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帰国のランディングまで


「旅」という言葉を聞けば、真っ先に思うのは「無事の帰宅を祈る者達」
わたしの中でそれは、沁み付いているのではなかろうか。

noteが「旅とわたし」という記事を募集している。彩り豊かな旅の思い出記事を見かける事が多くなった。
わたしにだって旅の思い出はある。
でも、少し違う事を書いてみたい。

夫は日本の某航空会社の海外旅行部門で会社員生活を貫いた。添乗員だった時期もある。
わたしも結婚まで同じ職場にいたので夫の仕事は理解できてきた。結婚して37年。
とりわけ最初のロンドン赴任には同行したので、その感覚はより肌で感じることができた。

35年前、当時はまだ国際線の就航が始まったばかり。英国旅行も自社便ではなく、総代理店契約を結んでいた英国航空利用のオペレーションだ。
ロンドンを起点に、大陸への移動が含まれるツアーもたくさんあった。各地オフィスはあるが、拠点はロンドンのオフィス。
電話、ファックス、テレックス主流の時代に、駐在員は我が夫ひとり。後は現地採用のスタッフが一名いるだけだった。

自社便では無い苦しさ。
朝4時過ぎには家を出る夫に代わり、日々確定したヒースロー到着時刻を確認するのは、わたしの役目だった。
当時はアンカレッジ経由で、ここを発ち暫くしないことには、時間が確定しない。
大幅に遅れる時間を言われ

「え、8時間のディレイ予定⁈…… すみません、あなたのお名前は?」
「何のために言わなければならないの?」
(だってし・ん・よ・うできないから)
「いえ、何でもありません。失礼しました」
慌てて夫を起こす。
諸々手配のやり直し。そしてお客様にもランドオペレーターにも頭をさげる。
それが仕事だ。
懐かしい日々。

(今年春の写真。今また、夫はここに出張中)

『無事の帰宅』これに尽きる。

パッケージツアーと言っても、多くの場合パッケージ料金の中身は運送と宿泊だ。それによって料金が抑えられる仕組みがある。
そこにホテルチェックインまでの時間を使った観光が、含まれる場合もある。あとはオプション。
最低催行人数の多くは一名か二名だろう。団体行動といったイメージは無い。
今も、そうは変わらない。

旅行会社も個人旅行のサポートといった印象が強い。
十人が一緒に動くのでは無く、二人ずつ五か所に散らばって動く。そんなイメージ。
そこに要望通りのサポートを入れるのが、旅行会社現地の仕事だ。

旅は生き物だ。

もちろん全て込みの特別な旅行も、手配に抜け漏れは無いか、急なトラブルに対応できるか、細部まで気を使う。

少なくないお金を払って旅行に出るのだ。受け入れる現地側としては、行きたい場所を思い、心躍らせている人達の『安全・安心』を確保し、そして「現地の事情に準じた」快適さを提供するのは当然の事だ。


日本を出国しても、その先は日本国のパスポートによって守られていると、当たり前のことを心に留めている人はどの程度いるだろうか。
歴史、風土そして習慣の違う外国の地に入り、移動が認められているのは、パスポートによって国籍の提示がなされているからだ。

旅の自己責任と言う言葉が飛び交うようになったが、それはあくまでもパスポートによって守られている前提の上に、ある。

その認識の上で、多いに旅を楽しんでもらいたいと思う。
異文化に触れ、見たかった風景を焼き付け、こころを豊かにすることは旅の醍醐味だ。

航空、船舶から宿泊施設、旅のアテンドまで、母体は旅する人達のお金で食べている営利目的の企業だ。そこで働く人もしかり。
あくまで旅の黒子。汗を流すのが当たり前だ。

最近では多くの地に飛んでいる見慣れた翼。
長い付き合いとは言え、わたしも大好きだ。

夫の背中を通して、無事に帰国のランディングを果たす。それを祈る多くの者達に思いを馳せる時、旅人達の疲れの中に笑顔があることを願う。
こころから。


良い旅でしたか?

おかえりなさい。


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募集企画の趣旨とは違うでしょう。でも、タグをつけちゃいますよ。


#エッセイ

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