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政治的な理由ではなくオリンピックが苦手

3年ほど前に中学生の女性アイドルの方がファンを「女性、男性、おじさん」と分類して、局地的に話題になったわけですが、おじさんって一括りにされがちなんですよね。

ただ、まあ自分がおじさんになって思うんですけど、他の人間の分類と同様に、おじさんにも二種類あって、「陽キャおじさん」と「陰キャおじさん」に分類されるんですよ。

これって、難しくて、自分が子供のころも、おじさんってって全員ちゃんとキッズにあいさつできる生き物だと無意識で思ってたんですよね。
ただ、キッズにあいさつのできるおじさんは陽キャおじさんで、陰キャおじさんってキッズに緊張しちゃうんですよ。
大人だろうが、子供だろうが、年齢の上下だけでマウンティングできるって才能なんですよね。
あと、働いてて思うのは、それなりにお年を召した茶髪で色黒で靴がとんがっている人も、はげ散らかしててずっとよだれが出ているワイシャツがしわくちゃな人も、スーツを着て、取引先として登場したら、見た目の情報は一旦シャットダウンされて、「名刺の肩書の実体」という記号にしか見えなくなるという訓練がいつの間にか施されていて、自分自身も「おじさん」は単一民族であると錯覚しながら働いておるわけです。
陽キャなおじさんも、陰キャなおじさんも、各々の故郷生まれ、パワハラ育ち、契約書書く奴は大体友達、とBadful Daysを送るおじさんたちは、まあ仕事の話をしているときは、単一民族なんですよ。

しかしながら、そんなおじさんも一たび飲み会で集合すると、臆面もなく自分の話をして、人の揚げ足を取りながらマウンティングして、セクハラまがいの言葉で若い女性に話しかける陽キャおじさんと、エピソードトークさせたら俺の方が面白いという謎の自負を持ちながら、実際には合いの手を入れることしかできず、若い女性をむっつりねっとりと見ている陰キャおじさんの2種類に分断されるんですよね。
で、私なんぞというものは、飲み会の度に、ああ、今日も陰キャおじさんだったな、じっとりねっとり見ていた若手女性社員に嫌われてないかな、何なんだろうな、この人生、と肩を落として、中国人マッサージ店に消えていくような日々を送っておったわけです。
ただ、このコロナ禍で飲み会が消滅いたしまして、というか、正確に言うと、やっぱり陽キャおじさんたちは飲みに行って感染ロシアンルーレットを楽しんでおられるわけですけど、我々陰キャおじさんは、めちゃくちゃ断りやすくなったんですよ。
魔法の4文字「かぞくが」を繰り出すだけで、さすがの陽キャおじさんも「まあね、コロナ終わったら、絶対飲み行こうな!」と少年漫画関連アニメの次回予告の締めのごとき言葉を発して消えていくのですが、「あんたらが飲み歩き続けてる間はコロナ収束しないと思うぜ!」という応答は腹の中に抑えて、お昼ごはん何食べようかなと物思いにふけることができるわけです。

そんな平和な毎日をぶち壊すのが、平和の祭典オリンピックなんですよね。
国と国は平和にするかもしれないですが、生まれてこの方ネガティブシンキングと非戦型人生を送ってきた陰キャおじさんにとって、一定のルールのもとで勝ち負けを決めるというスポーツの普遍的概念が、恐怖でしかないわけです。

