ライターの仕事は「誰かの伝えたいことを言葉にしてあげること」|名古屋スタートアップのライター 吹原 紗矢佳にインタビュー
ライター・デザイナー・ビデオグラファーの複数のプロダクションから成るフリーランスクリエイター経済圏『mics(ミックス)』。Webメディア、ブランディング、デザイン、映像など、さまざまなジャンルのクリエイティブ領域を横断して、名古屋スタートアップ株式会社、チームどみにおん、株式会社カチノデが合同で事業を行っています。
今回は、mics編集部のライターであり、フリーランスとしても活躍している吹原 紗矢佳に、同じくmics編集部のライター中原がインタビューをしました。
吹原 紗矢佳|プロフィール
1985年生まれ、兵庫県姫路市出身、愛知県知立市在住。自動車やバイクが好きで、ガソリンスタンドや中古車の清掃工場、運輸会社に勤めた後、2016年にフリーランスのライターになる。現在はインタビューや執筆だけでなく、編集、撮影、動画編集など幅広く活躍している。ポートフォリオ https://fukiharasayaka.themedia.jp/
まずはライターを名乗るところから始まった
ーライターになった経緯を教えてください。
吹原:職場での人間関係に悩んで運輸会社の事務員を辞めた後、副業でできる仕事を探す中で、ライターという職を見つけました。
『ライター なるには』で検索すると、「名乗ればライターだ」と誰かが書いた記事を見つけて、とりあえずやってみようと思ったんです。それまではクラウドソーシングで数十円ほどの案件しか受けたことがなかったのですが、開業届を出して名刺をつくり、ライターを名乗り始めました。
ーもともと文章を書くことは好きだったんですか?
吹原:はい。以前はmixiやFacebookでかなり長文の日記を書いていました。それをみんなが面白がって読んでくれるのが嬉しかったんです。
ーライターを始めてから現在まで、働き方がどう変化したのか教えてください。
吹原:最初はクラウドソーシング経由で、キュレーションサイトの記事を書いて記名記事をためていました。ところが、「WELQ問題」をきっかけに私が書いていたキュレーションサイトもなくなり、記名記事がゼロになってしまいました。
困り果てつつ次のメディアを探していて、名古屋スタートアップが運営するニュースメディア「Nagoya Startup News」を見つけたんです。それから記名記事が増え、インタビューも実績として言えるようになり、ライター2年目くらいからお仕事が増えました。
しかし、手を広げすぎて常に小さい案件をたくさん抱える状態になってしまい、大変な思いをしました。3年目になった今は、大きな案件ももらえるようになり、受ける案件の数も少なくしています。
ー受ける案件はどういう基準で選ぶようにしているのですか?
吹原:多少なりとも、共感できたり興味があったりする記事を選ぶようにしていますね。たとえば、私は子供がいないので、育児メディアの記事を積極的に書くのは難しいです。やはり自分に関係ある記事の方が心から楽しんで書ける気がします。
自分の強みは誰もが読みやすいフラットな文章
ー名古屋スタートアップに応募した決め手はなんだったのでしょう?
吹原:ほかの会社とはなんだか違うなと思いました。だって、福利厚生に「お米食べ放題、ガム食べ放題」なんて書いてあったんですよ(笑)。かっちりしすぎたところではなさそうだと思い、気軽な気持ちで応募しました。
それからコメダで面接したときに初めて若目田に会ったのですが、若くて驚きました。それまで勤めていた会社はそれなりに年上の方が多かったし、当時はベンチャー企業やスタートアップについて何も知らなかったんです。
ーそうして「Nagoya Startup News」の記事を書き始めたのですね。どこかでライターとしての転機はありましたか?
