おじいちゃんの秘密
3月17日は祖父(以下、身内だけど「おじいちゃん」と書く)の誕生日だった。
おじいちゃんは私が小学五年生のときーもう30年以上前だーに亡くなっているから、今は誰もこの日を祝うことがない。それでも毎年、「今日はおじいちゃんの誕生日だなぁ」と思い出す。
私の記憶のなかのおじいちゃんは、真面目・几帳面・市役所勤務の「キチッとした」人だ。
昔、おじいちゃんが机に向かって帳簿をつけているのを見たことがある。おじいちゃんは分数の横棒の線を定規でひいていた。「定規使うんや。キッチリしてるな」と子どもながらに思ったものだ。
食事の作法も厳しかった。おじいちゃん自身もとてもきれいに煮魚を食べていた。
おじいちゃんはカチッとしているのだ。孫の目には。
しかし、周囲の大人の目にはそうは映っていなかった。
酒乱だったからだ。
警察から家に電話がかかってきたことがある。飲酒後自転車に乗って転倒し、起き上がれなくなっていた。酔ったままタバコを吸って、寝タバコで家を燃やしてしまったこともあった。
おじいちゃん…笑えないぜ。
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ロンボクの家族に「トラブルメーカー」と煙たがれている義兄がいる。義兄はドラッグを手放せない。
「みんな義兄のことを白い目でみるんよね。心痛むわ」
母に電話で義兄の話をしたところ、母は「おじいちゃんと一緒やなぁ」と声のトーンを落として、これまで聞いたことのなかったおじいちゃんの話をしてくれた。
真面目なおじいちゃんがなぜあんなにお酒を飲むのか。
それはおじいちゃんとおばあちゃんの結婚生活に起因していた。
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おじいちゃんとおばあちゃんはもともとは遠縁の親戚だ。おばあちゃんは、戦争で生き残ったおじいちゃんと結婚するよう、両親から言われたらしい。おばあちゃんは長女で、下には女兄弟しかいなかった。跡継ぎが必要だったもんだから、本当は別に好きな人がいたけれど泣く泣くおじいちゃんと結婚した。
男兄弟のいたおじいちゃんは、おばあちゃんの家に婿入りした。が、結婚してからも、おばあちゃんはおじいちゃんのことを好きになれなかった。結婚を決めた親からも後に「あの結婚は失敗だった」と言わしめるほどだったようだ。
おじいちゃんは家の中に居づらくなった。職場と家庭での緊張を解く手段が飲酒だったのだ。
母は、「おじいちゃんも辛かってん」とつぶやいた。
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そうか、おじいちゃんは、結婚生活のなかで、おじいちゃんは自分が求められていないという挫折感を味わったんだな。それが積み重なってお酒へと手が伸び、やがてコントロールも効かぬようになったのだろう。
私はおじいちゃんが表に出してこなかった苦しみを初めて理解した。辛かったのはたしかだと思う。
でももし、おじいちゃんとおばあちゃんが、それぞれ自分の心をよく見つめて本音で話し合っていたら…と思わずにはいられない。
辛い、助けてとSOSを出せていたら?
どうしてもあなたを好きになれない、ごめんなさいと謝れていたら?
相手を傷つけたとしても、じゃあこれからどうしたらお互いに幸せになれるかを頭を突き合わせて二人で話し合えていたら?
ーきっと、こうはならなかったんじゃないだろうか。
おじいちゃん。おじいちゃんの孫は、おじいちゃんの秘密を聞いたよ。苦しかったね。でもな、その秘密、今更どうしようもないから、南の島での結婚生活の反面教師にするわな。しっかりやるから応援してちょうだいね。
サポートはとってもありがたいです(ㅅ⁎ᵕᴗᵕ⁎) 2023年年末に家族で一時帰国をしようと考えています。2018年のロンボク地震以来、実に5年ぶり。日本の家族と再会するための旅の費用に充てさせていただきます。