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写真屋のおじちゃん<写真のダイヤ>

【写真屋のおじちゃん】

ゆっくりゆっくり撮り溜めたフィルムを握りしめて、行き慣れた駅前の道で迷子になった。

写真屋がない。おじちゃんもいない。

そんなはずはないけど、写真屋がない。
左にはパン屋があって、右にはクリーニング屋がある。
ただ、そこにあるはずの写真屋がなかった。
目の前にあるのは「餃子屋できます!」の貼り紙が掲げられたシャッターだった。

何が起きているんだろう。何が起こったんだろう。

家に帰って、おじちゃんのお店宛てにSNSでメッセージを送った。


「写真屋がなくなっていてびっくりしています。おじちゃんに会いたいです。お返事待ってます。」


返事はなかった。

今日、インターネットの力を借りて、何が起きたのかを知った。

信じられないとか、突然すぎるとか、イヤだとか、どうして?とか、なんで?とか、さみしいとか、会いたいとか、どうして虫の知らせ来なかったんだろうとか、このフィルムをどこで現像したらいいんだとか、挨拶くらいさせてよとか、感謝とか、ありがとうとか、あらゆる、感情が、ぽっかり空いた穴に落ちていった。

フィルムカメラで切り取った日常を、おじちゃんが現像してくれることは、まぎれもなく私の大切な“日常”だった。



おじちゃん

おじちゃん

私がフィルム写真を大好きになったのは、撮り終わったフィルムを握りしめて、おじちゃんに会いに行くのが楽しくて仕方なかったからなんだよ。

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おじちゃん

私、おじちゃん以外の人にフィルム現像頼んだことないんだよ。
これからどこでフィルムを現像すればいいの?

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おじちゃん

わたし今年は厄年で、しっちゃかめっちゃかしてるよ。話聞いてよ。
おじちゃんは、最近どうしてる?
先月の大雪は、たくさん雪降ったね。私は雨靴を出すのが面倒で、せっかくの積雪を踏むこともなく、一日家に籠って過ごしたよ。勿体無いよね。
こないだは、育ててたサボテンをうっかり指で触っちゃって、無数のトゲがささって、これが細くて細くてとてもピンセットで抜ききれなくて、木工ボンド塗って乾かしてベリッ!て剥がし取ったんだよ。おじちゃん、サボテンのトゲささったことある?
あとね、最近加湿器からたまに「キュイ、キュ~」って仔犬みたいな音がするの。なんでだろう。誰も信じてくれないんだよ。
あとね、あとね。話したいことがまだまだあるの。

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溢れる想いとぽっかり空いた日常に、涙を流しながら思った。

おじちゃんは、人を笑顔にする人だった。


証明写真を撮るときに「悲しい顔をして」なんて言う人はいない。

笑顔で写るそれぞれの大切な思い出を何千枚、何万枚と現像してくれた人だ。


笑わないと、きっとおじちゃんに笑われる。

でも、今日だけは、涙を流させてください。


京王線つつじヶ丘駅南口に昭和の頃から愛され続けた写真プリントのお店
「写真のダイヤ」

私にとって、掛け替えのない居場所でした。


フィルム写真の楽しさを教えてくれてありがとうございました。

おじちゃんとの思い出は、一点物のダイヤです。


写真のダイヤを愛したお友達 midograph より。







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