視線の滞空時間が長い絵とは

この文章は敬称略です。

視線の滞空時間が長い絵…は好みにもよるとは思うので、普遍的なものではなく、あくまで私の場合。
物理的に引かれた線や塗られた色以外の「物理的には存在しないはずの情報が乗っている絵」ですね。
例えば

・2Dで描かれてるのに3Dをくっきりと感じさせる絵

・絵で描かれてない温度や風などが伝わってくる絵

・立ち姿の「立ってる!」感がはっきりしてる絵(安彦良和とかが顕著)

・絵で描かれたキャラクターの力の入れ具合が体感で伝わってくる絵(例えば剣ぶん回してるシーンだとしたらガッツリ握力膂力遠心力まで感じさせるような絵)

・絵で描かれたキャラクターの心情が自分のもののように身に迫って感じられる絵

・絵で描かれたキャラクターの視線が本当の生きてる人間の視線のように感じられる絵

などなど絵の物理情報以上の何らかの体感を感じさせてくれるものが好きなので延々眺めちゃいますね。

例えばポージングを描こうとした時、ポーズ人形見て描くと物理情報分はある程度描ける。
特に人体見ないで描けない基礎のない人には大助かりだとは思う。
けど、ポーズ人形には弱点があって、「ニュアンス」を入れづらい。

「ニュアンス」ってのは「神は細部に宿る」または「神はディテールに宿る」の「細部」「ディテール」のことである。
ポーズ人形で9割5分を描き上げられるとは思うが残り5分はポーズ人形では再現できない。
たった5分じゃん、という人はあんまり観察眼が発達してないと思われるのでそのままの状態ではいずれ頭打ちになると思う。

そうだなあ、わかりやすい具体例を挙げると鬼滅の刃の吾峠呼世晴ね。
彼女は鬼滅の特に前半での手の表情のニュアンスが多彩で素晴らしい。
全般的な画力は平均だと思うんだけど(髪は平均以下)、手の表情の豊かさが素晴らしい。
文字通り「手の表情」なのね。
手で「感情が正確にガッチリ」描かれてるのね。
そういう人は珍しいので目を引いたね。
ちなみに彼女が女性であることは公開前(その頃は無料で最初の3話しか読んだことなかった)から↑のような絵柄の特徴で確信していた(手の表情だけで判断したんじゃないけど)
男性は手の表情あまりこだわんないのよね(少数の例外あり)

で鬼滅と似たシーンで似たポージングは多々あると思うのよ。
ざっくり何かと戦うお話は星の数ほどあるので。
でも手の表情をあそこまで正確にガッチリ描いてる人あんまりいないので、「おお、珍しいなー」っていい意味で二度見したよね。
鬼にやられた人の手とか鬼の手とかどのくらい力入ってるかとかが手によく表現されてる。
(やられた人とか敵方の手の表情をそんなに綿密に描くのは珍しい)
ややしばらく前に全巻一括購入して3話以降も読んだら、やっぱり炭治郎の必死さとか禰󠄀豆子ちゃんを守りたいと「どのくらい思ってるか」が手の表情によく表れてる。
顔の表情や全体のポーズでももちろん表現されてるけど手の表情が加わることでさらに強調される。

それが9割5分から10割になるってことなんだよね。

まあ私自身が手の表情にこだわるマンなので余計に見ちゃうってのはあるんだけど、でもその手の表情の有無で読者に刺さる深さも変わるという部分もあると思うのよ。

これは手に限った話じゃなくて顔の表情でも他のポージングでもそう。
ポージングにおけるポーズ人形の守備範囲はテンプレ以上にはなりづらい。

例えばどのくらい「肩を入れる」かでどの程度前のめりに荷重が掛かっているかの度合いが変わる。
ここをポーズ人形に頼ってると「まあ大体このくらいかな…」程度の感じにしかならないと思う。
というのはポーズ人形は首をすくめる動きなど、できない動作があるからだ。
なので、ポーズ人形頼りきりだと残り5分のディテールを付加できない。

顔の表情ならテンプレ表情がポーズ人形と同じことになる。
これまた例えに吾峠呼世晴を出すけど、彼女は顔の表情もこだわりがあると思う。
テンプレに堕してる部分が全くないとは言わないし、顔の表情が技術的に抜群に上手いという意味ではない。
しかし顔の表情に対して微細な見分けをしている「ところがある」。

顔の表情に気をつける、ということは「人の感情、内面に気をつける」ということである。
なので彼女は「人の感情」に対しての感度が高いのだと思う。
アウトプットの技術が完全に追いついているかどうかはともかくとして、人の感情に対してのアンテナの感度の高さを感じる。
その辺りは描き手として特徴的だと思う。

細かい感情を描き分けるには自分の感情に蓋して鈍感力を発揮していては無理である。
自分の感情に鈍感だと他人のそれにも鈍感になるので、全方位的に感情に鈍感になる。
すると細かい描き分けは不可能になるのでテンプレ表情しか描けなくなる。
そういう意味では内省的である方が多彩な表情を描くのに向いている。
ただし、自分にだけ過敏で客観性に乏しいと他人に理解できる表現はできないのだが。

しかし、だいぶ脱線してしまったが10割は物理情報以上ではない。
物理情報の最大値である。
「神は細部に宿る」ニュアンスを、さらに上乗せできる「物理情報以上の体感」があると私は延々その絵を見続けられる。
そこまで行くと「ニュアンス」というより「クオリア」である。

そういうわけで私の好みの絵は「クオリアのある絵」ということになる。
ただ、「クオリア」まで乗る絵は少ない。
希少な絵である。

なので、私は文章グルメでもあるが絵のグルメでもある。
海原雄山のようなものかもしれない。
絵や文に対するツッコミが細かく要求が高いので。

誰かクオリアたっぷり乗った絵、描いてくんないかな。

(ところで漫画アプリの広告で中華通販の広告に胡蝶しのぶの羽織そっくりの青いのが出てくるけどあれ著作権的に大丈夫なんだろうかと心配になる昨今であった)

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