ジャックフルーツ_1280

ジャックフルーツと恥じらい

数日前の朝、夫の友人で観光客のドライバーとして仕事をしているアグスがフラッと我が家へやってきた。

「ちょっと待ってね、夫は今シャワー浴びてるの」

夫に用事があるんだろうとそう声をかけると、彼は「ちがうちがう」と笑って、大きな袋を差し出した。サンタクロースが手にしている白い袋ほどの大きさだ。

「庭でとれたんだ、みんなで食べてよ」

袋を開けると大きなジャックフルーツが入っていた。
わ~、立派なジャックフルーツ!!

お礼を言いながら顔をあげると、アグスはもう背中を向けて立ち去ろうとしていた。ホテルへお客様を送らねばならないとのこと。

この日の昼間に大きな包丁でジャックフルーツを割って、家族で食べた。

姑サーちゃん(以下、サーちゃん)がアグスのように山の近くに住んでいる人には、魚の日干しを渡すと喜ばれるんだよ、と言う。

アグス、山の近くに住んでへんし。

という言葉を飲み込みながら、サーちゃんのお返ししたいという気持ちをくみとる。

▼山の人には海の幸をと力説するサーちゃん

山の人には海の幸を

数十年前の人々はこんなふうにして物々交換してきたんだなぁ。サーちゃんの言葉から少し前にここで生きていた人々の豊かな知恵の香りがする。

でも、夫はあまり乗り気ではない。夫がアグスにお客様を紹介したお礼にジャックフルーツを持ってきたことがわかっているからだ。

これでまたお返しをしたらアグスが困ってしまうやん。

私はサーちゃんと夫の板挟みになって、うーん、どうしたらいいもんかと着地点をさぐっていた。

次の日もそのまた次の日もサーちゃんはアグスに魚の日干しを…と言い続けた。

四日目、ついにサーちゃんは近所の人に頼んで市場でクルプック(ごはんの脇に添えるスナック)を調達し、私にも砂糖を買ってくるようにと言った。

魚の日干しにするんとちゃうんかいと思ったが、そのへんは予算の兼ね合いなのだろう。

細かいツッコミはおいといて、私はアグスにお返しをしようと心に決めた。

なぜなら、サーちゃんにはアグスに恩返ししたいことがあったから。

サーちゃんが入院したとき、たまたま隣のベッドがアグスだった。彼は長時間の運転が続いて、足腰を痛めて動けなくなっていたらしい。

ロンボク島の一般病棟では、家族が病室に泊りがけで患者の世話をする。私たちも同様で、アグスの世話人としてアグスのお母様とお嫁さんが、サーちゃんの世話人として夫とその兄とが病室に泊まっていた。

サーちゃんのオムツ替えのとき、手間取る夫とその兄を見かねてアグスのお嫁さんが手伝ってくれたらしい。

サーちゃんは退院して元気になってからそのことを聞き、とても感謝していた。そのサーちゃんの気持ちはよく理解できる。

ここはひとつ、サーちゃんの気持ちに応えよう。

夫には、アグスが困らないよう「いつもありがとう。これは姑からの入院時のお礼よ。お嫁さんによろしくね」と伝えてねと頼めばわかってくれるだろう。

だけど、本当は私は知っている。

そんな無粋なことを言わなくても、アグスはなんとなくこちらの気持ちを察してクルプックを受け取り、また何かを持ってきてサッと帰るだろうことを。

ありがとね。こちらこそ。ありがとね。こちらこそ。

そんなやりとりが何回か続いて、少しずつひいていく。

愛しき恥じらいの循環、最高じゃないか。


サポートはとってもありがたいです(ㅅ⁎ᵕᴗᵕ⁎) 2023年年末に家族で一時帰国をしようと考えています。2018年のロンボク地震以来、実に5年ぶり。日本の家族と再会するための旅の費用に充てさせていただきます。