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納得のBLファンタジー

創作大賞に応募されている小説『葬舞師と星の声を聴く楽師』をお勧めいたしたく、わたしなりの感想を書かせていただきます。

矢口れんとさんの小説『葬舞師と星の声を聴く楽師』感想文


民族楽器は弦楽器だろうか。爪弾きながら、時に詠唱を加えながら語る、壮大な物語詩を聞いているようだった。

伝統舞踏や楽器ヴィシラに対する丁寧な描写。西アジアの仮想国で展開する物語は、ファンタジーでありながら地に足の付いた実直な物語だ。

矢口れんとさん作の『葬舞師と星の声を聴く楽師』には、物語に息づく光景に迷わずに入っていける存在感がある。
それはインドを主とした文学・宗教を丹念に学んだ経験と知識を土台に、文芸への飽くなき探究に裏打ちされた矢口さんの筆による作品だからなのだろう。

この物語はBL作品である。当初、中世西アジアを舞台にした物語という部分に惹かれて、わたしは読み始めた。
正直に言おう。わたしはBL作品に興味を持てない。偏見の類いでは無く、単にストーリーの展開の中で感情移入しにくいからなのだ。
しかしそのわたしが引き込まれていった。
神話、古来よりの風習、古文書、予言を背景に、主人公のふたりが半ば自分探しにも繋がるような冒険を展開する。
互いに自身が背負うものと、巡り会った必然を知り、運命と真っ向から対峙する物語だ。
この主人公ふたりのラブストーリーがBLに当たるが、全てにおいてバランスが良いのだ。
そして一文一文、文章の質の高さを感じさせる作品だった事で、違和感なく感情移入できた。
ふたりの性別が男性と男性である事が物語にフィットするし、芽生えた感情が友情では作品の世界観が損なわれると納得させられた。
神々と人との境界が曖昧だった古の時代、神々が戯れ合い性がおおらかだった時代。その時代の香りを残すような世界観で書かれた物語に魅力された。

謎の答えと宿命が一体となってのクライマックスを迎えた後、人の強さと優しさの中で物語は結実した。
ファンタジーであると同時に冒険ミステリー、BLであると同時に人間愛の物語。

読後感を含め、とても魅力的な作品だった。


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