思い返すに、私も学生時代、卓球部でプレーしておりました。
スポーツってちゃんと練習すると、そこそこ強くなるもので、本当にそこそこではありますが、市町村レベルの大会で3位とかになるくらいではあったんですよ。
ただ、いかんせん熱量の低い部活で、そこそこ練習して、残りの時間は「笑う犬の生活」の話をしてるような牧歌的な部活で居心地がよかったんですよ。
でもまあ、大会に出ると、「笑う犬の生活」も「爆笑オンエアバトル」も「大爆笑問題」も見ていない陽キャイケメン卓球選手と対峙することになるわけです。
陽キャイケメン卓球選手って大応援団を連れてきて、熱血コーチが控えてるんですよね。
それに対して、当方は、友だちが一人、念のためバックに控えてるのみで、圧倒的劣勢でスタートするんですよ。
で、試合が始まると、相手がポイントが入ると大応援団の拍手と歓声が鳴り響き、当方がポイントを入れると静寂が支配するという、え、俺、外国でプレーしてるの、みたいな錯覚に陥るわけです。
で、「笑う犬の生活」の話をしながら鍛えた、サーブで裏をかく技術やボールをネットに当てる技術や問題にならないギリギリの遅延行為を繰り返しながら、相手がイライラして自滅するのを待つという、最低なプレースタイルで勝っちゃったりするんですよ。
そうすると、試合途中にセットを取ったところで相手コーチの「相手は格下だ!自信持って行け!」という勇ましい言葉や観客席にいるかわいい女子生徒たちの本当にゴミを見るような視線とも対峙しないといけないわけです。
ここで、根が陽キャなら、「なにくそ!」とか思うんでしょうけど、生まれたときから日陰者ですからね、友だちのところで「え、これ負けた方がいいの?」と怯えた目でつぶやいてしまい、「わざと負けるのも感じ悪いから、普通にやったらいいんじゃない」という会話を小声でして、また戦争に向かわないといけないわけです。
挙句、試合が終わって、ロビーのベンチでアクエリアスを飲みながら、「先週のオンバトのバナナマンのネタ攻めてたなあ」とか、のんきに思っていると、あんなに罵声を浴びせてきた相手コーチがにじり寄ってきて、「君、いいものを持ってるね」とか言いながらアドバイスしてくるという、令和の時代に各ゴルフ場で女性を困らせる教え魔おじさんの洗礼を中学生にして浴び、つっけんどんな態度を取ることもできず、「ありがとうございます」と芝居して、満足そうな顔で帰る陽キャおじさんの背中を見ながら、「今週のオンバト、おぎやはぎ出るの熱いな」と思索に戻るわけです。

陽キャおじさんは、全員オリンピックの虜です。
あと、職場のおじさんって全員陽キャおじさん前提で人間扱いが進行するんで、老若男女、対職場のおじさん対応として、天気の話の代わりにオリンピックの話が差し込まれるんですよね。
去年までなら、それが甲子園だったわけで、甲子園はギリギリ「自分あんまり野球詳しくないんで」がOKだったのですが、オリンピックを知らずんば人にあらずというような顔つきで話しかけられて、「それぞれルールの違う国籍要件を前提にチーム分けして戦うのって、何か意味あるんですか。自律的にエンタメとしてのエコシステムが構築されているプロスポーツだけでいいじゃないですか」とか絶対言っちゃダメなわけです。
そして今日もリモート会議で全員がそろう前の数分間、急いでyahoo!ニュースのヘッドラインを見て、予習しなければならないわけです。

あと、今年のオリンピックのたちがわるいのが、純粋にスポーツの祭典としての楽しいか苦手かの分断に加え、政治的に賛成か反対かという、二重のめんどくささがあるんですよね。
プラスの方向にテンションの高い陽キャおじさんも怖いんですけど、マイナスの方向にテンションの高い陽キャおじさんってのも同様に怖いんですよ。
だんだん暑くなってくると、無理筋系のクレームって増えるんですよ。
やっぱり暑いの嫌ですからね、そこまでは共有できるんですけど、そのイライラをなぜか商品の表示とかにぶつけて、言い返せないカスタマーセンターにご意見いただくのは、どうかと思うんですよ。
で、お話を拝聴していると、途中から政権批判と上流国民批判に変わり、最近はオリンピック批判を上乗せして頂戴するんですね。
家族に相手にされないからって、私どもを無料のテレクラ代わりに使うのはご勘弁願いたいわけですが、今年は、オリンピックの小話を拝聴させていただくおかげで、クレーム処理の時間が前年比で2割ほど増加しております。

もはや、フラットにオリンピック苦手ですというお気持ちを表明することすら許されない我々陰キャおじさんは、家でラジオでも聴いて過ごすしかないんでしょうね。
あ、そういえば今日は、そんな陰キャおじさんたちのメールをときに優しく、ときに激しく読んでいただけるフジマスとひなりんのよるらじの日ですね。

あ、明日の征服ちゅうずでぃに送るメール考えなきゃ!

ま、そんな人生でも、何とか生きております、最近暑いから日陰の方が、過ごしやすいかもしれないですしね。
とりあえずオリンピックさん終わっていただいてよかったですほんと。
陽キャおじさんの皆さま、これからは天気の話で勘弁していただけると幸いです。



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