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ドラマと橋


#みんなでつくる冬アルバム

アメリカのニューヨーク・タイムズ紙が「2023年に行くべき世界の52カ所」を発表し、そのひとつに岩手県盛岡市が選ばれた。

地元民としては、『ええっ、なんかいいんすか?』といった喜びや誇りより、まず真っ先に起こる戸惑いが勝つ。
人の温かみ?いや、どこにもいい人もいれば嫌な奴もいる。
ご飯が美味しい?いや、他県にも美味しいご飯はたくさんある。
観光地が多い?いや、ありえない。(ごめんなさい)
盛岡市ってのは、岩手の中でも観光しがいがない。(本当にごめんなさい)
岩手の中でも、花巻は温泉が盛んだし、宮古は24時間テレビでも取り上げられた浄土ヶ浜など美しい海が自慢だし、歴史的遺産でいえば平泉の金色堂が有名だ。
盛岡は、あくまでも岩手県内では都会で、とりあえず飲食店は揃っているし、イオンあるし、映画観れるし、カラオケもできるし、公園もあるし、岩手県民が遊ぶのにはちょうどいい、そんな街だと思っていた。

しかし、ニューヨーク・タイムズは

大正時代に建てられた和洋折衷の建築や現代的な
ホテルのほか、伝統的な旅館がある。
城跡も公園になっていて、歩いて楽しめる街だ
ニューヨーク・タイムズ紙 より

と、大絶賛である。
歴史的な建物は京都とか金沢のほう楽しめるんじゃない、と言いたいところだが、『歩いて楽しめる街』は、地元民として、納得がいく。

私は、散歩が嫌い。
そもそも、運動が嫌い。
できることなら、車で移動したいし、わざわざ疲れることはしたくない。
しかし、盛岡の中心部を歩くのは、なぜか好き。
冬でも、よほど大雪でなければ、歩く。
街の中心部にあるコインパーキングは、一般市民にとっては高価だが、できるだけ安い場所に駐車して、そこから歩いて、街並みを楽しみながら、喫茶店に向かうのが好き。

盛岡の良さは、ご飯が美味しいところ、四季が楽しめるところ(冬が約半年あるのは難点だが。観光客にとっては関係のないことだ)人や方言の温もりもあると思うが、《歩いてて楽しい》点にあるのだ。

なぜ、歩いてて楽しいのか?
盛岡といえば、岩手銀行赤レンガ館が有名観光地だ。
そのような、モダンで歴史を感じる建物は、盛岡の魅力である。
しかし、盛岡の街の最大の特徴を、忘れてはならない。
それは、川が流れている、ということ。
いや、どの街にも川はあるわい、とつっこみたくなるだろう。
しかし、盛岡の川は、なんだか印象深い。

盛岡市内を流れる川は代表的なもので2つ。
まず、北上川。
東北最大の流域面積を誇る。
北上川ゴムボード川下り大会が県内では有名。
次に、中津川。
盛岡市内中心部を流れ、北上川に合流する河川。
鮭の遡上や産卵を見ることができる。

川があるってことは、橋もあるのだ。
そうでないと、歩くことができないからね。
なぜ、盛岡の川が、印象深いのか。
それは、美しい橋にあると思う。

緑と青のコントラスト、手っ取り早く地球を感じられる場所。

歴史的遺産に馴染むようにかけられた橋は、海外の観光客からしたら珍しいのかもしれない。
そして、これは個人的見解なのだが、橋を渡るもいうことは、ドラマの始まりなのである。
ドラマと橋。切っても切れぬ関係。
代表的な橋は、『結婚できない男』に出てくる、鈴懸歩道橋。

数年前、この橋をこの目で味わいたいが故に、都会に慣れない中、電車を乗り継いで辿り着いた功績あり。

ここを登場人物が渡ったと思うと、直接会ったわけでもないのに、ウキウキしたものだ。
夕暮れ時に、都会に紛れる水色のアーチ状の橋。
ピカピカのビルに埋もれながら、しかしどっしり構えながら、ドラマを見守るように、静かに目黒川にかかるその凛とした姿こそが、《東京の中の東京》といった感じで、こんな景色を毎日眺められたら最高だよな、と観光当時、ため息をついたものだ。
(鈴懸歩道橋は、昭和51年製と、なかなか古いものである)
鈴懸歩道橋に限らず、Creepy Nutsの曲中にも出てくる勝鬨橋や、踊る大捜査線で印象的なレインボーブリッジなど、東京にはドラマの舞台になるような橋が数多く存在する。

待てよ、盛岡にも、たくさん橋あるじゃん。
眺めは東京に劣るかもだけど、ドラマが起こりそうな橋が、あるじゃん。
まず、開運橋。

これぞ!レインボーブリッジ。
いや、恥ずかしいな。

盛岡駅開業に合わせて作られた橋で、当状のは民営で有料だったとか。
ここの交差点で、信号が変わるから、と手を繋いで好きな人と走った思い出がある。
すでに、これでドラマである。

次に、富士見橋。

ここで、富士見橋?上の橋とか、中の橋とか、もっとあるやん、と思った岩手県民よ。
このレトロな柵、ベンチ、三角の街灯、色合い、ときめきませんか?
『南部富士』の、別名を持つ岩手山を望むことから名付けられた富士見橋。
私は、ここでドラマのような出来事に遭遇したことはないが、この橋を渡る人々は、ドラマの世界の住人のように思える。
ランニングをしたり、写真を撮ったり。
岩手山を堪能したり。
彼らの表情は、生き生きしている。
澄んだ空気。澄んだ空。そびえ立つ岩手山。


中津川を挟むように連なるマンション、家屋。
盛岡市民の生活が濃縮された、ドラマのワンシーンのような景色。
ニューヨークタイムズに載せても埋もれてしまいそうだが、こんな日常に溢れた橋こそ、訪れてほしい。
日常的だが、歴史的遺産がむんむんと香るわけでもないが、懐かしい雰囲気があって、岩手山を独り占めできて、ドラマが始まりそうな予感を味わえるだろう。

海外の観光客は、盛岡の街並みにロマンを感じているのなら、それは盛岡の川が美しく、その美しい川にかかる橋を渡ることで、ドラマの始まりを感じたからでないか、と自惚れる地元民の意見は少数派だろう。

旅をするなら、ドラマに迷いたい。
盛岡にも、ドラマが潜んでいるのである。


参照 もりけん本 盛岡商工会議所

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