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秋野深 「ひかえめな魅力」【森町】(1日目)

今日から静岡県森町でのマイクロ・アート・ワーケーションがはじまる。
静岡県の中でも、特に西部は、写真家としての私にとっては、なぜかこれまで手薄なエリアだった。

写真家個人として、自分の撮影で何度となく伊豆半島へ出かけ、旅行会社の撮影ツアーの同行講師の仕事などで富士山麓へも何度となく訪れる機会があった。
これまで静岡県で多くを過ごした場所は、思い出してみると伊豆半島と富士山麓に限られ、それ以西の静岡県へもちろん行ったことはあるものの、撮影地として回を重ねて通った場所はまだない。

首都圏を拠点として、東北、北関東、山梨、長野、岐阜方面へ足を伸ばす機会は多かったが、本当に「どういうわけか」静岡県の富士山以西は、私にとって手薄なエリアになってしまっていた。

そんななか、不思議なもので今年はこの東海エリアへのご縁を立て続けにいただいている。
3月の静岡県北東端の小山町でのマイクロ・アート・ワーケーションを皮切りに、今回の県西部の森町。そして、さらに西の愛知県での景観啓発事業への参画も秋にひかえている。

今回1週間を過ごす森町は、2019年に一度訪れている。ただその時は、森町という自治体を意識していたわけではなく、紅葉撮影の名所として有名な小國神社を訪れただけだった。

森町は遠州の小京都と呼ばれ、古くから秋葉神社(火伏せ信仰)への宿場町として栄えたところだ。
町中にも周辺エリアにも、東に西に北に南に様々な歴史が色濃く線のように広がっているようだ。
ところが、初日の街の中心部の初見でも、観光地的な雰囲気が感じられるわけではない。小京都、または小江戸と呼ばれるような歴史的な街並みが残るところを訪れると、たいていはお土産物屋が並んでいたりするものだが、森町はそういう雰囲気の街ではない。ところどころにだけれど、古い家屋やレトロな外観の店舗が残されている、といったイメージだ。

初日の食事会に参加してくださった町長さんが、それを「はりぼての歴史ではなく」と表現されていたのが印象的だった。
眺めればわかりやすく訴えてくる歴史的情緒あふれる街ではなく、今の生活の中にひかえめな残り香のように歴史が漂う街。決して派手ではないけれど、まさに「はりぼてではない」、生活の息吹の中のひかえめな歴史風情が魅力であり個性だと言えるのかもしれない。

考えてもみれば、「森町」という名前にも、同じようなちょっと不思議な魅力が感じられないだろうか。「森」と「町」というとてもシンプルな2つの漢字だけで飾り気のようなものは感じられないものの、そのシンプルさがかえって、自治体の名称としてはひかえめでありながら個性的にも思えてくるのである。

もしかしたら、これから過ごす森町の魅力は、そこかしこにあるのかもしれないのに、ひかえめで、一見目立たないのかもしれない。
わかりやすいものに意識を奪われていると、見過ごしてしまうところにあるのかもしれない。

私個人の、大切な第一印象として、頭の片隅にそのことをしっかりと刻んで、明日からの森町での一瞬一瞬を大切に過ごしてみたい。

(カバー写真は、1週間お世話になるゲストハウス。築100年の町家)


【森町1日目】 「ひかえめな魅力」
【森町2日目】 「交通の要衝という価値は永遠か」
【森町3日目】 「ドローンと共に森の奥へ」
【森町4日目】 「私の小さな挑戦」
【森町5日目】 「森と町と太田川」
【森町6日目】 「塩の道をゆく」
【森町7日目】 「二歩目を踏み出す行動力」
【まとめ】 「この森と町のゆくえ」