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世界初?eスポーツ選手への応援歌はなぜ生まれたのか

4月10日~12日にJリーグの主催で行われたeJリーグオンラインチャレンジカップ。サッカーゲーム「FIFA20」を舞台に、Jクラブ推薦のプロeスポーツ選手、予選を勝ち抜いた一般参加者、元Jリーガーも参加して行われたこの大会において、恐らく世界初であろうeスポーツ選手のチャント(応援歌)が生み出されました。今回はその経緯を、チャント制作の発案者であるおばらっちさんに聞きます。
【取材日:2020年4月29日 聞き手:ようへい(ミドマガ編集部) 】

▼松本に来て一年足らずでコールリーダーに

――もしかしたら知らない方も多いかもしれないので、まずは簡単に自己紹介してもらってもいいですか?いつ頃から山雅の応援を始めたかとか。

おばらっち 地域リーグ時代に山雅のコールリーダーをしていた者です(笑) 山雅を応援し始めたのは北信越2部にいた2005年からですね。

――地元は松本ではないんですよね?

おばらっち 生まれは神奈川で、育ちは東京。小さい頃は父に連れられて日産スタジアムによく行き、そこでサッカーや応援に興味を持っていきました。

――なぜ山雅の応援を始めたんですか?

おばらっち 松本へは大学進学のために来たんですけど、サッカーを観られる場所は探してて。そんな時に山雅の存在を知り、ウルトラスマツモトの掲示板に書き込んだのがきっかけですね。行ってみたらサポは10人ぐらいしかいなくて、ゴール裏は全員顔見知りみたいな時代でした。

――見に行き始めたのは2005年で、その年の最終節にはコールリーダーをやっていますよね。驚くべきスピード感ですが、東京から出てきて1年目の若者が抜擢されたのはどんな経緯だったんですか?

おばらっち ウルトラスの活動していたら疋田さん(現ウルトラスマツモト代表 初代コールリーダー)に指名された感じでした。きっかけがあったとしたら「全選手のチャントを作ろう」ということを発案して、一緒に作ったことかな。当時は山雅には選手チャントなんてほとんど無かったんだけど、TSUTAYAの駐車場で借りてきたCDを聴きながら1日で作った記憶があります。そこで信頼関係ができたのかもしれません。

――実は今回と同じようなことを既にやっていたんですね(笑) 本格的にコールリーダーをやり始めるのはその翌年の2006年からでしたが、色んなことをやっていましたよね?

おばらっち 色々やっていました(笑) 松本のお店に突撃してチラシを置くような普及活動もやっていたし、Away南長野での信州ダービーではグリーンフラッグを大量に作って持ち込んだり。

――今の応援スタイルのベースになるようなことは一通りやってましたよね。当時意識していたことはどんなことでした?

おばらっち とにかくサポを増やそうということだけです。自分は「サッカーに興味がなくてもいいから見に来てください」というスタンス。あとネットもフル活用していて、特にmixiに関しては長野県に持ち込んだのは自分だという自負すらあります(笑)

――それまでは本当にUMの掲示板ぐらいしか一般の人との接点が無かったですが、SNSの活用からキーマンになるような人材がどんどん増えていった印象があります。

おばらっち そうだね。そういう人たちが、自分の発案したフリーペーパーやグッズを作ってくれたり。自分一人では何もできないんだけど、周りの人のチカラがあれば普通じゃ届かないようなところまで行けるんだということは、その時に学びました。

▼およそ半日で選手に届いたチャント

――このあたりで過去編は終わって現在まで時を進めましょう。今回eスポーツ選手にチャントを作るという史上初の試みがなされた訳ですが、なんでやろうと思ったんですか?

おばらっち 実は思いつきじゃなくて、何年も前からやりたいと思ってたんだよね。以前、実況パワフルプロ野球とか格闘ゲームの全国大会を見たことがあったんですけど、基本的にマニアな人が静かに熱く盛り上がっている、という観戦スタイルだったんです。

――思いつきじゃなかったんですね!確かにeスポーツに対してそういうイメージはあります。

おばらっち 僕は応援のチカラってスゴい、ということを経験から知っていて。やっぱり人に見られていて「今のシュート凄えな!」とか言われると、全然テンションが違うじゃないですか。だからeスポーツにおいても、応援がプレーに影響する可能性って全然あると思っていて。だったら応援文化があっても面白いんじゃない?という。ただなかなか実現させるきっかけがなかった。

――それで今回のeJリーグという訳ですね。

おばらっち そう。eスポーツ選手がクラブを背負って戦う。これだ!と。ただ最初は様子を見ていました。

――チャントを贈ったアグ選手は山雅の推薦選手での出場でしたが、ターゲットに定めたのはいつ頃だったんですか?

おばらっち 大会2日目にアグ選手の試合を初めて見たんですけど、その戦いぶりに自分の中でかなり盛り上がっちゃって。「チャント作りてー!」ってなったんだけど、その時点で既に最終日前日の夜9時とか。しかも自分だけで届けるスキルもない(笑)

――その状況からよく形にしましたね(笑)

おばらっち とりあえず仲間内のLINEに作りたいって書き込んだんだけど、夜遅かったこともあって既読も付かず、これは企画倒れだなーと思って寝ました。それで朝起きたら、タクマさん(山雅後援会東京支部 坂本事務局長)が「これいいじゃん!やっちゃいなよ!」と。それで背中を押されました。

――そこから半日で完成させるという急ピッチだった訳ですが、制作はどんな感じだったんですか?

