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師走にふさわしいさん喬さんの「掛け取り」と権太楼さんの「芝浜」

師走の大手町落語会

 日曜日の大手町駅周辺は休みのお店が多いのが残念です。「大手町落語会」が行われる日経ホールがあるビルのスタバもお休み。
 しかしながら会場はほぼ満席の盛況ぶり。男女の比率も同じくらいかやや男性が多い感じのようです。ほかの落語会に比べてやや年齢層が高い気がするのは気のせいでしょうか。

 権太楼さんが「真っ当な落語をやるのは、さん喬さんと私だけですかね」とマクラで冗談交じりに言うほど今回は新作落語のオンパレードでした。とはいえ、質が高くて面白い噺ばかりでした。
 鯉昇さんの「そば処ベートーヴェン」は「時そば(関西では時うどん)」を見事にアレンジした噺を高座にかけておられました。甘味が大好きな蕎麦を作る外国人、その好物が「ココナッツ」だそうで、最後の勘定を払う場面で16文のうちの1文を客はごまかします。
 その様子を見て真似する者がことごとく裏目に出るのもご愛敬。そして見せ場の場面で甘いものを尋ねると「ミッツ(蜜)」と答えられて余計に支払うことになるというオチ。この場面をうまく聞き取れなったのでこちらで合っているのだと思いますが、9つのときに尋ねた答えを「ナッツ」でよかったのではないかと思ったのですが、それでは単純すぎますかね。
 コロナ以前にお蕎麦屋さんだったと思うのですが鯉昇さんの寄席を聴きに行ったことがあります。ホール落語とは違う距離の近さと少人数ならではのアットホームな雰囲気がこれまた魅力的でした。


さん喬さんと権太楼さんの安定感

 10月7日に聴きに行った「大手町落語会」はさん喬さんと権太楼さんの二人会の予定でしたが、権太楼さんのインフルエンザでほぼさん喬さんの独演会となっただけに久しぶりにお二人が揃った落語会を目にした気がします。
 コロナ前の数年前に12月30日の末広亭でお二人が一つの演目を途中で交代して演じるという試みをされていたのを聴いたのですが心地よい時間を過ごすことができました。
 やはりお二人そろって高座に上がられると「落語を聴いたなあ」という満足感に浸れます。

 さん喬さんの「掛け取り」は、掛け合いがお見事。大みそかに溜めていたお金を貰いに来る人たちに短歌や浄瑠璃、歌舞伎、そして三河万歳とそれぞれが好むものを駆使して返済を来年以降にずらしてもらう。さん喬さんがう演じると、その間合いや声が素晴らしく、聴いていて二人のやり取りがこれまた楽しい。
 
 そして、トリを務めた権太楼さん。2カ月ほど入院していたそうですが、高座に上がった姿を拝見したのは随分久しぶりな気がします。
 無事にお声が出るのだろうかなど心配しながら高座を見ましたが、その心配はご無用。「芝浜」を熱演されました。
 以前にも権太楼さんの「芝浜」を聴いていますが、まったく衰えていなかったので心底安心しました。

 余談ですが、「芝浜」という演目を知ったのは、北村薫さんの『空飛ぶ馬』を読んだのがきっかけでした。北村さんのデビュー作で、落語家の春桜亭円紫さんが女子大生の「私」が遭遇する日常の謎を解き明かす小説です。「円紫シリーズ」として人気を博し、落語に興味を持ったのもこの作品のおかげです。

 談志さんの「芝浜」はとてつもなく良かったということを耳にするのですが、実際に聴く機会がなく、私の中では権太楼さんの「芝浜」が軸になっているような気がします。





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