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西の空とお母さん

「わぁぁ~!」

私は歓声をあげた。
朝6時過ぎ、お祈り時よりも日が昇り、窓の外が明るくなってきた。
門灯を消すために玄関の扉をあけたら、扉の外の白いタイルに珊瑚色の光の筋が照らし出されていた。

「きれ~。朝日がこんな色になるんだ?」
反射的に太陽の方向を見ると、太陽のほとんどの部分には雲がかかっていた。雲の端が白く黄色くひときわ目立ち、光がサーッと四方へ漏れている。どこまで漏れているんだろう。

光線を目で追うも、あっという間に見えなくなった。しかし、その延長線上を目でたどっていくと、光は雲一つない天球をまっすぐに突き抜けているのか、西にある雲が黄色く光っている。

「筋斗雲やん」

↑朝日に照らされる、西の空の雲

朝日が西側まで照らすなんて、今日はよほど空気が澄んでいるんだろう。昨夜の雨効果かな。

「見て~。すっごいよ!西の雲が光ってる!」

娘にそう言いかけて、私はその言葉を飲み込んだ。娘は朝シャワーを浴びているところで、夫はまだ寝ている。

行き先を失った言葉が昔の記憶を呼んできた。

以前、義母に「西の空が赤く光っている」と言ったことがあった。今回と同様、朝日が西の空まで照らしているのに興奮した私が、そばにいた義母に声をかけたのだった。

「あぁ、ほんとだ!きれいだねぇ」と一緒に空を眺めてくれると思っていたら、義母は「滅多なことを言うもんじゃないよ」と目玉をひん剥いた。

私の顔がよほどキョトンとしていたのだろう、義母は言葉の真意を続けた。

曰く、「(イスラム教では)終末の世は天変地異から始まる。東の国から地震が起こり、西の空から太陽が昇る」と言われているそうな。

義母は「西の空が赤く光っている」を「西の空から太陽が昇った」と勘違いして、「終末の世がキターーーーー」とパニックになったようだ。

だから私を諌める言い方になったのかぁ!

義母は東から太陽が昇っていることを確認し、「ビックリしたよ」と安堵の笑顔を見せた。

義母はよく空を見上げていた。やれ飛行機が飛んでいるだの、もうすぐ満月だの、聞いたものだ。ふふふ、今日の筋斗雲を見たら大騒ぎしそう。

お母さん、西の空が光っているよ。
だけど、太陽は東から昇っているし、終末ちっくな世の中が嘘のように空は澄んでいるよ。

空の上からは、今日の世界は何色に見えるのだろうか。

(みどり)

サポートはとってもありがたいです(ㅅ⁎ᵕᴗᵕ⁎) 2023年年末に家族で一時帰国をしようと考えています。2018年のロンボク地震以来、実に5年ぶり。日本の家族と再会するための旅の費用に充てさせていただきます。