吹原:ある日、若目田に「この記事は面白くない」と言われたんです。理由を聞くと、私の文章は長くて重複した内容が多く、よりシンプルにわかりやすくすべきとのことでした。言われてみるとたしかにそうで、目から鱗でしたね。それからは言われたことを意識して文章を書くようになりました。
今では、世代や職種を選ばず読みやすいという意味で、若目田からも「フラットな文章」と言ってもらえます。
ーたしかに吹原さんの文章は、つまずかずにスラスラ読める気がします。
吹原:「誰が読んでもわかりやすく」は、ライターを始めたときからずっと自分の中で貫いているんです。
そうする上で意識しているのは、自分がライター講座で教えている内容そのもの。「1文は50字以内」「無駄は徹底的に削る」「句読点の打ち方」など、基本的なことばかりです。
ー「Nagoya Startup News」の取材で記憶に残るエピソードを教えてください。
吹原:イギリス人の方が講師のセミナーのレポート記事を書いたときですね。もちろん英語で話されるし、話すスピードも速くてまったく聞き取れないんですよ。そこで、同時通訳できる装置をお借りしてなんとか内容を理解するんですけど、イヤホンで聞くので録音が残せないし、写真も撮らなくてはいけなくて……。
結局、写真を撮りつつイヤホンで聞いて、聞こえてきたことをすごい勢いでメモして、なんとか記事は書き上げました。大変すぎて一番思い出深い取材です(笑)。
ーその状況、想像すらしたくないですね……。その取材で何を学びましたか?
吹原:「何事もスムーズにいくはずはない、今日の取材で何か起こるかもしれない」と心づもりをするようになりました。たとえば、取材先に行くと一方向からしか撮影できない状況だったり、照明の色が悪くて写真映りがひどかったり、ライターはいろいろなハプニングに遭遇します。
しかし、心づもりをしておけば、予想外なことが起こってもパニックになりませんし、受け入れ方が違います。そういう経験を積み重ねて、まさかのことが起こっても臨機応変に対応できるようになりました。
micsはクリエイター同士が助け合って仕事ができる組織
ーmicsの魅力はなんだと思いますか?
吹原:私の所属は名古屋スタートアップですが、チームどみにおんやカチノデの方とも関わりがあるので、自分のできない領域の仕事をやってもらうことがあります。
ライターがビデオグラファーやデザイナーに仕事を依頼したいとき、誰にやってもらえばいいか、報酬の相場はどのくらいかなど、普通はわからないですよね。でもmicsという組織の中でほかの分野のクリエイターと繋がりが持てているので、困ったときは気軽に相談できます。
私は先日、カチノデの江坂さんにイベントのフライヤーをつくってもらいました。文字の上はお寺の屋根をイメージしたデザインらしくて、細かいところまでこだわっていますよね。このデザインは若者からもお年寄りからも非常に好評だったんです。
カチノデ 江坂につくってもらったフライヤー
ー今後、名古屋スタートアップやmicsにどう関わっていきたいですか?
吹原:やはり受けた恩は返したいと思っています。ほぼ実績がないライターだった私に数多くの記事の執筆やインタビューを任せてくれたし、他社のメディアに紹介していただいたこともありました。私は会社設立初期からずっといるので、もう実家みたいに思っていますよ(笑)。
ー最後に、ライターを目指している方に向けてメッセージをお願いします。
吹原:とりあえずやってみて、合うなら続けて、そうでなければやめればいいと思います。必要な資格もなく、「とりあえず」でできるのがライターのいいところですよね。私も「名乗ればライターになれる」からとりあえず始めて、ここまでやってきました。
また、ライターをやってみて初めてわかることがいろいろあります。たとえば、ライターは「自分の伝えたいことを書ける」と思っている人は多いですが、大半のライターさんはそうではありません。どちらかというと、自分の感想は後回しで、「誰かが伝えたいと思っていることを言葉にする」が近いと思います。
micsには、多様なメンバー、スキル、ナレッジが集まっています。なんだかおもしろそう、ちょっと興味がある。そんな方は、定期的に開催しているイベントにぜひ遊びにきてください。がっつり学びたい!という方は、3ヶ月ごとに開催しているmicsインターンや、ライティングについてゼロからイチを学ぶ「初心者向けライター研修プログラム#micsschool」にぜひ参加してみてください。
取材・文=中原 愛海
編集=吹原 紗矢佳