもう1周まわって尊敬するよね、当時の私・・・!

文化祭後は、楽しい部活が終わっちゃったなって寂しかったけど、4人の後輩たちの自主公演を見に行ったり、部室に絡みに行ったり、卒業まで大事な時間を過ごした。クソ休みすぎてやばかった受験もなんとか乗り越えて、あっという間に卒業の季節になった。

卒業式の日は、嫌いすぎた中学校をやっと卒業できて超ハッピーだったんだけど、帰り際ハヤセンという数学教師に「おーい!伊東!!」って呼び留められて、え、最後まで出席のこととか言われる??とか思ってたら、「お前、演劇やめんなよ!」って突然言われた。彼は相当変わった人物だったんだけど、思えば誰も知らない公民館でやる発表会みたいなやつにいきなり見に来てくれたりとか(土日で顧問ですら来てくれなかった気がする)(ナタデココのジュース差し入れしてくれたけど、なんでナタデココだよ…?って思ったのを覚えている)、授業中に私が読んでた本を没収してその場で読み始めてつまらねぇ!と返してきたりとか(自分の数学の授業中です)、音楽の時間に遊びに来てギターを教えてくれたりとか(短気だからちげーよ馬鹿!!とか言ってすぐ飽きられたけど)、担任でもないのにちゃんと私を個人として見ててくれた貴重な大人だった。

多分、ギリギリの所でバランス取ってる危うい15歳を、独特の距離感で見守っていてくれたんだと思う。今思うと結構やばい教師だったんだけど、彼のあだ名を付けたのは何を隠そう私だ。林先生だから、ハヤセン。代々の後輩まで受け継がれていたらしい。なんていうか、あだ名のセンス褒めてほしい。ただガンプラは、ごめんな。

私は「やめないよー!」と言って軽やかに走り去ったけど、高校に入学したらそっこーでサッカー部のマネージャーになった。めっちゃミーハー。そして、演劇のことは忘れた。

大人になって、続けてればよかったなとか止めちゃったの勿体なかったかなとか思うこともあったけど、完全無欠のぬるま湯の外でも楽しいことをたくさん見つけられたから、良かったと思う。

夏の匂い、蒸し暑い教室の空気、薄暗い廊下、舞台の強いライト、寝転がった背中のひんやりした床、下校中のアイス、体育館に共鳴する声、怠惰と高揚。
暗さの中にあるぼんやりした幸福の記憶。キラキラ眩しくはない、でも、演劇部はちゃんとエモい。


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