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メディアが与える性加害に関する影響~仮面ライダーやハレンチ学園の実例より~

 アニメや漫画に登場する〈同意なき性的な接触や性的嫌がらせ〉のシーンが子どもに与える影響の是非については、かねてよりフェミニストやアニメ/漫画ファンがインターネット上などで議論を展開してきている。

 ここでいう〈同意なき性的な接触〉とは、いわゆる”ラッキースケベ”やそれに準じるものを指す。偶発的な事故により、主には男性キャラが女性キャラの胸に触れたり女性キャラの下着姿を目にしたりすることだ。〈性的嫌がらせ〉は、スカートめくりや入浴中の女子を覗く行為など、女性に性的な意味での不快感や嫌悪感、羞恥を生じさせる行為を故意に行うことを指す。

 〈同意なき性的な接触や性的嫌がらせ〉シーンを肯定する意見の論拠は複数あるが、そのうちの1つが、「アニメや漫画で〈同意なき性的な接触や性的嫌がらせ〉のシーンを子どもが見たからといって、普通なら真似しない(≒悪影響はない)」というものだ。

 しかし、この主張――「ほとんどの子どもはアニメや漫画での〈同意なき性的な接触や性的嫌がらせ〉のシーンを真似しない。真似をするのは、ごく一部の普通ではない子どもだけ」という主張――に対して、私は否定的である。その理由として、私は3つの実例とそれが示唆することを挙げたい。

 まず1つは、1970年代に起こったライダーキックを巡る事件だ。この事件の詳細について、以下のような記載がある。

仮面ライダーが大人気を博した1970年代。少年たちによる仮面ライダーの必殺技「ライダーキック」を真似た事故が大きな社会問題になったことがある。
ライダーキックは塀や崖の上から、敵怪人にジャンプキックを打ち込む技なのだが、日本全国でライダーキックを放った子供や食らってしまった子供が怪我をする事故が相次いだのである。中には大けがを負ったり、沼に落ちて死んでしまう子供もいたため、最終的には『仮面ライダー』の劇中で登場人物が注意喚起をしていた。

引用:ニコニコニュース

 「ほとんどの子どもはアニメや漫画での性的接触・嫌がらせのシーンを真似しない。真似をするのは、ごく一部の普通ではない子どもだけ」という主張の背景には、恐らく「多くの子どもは、アニメや漫画の中での人物の言動に対して、真似をして良いものか悪いものかの判別がつく」という前提がある。しかし、上記の仮面ライダーの事件から明らかであるように、社会問題として取り上げられる事態になるほど多くの子どもたちが、アニメや漫画(この場合は特撮だが)の中での人物の言動の真似の是非について、常に適切な判断ができるとは限らない状況にある。

 2つ目は、時代を200年以上さかのぼることになるが、ゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』が引き起こした社会現象だ。1774年に刊行された小説『若きウェルテルの悩み』では主人公の青年が自殺するのだが、当時、多くの若者がこの小説の主人公を真似て自殺する現象が起き、『若きウェルテルの悩み』がヨーロッパ各地で発行禁止となる事態にまでなった。少し話は逸れるが、似た現象は江戸時代の日本でも起きている。1700年代前半に、愛し合う男女が心中する「心中もの」と呼ばれるジャンルの人形浄瑠璃が一大ブームとなり、これに感化された男女の心中事件が多発したのだ。

 物語の登場人物の言動を安易に模倣して事故や事件に至るケースと聞くと、年端のいかぬ子どもを連想する人も少なくないかと思われるが、『若きウェルテルの悩み』が起こした社会現象や江戸時代の心中ブームのように、「青年」と呼べる年齢にして物語の影響から悲劇を起こしてしまう人間は決して少なくない。

 最後の事例として『ハレンチ学園』を挙げる。当作品は、1960年代から1970年代にその過激な性的描写から話題になった少年向けのギャグ漫画だ。この漫画による影響について、各メディアに下記のような記述がある。

なおスカートめくりが一般的に有名になったのは、永井豪先生のハレンチ学園と言われている。
その後真似をする男子生徒が続出し社会現象にもなってしまったがそれだけ革新的だったのだ。
引用:アニヲタWiki
1969(昭和44)年に、漫画『ハレンチ学園』でスカートめくりが登場すると、子供のあいだでも大流行。これ以降、完全に“スカートめくり=性的興奮のるつぼ”と化していった。
引用:Livedoor News

 このように、過去には漫画の影響を受けた多数の少年が現実でスカートめくりに走った実例が存在する。現在でも少なくない数の漫画にスカートめくりに類すると思われる行為(女子の入浴を覗く等)が登場するが、『ハレンチ学園』と同じように真似する子どもが出る、あるいはすでに出ている可能性は十分にあるのではないだろうか。

 以上のように、3つの実例から以下の3点がわかる。

1、漫画やアニメの登場人物の言動の真似の是非を、子どもが適切に判断できるとは限らない。また、それはごく一部の限られた子どもの話ではない。
2、年端のいかぬ子どもならず、ある程度の判断能力や社会常識を有している年齢であっても、物語の登場人物の言動を真似て悲劇を起こすケースがある。また、それはごく一部の限られた人の話ではない。
3、実際に、漫画のなかでの性的嫌がらせを多数の少年が現実で模倣したケースがある。

 これらのことから、〈アニメや漫画で性的な接触・嫌がらせ〉シーンを子どもが見たからといって、普通なら真似しない(≒悪影響はない)」という説を私は否定する。

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