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おふくろと呼ばれた(東京都在住30代男性歌人の場合#8)

帰省した初日に母が封を切る「おふくろの味」と書かれた袋

自作短歌

こないだの平日の夜のこと。

録画してあった「午前0時の森」火曜日を見ながら、「若様と水卜ちゃんのトーク永遠聞いてられるわあ」とか思いながら、アイスをねぶるという大変充実した時間を過ごしていたところ、飲み会帰りで酔っぱらってソファに転がっていた妻から、

「おい、おふくろ、水」

と言われた。

俺は、ついに「おふくろ」になったらしい。

世の中では、妻に家事を任せっきりにして自分の世話までさせる夫に対して、「私はあんたの母親じゃない!」とブチ怒っているという話は聞いたことがあるが、その逆というのは聞いたことがない。

あと、「親父」ではなく、「おふくろ」で、性別を超越してしまった。

とはいえ、うちの場合、家事や車の送り迎えなど、旧来のステレオタイプな家庭における女性の役割を私が担っているので、その意味でおふくろと言えばおふくろなのだが、うちには子供がいないし、そもそも妻は実家との関係が悪く、母親をおふくろと呼んだことはないはずで、不思議に思った。

みんな心の中に理想のおふくろがいるのだろうか。

私は、田舎の出身で、実家は、旧来型のジェンダーロールどおりの父母であったが、友だちがいなくて、社会学系の本を読み漁っていた結果、「家業がないのに、家父長制的な振る舞いを父親がとるのは間違っている」というよくわからないガラパゴスジェンダー論に至り、そのまま実践編に突入してしまった。

しかし、ときどき実家に帰って、いつものくせで家事をやろうとすると、母親から「お母さんの仕事を奪うな」と抗議される。

無論、母親を「おふくろ」と呼んだことはなく、最近は、「先輩」と呼んでいるので、気持ち悪がられている。

難しいものだ。

「誰がおふくろだ、ばかやろう」

とビートたけしのモノマネをしながら、水を出し、またアイスをねぶって、眠くなるのを待った。

それで別にいいと思ってしまっているので、おふくろになる才能はあったみたいだ。

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