マガジンのカバー画像

無私

49
人よりも空、語よりも黙  自我に訴える表現を避け、後を引くことのない言葉を集めました。
運営しているクリエイター

記事一覧

やっと雨が降ったんだ

やっと雨が降ったんだ
この青をずっと思っていたんだ
心臓の音が澄んでいた
言葉以外何にもいらない空だ

|ヨルシカ

とある大きなお墓の前で

とある大きなお墓の前で
あなたが僕の手のひらを開き
指で文字をいくつか書いて見せた。
そしてまた僕の手のひらを閉じた。
僕は何が書かれていたのかもわからないのに
何度も何度もうなずいていた。

| パク・ジュン

このあいだ

このあいだ駐輪場に自転車を停めて鍵を外そうとしたんですけど全然外れなくて、数分かくとうしてようやく、外れて

よぉーし

て思ってたんですけど、ななめ前方向から、パツパツパツパツパツパツって音がなんか聞こえてきて、なんだろうって思って見てみたら知らないおばあちゃんが私のほうに向かって拍手してくれてました。

多分見守ってくれてたんだと思います。

| 絶滅危惧種のアメーバ

星野源のオールナイトニ

もっとみる

一つの花に

一つの花に蝶と蜘蛛
小蜘蛛は花を守り顔
小蝶は花に酔ひ顔に
舞へども〳〵すべぞなき

花は小蜘蛛のためならば
小蝶の舞をいかにせむ
花は小蝶のためならば
小蜘蛛の糸をいかにせむ

やがて一つの花散りて
小蜘蛛はそこに眠れども
羽翼も軽き小蝶こそ
いづこともなくうせにけれ

|島崎藤村

二人して

二人してさす一張の
傘に姿をつゝむとも
情の雨のふりしきり
かわく間もなきたもとかな

顔と顔とをうちよせて
あゆむとすればなつかしや
梅花の油黒髪の
乱れて匂ふ傘のうち

|島崎藤村

朝羽うちふる鷲鷹の
明闇天をゆくごとく
いたくも吹ける秋風の
羽に声あり力あり

|島崎藤村

庭に

庭にかくるゝ小狐の
人なきときに夜いでて
秋の葡萄の樹の影に
しのびてぬすむつゆのふさ

恋は狐にあらねども
君は葡萄にあらねども
人しれずこそ忍びいで
君をぬすめる吾心

|島崎藤村

大根

大根が身を乗り出してうまさうな肩から胸までを土の上に晒す

|奥村晃作

折られなかった

折られなかった頁の紙束をみつめて
ほんとうに?
のがしていないだろうか捕えるべきだったろうに

|くにしげ

くるま

くるまを運転する赤坊
ぶーん
エアーのハンドルをにぎり
マンマに進行方向を指示する

|くにしげ

びっしりと

びっしりと少女の爪をはりつけているような鯛ギラリ魚屋

|俵万智

一山

一山で百円也のトマトたち
つまらなそうに並ぶ店先

|俵万智