おばらっち それはむしろ君が語った方がいいんじゃないの?巻き込まれた一人として(笑)

――はい。実は作曲と音源編集は私がやっています(笑) これ今すぐ進めないと間に合わねえなと思って、即行で作曲ソフト立ち上げてデモ音源を作って送りつけました。

おばらっち こっちはいきなり曲が来て驚いたけど、これで行けるぞと。その時点でメロディとドラムの打ち込みがあって、あとは歌詞だけという状況ね。

――歌詞は時間がない中ではありましたが、公募しましたね。

おばらっち 自分一人じゃできないって分かってたし、全部自分で埋めようとも全然思ってなくて。みんなのアグ選手への想いを1文字でも乗せたかったというか。

――「熱い指さばきで」というeスポーツ感のあるフレーズも入りましたし、「家から届けよう俺たちの想いを」というのも、ステイホームならではで良かったですよね。更に公募自体が周囲を巻き込むことに繋がった感じがする。

おばらっち そうですね。そうやって周りを巻き込んでいくのはいつものやり方で。山雅サポは応援好きな人が多いし、コロナの状況での応援欲の高まりとか、eJリーグの盛り上がりとか、色々合わさった結果、良いものができたと思います。

――歌入れは仲間内でやってくれそうな人に声掛けて、音声データを送ってもらってそれを合成したので、リモート録音という形になります。ここまで4~5時間ぐらい。超大変だった…。

おばらっち 凄い勢いで進めたよね(笑) あとどうしても言っておきたいのは、アグ選手が所属するBlue United eFCのスタッフの方が素晴らしかったですね。

――反応早かったですよね。アグ選手本人の元にもすぐ伝わりました。

おばらっち 受け取る側の器の大きさ、フットワークの軽さがあったからこそ、試合前に届けることができたんだと思います。

――ゲキサカさんのようなサッカーメディアに取り上げられたり、思った以上のところまで届いた感じがしました。何よりアグ選手は試合中に自分の部屋で、そのチャント音源を流してくれていたそうですね。

おばらっち 嬉しかったですね。ちゃんと喜んでくれて、応援を自分のチカラにしてくれてるんだということが。彼がベスト4まで勝ち上がる一端を担えたのだとしたら、こんなに光栄なことはないです。

▼面白いことは誰がやってもいい

――今回はウルトラスマツモトではなく、サポーター有志でやった活動でしたね。

おばらっち そうだね。UMに話を通したりはせずに進めたけど、大丈夫だった?

――そこはちょっと考えましたけど、よくよく考えたらこれは誰がやってもいいじゃん、と思いました。昔から山雅に根付くDNAとして、誰が発信するかは関係なく、面白くて迷惑も掛けないことなら周りを巻き込んでどんどんやればいいと。UMだって、そんなことで気を悪くするほど小さな人たちじゃないですし。

おばらっち それはその通りだね。自分としても昔からそういう姿勢でやってきたし。自分のように今はサポ団体に入っていないような人でも、自分たちで考えて自発的に動くようなケースはどんどん出てくるといいなと思ってますよ。いまコロナの影響でクラブの赤字とかもあって、支援も必要なときだし、尚更ですね。

――このまま締めでもOKなぐらいのイイ話ですね。この件では新しい応援の形が一つ提示できたなという感じもありますが、手応えはどうでしたか?

おばらっち まずこうやって形にできたことは良かったね。あと課題としては、もっと多くの人を巻き込んで届けていけたらいいなという想いはあります。

――いまコロナの影響で声出し応援ができない状況ですけど、eスポーツだけでなく山雅の応援にもこういう形はアリかもしれませんね。

おばらっち 当然考えられると思うよ。たとえば無観客試合でも自分の声がスタジアムに届けば、より双方向で熱くなれるし、サポのステイホームも充実するんじゃないかなと。そういうアイディアは持ってますよ。バーチャル応援みたいな。

――やはりサポーターとしては、何らかの形で応援を選手に届けたいですもんね。

おばらっち 今の技術なら色んなことができると思うし、どんどん新しいことにもチャレンジして欲しい。Webサポミで神田社長が言っていたように「むしろ山雅はコロナの中断を乗り越えて強くなったよね」と言われたらいいですよね。自分はアイディアを発信するのは得意なので、また何かできたらなと思っています。あとは今回の件で、自分ができなくても周りが形にしてくれるケースもあるよ、ということを感じてくれる人がいたら嬉しいです(笑)

――言い出す人、背中を押す人、形にする人がいたら何でもできるというのはよく分かりました(笑) あとは何か裏話とかあります?

おばらっち その後の話だと、アグ選手と、その活躍を応援していたセルジーニョ選手の3人でTwitterでやり取りしたりはしましたね。そういう絆もできましたし、いつかアルウィンでアグ選手のチャントを歌いたいという野望はあります!(笑)

――期待してます!

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昨今は様々な方面に配慮しなければならないことも多く、新しいことをするにはどうしても腰が重くなってしまう中で、失敗を恐れずに「やろう!」と言い出す人材の大切さを改めて実感した一件でした。eスポーツの話に止まらず、誰が行動してもいいということは、山雅の応援・支援にも当てはまりますし、この気付きを活かしてまた新たなチャレンジが生まれれば面白いなと思っています。

さて、このチャント制作の件も影響したのか、6/13(土)に松本山雅FCの主催で「松本山雅FCオンラインチャレンジカップ」が開催されます。

大会には、こちらの件で縁が生まれたアグ選手、セルジーニョ選手、そしておばらっちもサポーター代表で参戦します。試合が見られるのはもう少し先になりそうですし、この週末はeスポーツで盛り上がってみるのはいかがでしょうか。

Written by ようへい

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