今日も明日も眠れないから、僕は夜とお友達でよくお話をする。皆んなは夜がどんな姿でどんな言葉を持っているか知らないと思うけれど、実際そんなのは些細な事なんだ。夜は僕に沢山の事を教えてくれる。そして、いつも泣いている僕の隣に寄り添ってくれる。それだけが全てで、それで僕は満たされる。
ある時、僕は夜空に月を見ていた。なんて、なんて事だ。こんなにも綺麗なものが毎夜の空に顔を見せている事に感動をした。夜はいつでも平気な顔をしていて、当たり前の事だよって教えてくれた。僕は「こんなにも綺麗な夜空に気がつかない人が沢山いる事が悲しい」と少しムッとして拗ねてみせた。すると、夜はクスクス笑って「そんな事はどうでも良いんだよ。この世界に一人でも、いや世界中の誰も美しさに気が付かなかったとしても。やっぱりそれで良いんだよ。それが夜だからね」と僕を諭すように答えた。僕の頭を撫でるようにひんやりとした夜風が何処からか吹いてきて、木々の葉がサラサラと泳いでいた。僕はなんとなく言いたい事が理解できる気がした。それを誰かに言葉にして伝える事もできると思う。でも、それは無粋な事。夜が悲しむからやめにしましょう。言葉にした瞬間に、その意味も価値も情緒も夜に溶けて無くなってしまうから。僕はたまに、「夜とお友達になるにはどうすれば良いか?」って訊かれる事がある。僕は、決まってこう答える。「夜はいつでも手を差し伸べているから、それに気がつけるかどうかだよ」

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眠れない夜に

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