大鷲の獲物 (神話部お題掌編)
ーサンダーバードー
はるか昔。アメリカ大陸の山に住むと言われた巨大な鷲。
空を飛ぶために羽を広げれば雷鳴が轟くために、雷の精霊と呼ばれていた。餌となる大物の獲物は雷の閃光で仕留めると言う。
少年はいつものように浜に立ち、遠く水平線を眺めていた。
かつて村の男達と共に漁に出た際、急な稲妻に遭遇した。大嵐さながらに風が巻き上がり、波が壁のように競り上がった。衝撃で船は転覆し、海に投げ出された少年はその刹那、稲光を振り下ろす大鷲を見た。
そしてもうダメだと観念した時、大きな黒いものにぶつかったのだ。
鯨だった。
どれくらいの時間が経っただろうか。気がついた時には浜に打ち上げられていた。少年は、間違いなく鯨が助けてくれたのだと思った。
少年だけでは無い。同様に船に乗っていた全ての男達は皆生きて浜に横たわっていた。
激しい雷に度々見舞われていた村人は、大鷲を苦々しく思っていた。
村長は決断し、大鷲の雷を封印するための呪いの儀式を行った。
ただそれ以降、大型の船を失ったこの村の漁は細々としたものにとどめ、陸で作物を育てる事に力を注ぐようになっていった。
あの時の鯨に今一度会ってお礼を言いたい、友達になりたいと、時折り少年は浜に立つのだった。
平和な日々が続いたが、農耕は天候に左右される。
数年後、村は干魃による大飢饉に襲われた。作物は干からび村人は耐え難い飢えに苦しんだ。
合議の末に村長は、大鷲の封印を解くべく長老達と山に向かった。儀式をとり行い、大鷲に礼を尽くし祈りを捧げた。
すると空がみるみる重い雲に覆われ、大粒の雨が落ちてきたかと思うと、鈍い唸り声をあげて黄金に輝く大鷲が飛び立った。
海に向かう大鷲。翼を振り下ろすと、雷鳴が轟き閃光が放たれた。
獲物を仕留めたのだ。そして暫くの間その獲物に武者振り付くと、あらかた残った獲物を咥え村に戻り、充分に湿り気を帯びた土にどさりと落として山に戻って行った。
飢えに苦しんでいた村人は歓声をあげて獲物に飛びついた。火をおこす者、大事そうに抱える者。その中にはあの嵐の時はまだ少年だった若者もいた。
若者は獲物の残骸を一暼すると、半ば生焼けの肉に食らいついた。
それが鯨だとは、とうにわかっていた。
*サンダーバード。アメリカ大陸に伝わる伝説の大鷲。
雷の精霊。鯨をエサとする。
飢饉の村に鯨を分け与えたと言う部分は実在する伝承。
あとは哲学に寄せた創作。
神話部11月お題「禽鳥」参加作品
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